「それでも僕は、月を綺麗だと思う。三十九話目。」
映画はとてもありがちなものだったのだが、僕は物語の中に入り込んでしまうタイプで、思わず最後のシーンで涙を流してしまった。近野はあの暗闇の中で僕のその涙に気づいたらしく、シアタールームを出ると少し心配そうな顔をしている。
「大丈夫?なんか思い出させたりしちゃった?」
「いや、別にそんなことはないよ。ただ終わり方が悲しくて少し泣いただけだから。」
「そっか。晃ってピュアだね。」
「いやそんなことはないぞ?今回の涙だけでそう決めつけるなんてまだまだ早いんじゃないか。」
こんなやりとりをしているうちに、映画で少し沈んでいたのも忘れてまた元気になった。僕に元気が戻ると近野はすかさず
「あのさ、これからご飯行ってから帰らない?ある友達も誘いたいし。」
と聞いてきた。僕はある友達の正体が知りたくて近野に質問を繰り返した。
「ある友達って誰?」
「それは会ってからのお楽しみ。」
「その人は俺の知ってる人か?」
「うん。」
「俺と同じ中学か?」
「うん。」
「じゃあ...俺と同じ小学校か?」
しびれを切らしたのか近野は
「そんなの会えばわかるでしょ。気になるんでしょ。なら決定ね。早く行こー」
と僕の左手を掴んで走り出した。そう解釈するのは間違ってるような気がしたが、近野の誘いを今更断ることもできないので仕方なく、ついて行った。