荒川河川敷の花火大会が終わり、浴衣姿の女の子たちが満足そうに家路を急ぐ頃、僕はなけなしの小銭をポケットに投げ入れ、十条駅のタワマンに併設されたテナントのひとつ、インド料理店「ベンディカ」へ足を運んだ。
小銭しか持ち合わせがなかったので、アイスコーヒーだけ頼むと肌の色が褐色をした家族連れの集団と鉢合わせした。明らかに南アジアのひとたちに見えた。向い合わせになった女性が、こちらの方をチラチラ見ている。子どもの背中も見える。コーヒーを啜っているとお店のオーナーがわざわざ挨拶に来た。「お久しぶりです。いつもありがとうございます!」僕の方はオーナーの顔をすっかり忘れてしまったが、赤羽に引っ越す前から「ベンディカ」にはよく通っていたので、オーナーの方が僕の事を覚えていてくれたのだった。「わたしの奥さんもあなたの事覚えているよ。今、家族で花火を見て来た帰り。いつも来てくれてありがとうございます」
オーナーは何度も僕に頭を下げた。以前に比べると、シュッとした感じでなかなかのイケメンだった。奥さんもこちらを見てニコニコしている。覚えてくれていたのは感動だった。
「また来ます!」そう言って店を後にした。