「どうして役者をやりたいの?」
そう訊かれたら私は「お芝居が好きだから」と即答する。
色々な人の人生を生きられるなんて、そんな面白いことないじゃないかと思うからだ。
しかし本当にそれが理由なのか?と最近考えることがある。確かに色々な役に出会って、自分がただ生きているだけじゃ到底できないような出来事を疑似体験できるのは事実で、それが楽しいと感じていることも事実だ。しかし学校の勉強をしているうちに、台本覚えなきゃ、こうしたら面白いんじゃないか、ここで泣かなきゃいけないのか。そう考えていることが増えてきていることにふと気付いた。もちろんプロの役者になる上で必要なこと、考えなくてはいけないこともたくさんある。全部自分の感情のままにやっていたら、それこそ面白くない。見ている側は置いてけぼりだし、自分も何をやっているのか、何をしたいのか分からなくなってしまう。けれどこれが楽しいのかと言われたら「はい。楽しいです!」と即答できる自信がない。
だからここで冒頭の問い「なぜ役者をやりたいのか」について改めて考えてみる。
まず役者をやりたいと思ったきっかけは何だろう。そうだ。高校の文化祭だ。
当時所属していた部活動では毎年文化祭でミュージカルの公演をしていた。高校三年生のとき、私は主役の少年役に選ばれた。(トリプルキャストだったが。)そして公演が終わったあと、同期の部員から「おばあちゃんが見に来てたんだけど、○○のあの場面で泣いちゃったって言ってた」と言われた。正直驚いた。そして”自分の芝居を見て泣いてくれた人がいた”という事実は、私を演劇の世界の虜にするのに充分だった。「もう一度、人の心を動かすことがしたい」という想いは大学進学後も消えず、途中で休学して今の養成校に通い始めたのだ。
それから、大学生だったときの経験も大きく影響していると気付く。
元々アニメが好きで、実家にいたころはよく録画して見ていたのだが、進学先の県では地上波アニメがほぼ全滅。サブスクも利用していなかったので、必然的にドラマや映画を見る機会が増えた。そして当時私には、精神的にかなりキツいときがあった。学校の勉強、日々の暮らし、バイト。雪が多く、度々自転車が使えないことがあったため、買い物やバイトに行くのも一苦労。家に一人でいるのは気楽だが寂しく、辛いことを話す相手もいなかった。そんなとき、大好きな漫画が原作のドラマが地上波で始まった。再現度が高くキャストも豪華で、毎週それを見るために生きていると言っても過言ではないレベルで楽しみにしていた。これまでにないくらいのめり込んで見た。あのドラマがあったから私は病むことなく生きられた。そして思った。自分もこんな風に誰かの人生を少しでも楽しくできるようになりたい。誰かが毎日を生きるためのエネルギーになるようなことがしたい。
思い返せば初めて舞台に立って何かをするのが楽しいと感じたのは年長の発表会でやったオペレッタだった。人前に出るのが苦手な私も「上手だったね。可愛かったね」と言ってもらえたことは素直に嬉しかった。舞台の上では恥ずかしいとか緊張するとか考えずに夢中で役になりきってやることができて、普段の自分ではなかったという感覚が幼いながらもあった。そこからずっと舞台の上は私にとって魔法の場所なのだ。
お芝居が好きなのは大前提。だけど「誰かの人生を少しでも楽しくしたい」ということも大きな理由で、そこにいる間は最強になれる魔法の場所が大好きなことも理由の一つだと思う。