とにかく明日のために少しでも西に行きたかった。
東名高速道路沿いに走ることはかなりの困難があった。
右へ左へと、街灯を頼りに地図を確かめつつ、246号線に乗ったのはすっかり夜になっていた。
「この国道なら高速と並んで走っているから、大きな街にも出るべ」
「この先に、大和市や海老名市、厚木市なんかがあるみたい」
「どの街もそこそこ大きいけど、どうかな、とにかく飯が先だべ」
しかし、どうかするとパーキングのあるレストランや食堂は右側にあったりして、2車線の左側からいきなり右折するには都合が悪かった。
「次!次に左側にファミレスでもあったらそこに入るべ」
「うん、左側にあることを願うよ」
しかし、左側に行燈が見えるのは、歩道際までせり出している暖簾の大衆食堂らしき店ばかりで、駐車場があるのかないのかさえはっきりしないモノばかりだった。
「ちょっと地図見てみるか」
信号待ちの時に、ヨーコの膝上にある地図に目をやった。
「厚木を越えるとたぶん山の中になっちゃうかもな」
「だとどうなるの?」
「明日、高速で一気に名古屋まで行きたいし、ここらで泊まらないと野宿ってことも・・」
「野宿?」
「新婚旅行で野宿は無いべ」
笑い事ではすまされない空気が車内に流れた。
「これは、相模川か」
「さっき渡った橋がそうかな?」
「これは、129号線と交差してるんだな」
「みたいだね」
南に向かえば厚木インターがある。
「待てよ、確かこのインター付近にホテルっぽいのがあったような気がするな」
「いつの話しさ?」
「うん、10年前・・・」
「あてにならないんじゃないの」
それでもインターチェンジに近いところに宿泊できるなら、翌日の行動が楽になると考え、いちかばちかの賭に出た。
「ほら、あった!」
インターチェンジの入り口を通りすぎた辺りに、それらしくネオンが見えた。
いったん、その宿の入り口を確かめにゆっくりと敷地を一周してみた。
「空き室あり、だってよ」
「でも、ここ・・・ラブホじゃないの?」
「いいじゃん、夫婦だもの」
「そうじゃなくて、新婚旅行で・・・ってとこが」
「よく見ろ、ラブホなんて看板、どこにも無いじゃんか」
「でも・・・」
「ほら、モーテルってなってるし。モーターホテルてのは海外じゃ車ごと宿泊できるっていう意味の立派な宿泊施設のことを言うんだぞ」
「ホント?」
「ホント!」
途中にあったコンビニエンスストアに戻り、夕飯となる食料を買い込み、ホテルに向かった。
「でも、まぁ、仕方ないね。疲れちゃったし」
「ああ、もう10時くらいになったろ」
「うん、10時過ぎてる」
「ラッキーだよ」
「なんで?」
「ああいうホテルは、10時過ぎになると宿泊料金に変わるべ」
「どうゆうこと?」
「10時前だと、休憩料金で、そのまま入れば休憩料金プラス宿泊料金ってことになるんだ」
「やけに詳しいね」
「そりゃそうだべ、なんていっても30だからな」
「へぇ、30になると詳しくなるもんなんだ」
「うん?なんだ、なんかやけにトゲがある言い方だな」
「いや、べぇつぅにぃ~」
「言うけどな、俺だってそれなりに経験はあるんだぞ。だいたいだな、この年で何も経験無い男のが怪しいべ」
「そりゃまそうだけど」
「だったら、黙ってついてこい!」
「はいはい」
周囲はホテルのネオンだけが唯一の灯りといってもいいくらいの暗がりだった。
一階の駐車スペースに車をバックで入れて、板を車の前に立てかけてナンバープレートを隠し、トランクや後部座席から着替え類を取り出した。
アルミ製のドアを開けて、すぐに靴を脱ぎ、そのまま狭い階段を上がって、部屋に入った。
「広~~~い!」
「うへぇ、こりゃまたなんともすごいね」
宿泊料金が平日6000円となっていた。
「しかも、やっす~い!」
「こんだけ広いのに安っ!」
アルミ製のドアや狭い階段からは想像ができないほど豪華な内装だった。
「トイレは?」
「風呂風呂!」
お互いに別々の扉を開けて、さらに驚いた。
「ウォシュレット!」
「ジャグジー!」
大型テレビやキングサイズのベッドに驚きながら、トイレや風呂の設備にも驚いている田舎夫婦であった。
「ラブホテル、侮れないかも知れないぞ」
「んだね」
「おい、この先も予約してる宿なんて無いし、この際、あちこちのこうしたホテルを泊まり歩くのもアリかもな」
「ん~考えておくわ」
2脚の椅子が置かれたサイドテーブルに、コンビニ袋を置いて夕食を始めた。
「こうしてると、なんだか高級ホテルのディナーみたいだべ」
「ん?まぁ、そうかな」
「なぁ、そう思うことも肝心かもだぞ」
「思うこと?」
「ああ、思いこむんだ。これは高級ディナー、ルームサービスのディナーってな」
「う~ん、どうみてもコンビニ弁当だけど」
「念じろ」
「はいはい」
食事を終えて、5~6人がまとめて入れる風呂を使い、両手を広げても端に当たらないベッドで目を閉じたのは、深夜をかなり過ぎていた。
翌朝、明けてもなお暗い部屋に灯りを入れようと、動きにくい内窓を開けた。
朝陽が入るかと思ったのだが、隣の非常階段が邪魔になっていたのと、どうやら北向きの窓だったらしく、ボンヤリと明るくなっただけだった。
「出るか」
「まだ、6時前だよ」
「早めの行動が幸運を呼ぶんだぞ。ほら、支度支度」
「朝ご飯は?」
「高速に乗って最初のSAかPAに寄ろう」
「夕べのコンビニに寄って」
「ああ、飲み物とかも必要だろうしな」
外に出ると太陽はもう熱を発するほど高く感じた。
暗闇では気が付かなかったが、すぐそばに川が流れていて、静かな朝に水音が響いていた。
「案外、静かなところだったんだな」
「うん、いい感じだったね」
と、振り返った建物は、内装とは大きくイメージが違っていた。
「ボロっ・・・」
「古っ・・・」
そうして二人は高速道路の厚木入り口を目指した。
対向車も先行車も無い道を、ゆっくりと走りだしたのは、GWのど真ん中5月4日のことだった。
・・・next

