「どこから来たの?」

名前の次に、互いに伝え合うパーソナルな情報だ。

時には名前より先に聞かれることだってある。


「日本から来たよ」

いつだって珍しいねと言われ、人によっては日本のことについて根掘り葉掘り聞いてくれる人もいる。

そんな時に僕は、サッカーの日本代表としてピッチに現れ、君が代を歌っている選手達のあの映像を思い出す。


「今、僕は日本代表の選手だ」


そんな純粋無垢な表情で、日本のことを聞かれたら、しっかりと伝えねば。と思うのだ。

東京。大阪。京都。北海道。沖縄。富士山。桜。寿司。ラーメン。神戸牛。お寺。着物。温泉。車。

挙げたらキリがないくらい、彼らの日本についての興味関心は多岐にわたる。

そんな状況において、最大のハズレくじが存在する。


「アニメ」だ。

しかも、そのくじを引く確率は高い。


鬼滅の刃。呪術廻戦。ドラゴンボール。ナルト。進撃の巨人。エヴァンゲリオン。ガンダム。鋼の錬金術師。

何ひとつ分からない。

ワンピースでさえ、ロビンが登場してから観るのをやめてしまったのだから、お手上げ状態なのだ。


フランスのニースにて、同部屋だったニュージーランド人がまさにそれだった。

自らを「オタク」と名乗り、明らかに今までとはレベルが違う雰囲気をぷんぷんに漂わせる男だった。


「アニメはよく観るの?」

馬鹿野郎。

考える前に口が滑ってしまった。

自ら火の車に飛び込んでしまったようなものだ。


「あのアニメ知ってる?」

「もちろん聞いたことはあるけど、観たことはないんだ」


このやりとりの無限ループだった。

これだけ分からないと言っているにも関わらず、彼の質問は止まらない。

この男は明らかに、何が何でも僕とアニメの話をしたがっている。


焦っていた。

こちらの手札を切らなければ。

絶対に何かある、思い出せ。

そうだ、冷静に考えれば1つや2つは出てくる。


「タッチって知ってる?」


そう発したコンマ数秒後に、自分が最悪のカードを提示してしまったことに気付く。


「なんだ、それは。。」


ニュージーランドのオタク代表が「タッチ」と聞き、信じられない表情を浮かべていた。

当たり前だこの野郎。

お前はいつの時代の名作の話をしてるんだ。


何故ロビンが登場する前のワンピースの話をしなかったんだ。

チョッパーやウソップが仲間に加わる時の話でもすれば、多少は盛り上がったはずだ。

或いは、テニスの王子様のツイストサーブでもお見舞いすれば、あれはどうやって打っているんだと喜んで聞いてきただろう。


あの時なんでこう言えなかったんだろう。

なんていうことはよくある話だが、あの場面でタッチはさすがに残念な日本人すぎる。


今年はワールドカップ・イヤー。

このままでは日本代表の選手として、ピッチには立てない。



YS