今回は、新型コロナウイルス感染症の話題です。

今回の新型コロナウイルス感染症 (2019-nCoV) は、基礎も臨床も、中国医学レベルの欧米並みの力を示したものだろう。

ランセットや、NEJMが軒並み競って、論文を載せている。

以前から、中国はしっかりサーベイランス組織を充実させていて、新規感染症の発症が無いかどうか?を、常に注意深く網をかけていたようだ。その成果が出たようだ。

日本では、肺炎何名、死亡者何名としか言わないが、これでは全体像が見えない。人から人へと感染するようになった経過もしっかりわかるように、論文が書かれている。

WHOも、中国発の疫学調査の進化に驚いたのではないか?

中国のサーベイランスが、地方病院の定点観察として機能したが、その成果が、論文になっていて、その公開も早いなあ~。

目的を持ったサーベイランスをいかに精度よく行うかの方法論は、科学としての重要性を増している。

住民の行動様式の変化や動向をウオッチするなどのサーベイランス体制づくりは、テロ予防なのにも使われてる。

同様に、サーベイランス体制を確立しておけば、新規感染症を早めにチェックすることにも利用できる。
たとえば、特徴的な病気の発症が局所的に変化していないか?について、病院サーベイランスによる継続的報告を義務付けておくなどである。

今回は、”死亡するウイルス肺炎” がキーワードのようで、中国は、この条件を満たす病気に対して、定期的なサーベイランスの網をかけたようだ。以前のサーズのまごつきから比べるとすごい変化だ。
また、論文著者がほとんど、中国人で占められ、サポートの欧米人の名前がないことも注目できる。


たとえば、以下のような、新型コロナの基礎研究においても、欧米人の名前がない。当然、EiPSなどでもわかるが、最高レベルの技術を誇る今の中国医学なのだから、コロナウイルス遺伝子解析などは、おちゃのこさいさいで当たり前か?

Genomic characterisation and epidemiology of 2019 novel coronavirus: implications for virus origins and receptor binding.
Lu R, Zhao X, Li J, Niu P, Yang B, Wu H, Wang W, Song H, Huang B, Zhu N, Bi Y, Ma X, Zhan F, Wang L, Hu T, Zhou H, Hu Z, Zhou W, Zhao L, Chen J, Meng Y, Wang J, Lin Y, Yuan J, Xie Z, Ma J, Liu WJ, Wang D, Xu W, Holmes EC, Gao GF, Wu G, Chen W, Shi W, Tan W.
Lancet. 2020 Jan 30. pii: S0140-6736(20)30251-8. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30251-8. [Epub ahead of print]
PMID: 32007145


さて、臨床の話にもどそう。
日本でも、結核やはしか発症などでは、診断した医師は保健所報告の義務を負うが、”死亡したウイルス性肺炎”というくくりでの報告義務を、病院に負わせるのは難しいだろう。

政府や医師会などの医師たちも、特殊な病気の早期発見のためにサーベイランス体制を、日本でどう運営できるか?など、熱心に議論している。
しかし、個別性の高い日本は案外、難しいと思う。

報告集計に、病気を理解していない個性の強い保健所職員などが入ると、サーベイランスが機能しにくい。
保健所職員が有能なら問題がないが、思い込みが強く知性に欠ける職員がいると、病気を理解せず、報告集計作業にバイアスがかかる。
しかし、中国のように、国家権力が強いと、人々を管理したり、動かすことができるということなのだろうか?

以下の論文は、Chen Nらによる、1病院 (Tuberculosis and Respiratory Department, Wuhan Jinyintan Hospital, Wuhan, China. 武漢ジンインタン病院の結核呼吸器科)における臨床観察であり、臨床医には読みやすい。
元の英文がシンプルだから、グーグル訳も迷わないだろう。

Lancet. 2020 Jan 30. pii: S0140-6736(20)30211-7. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30211-7. [Epub ahead of print]
Epidemiological and clinical characteristics of 99 cases of 2019 novel coronavirus pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study.

診断は、PCRによるウイルスの検出である。Jan 25, 2020.まで観察しており、ついこの間までの症例を集めている。

99 人の患者で、 49 (49%)は、Huanan seafood market.に行っている。
平均年齢は、 55·5 years (SD 13·1), 男67女32人、
半分に慢性疾患あり50 (51%)

グーグル訳も以下の通り

fever (82 [83%] patients), cough (81 [82%] patients), shortness of breath (31 [31%] patients), muscle ache (11 [11%] patients), confusion (nine [9%] patients), headache (eight [8%] patients), sore throat (five [5%] patients), rhinorrhoea (four [4%] patients), chest pain (two [2%] patients), diarrhoea (two [2%] patients), and nausea and vomiting (one [1%] patient).
d multiple mottling and ground-glass opacity, and one (1%) patient had pneumothorax. 17 (17%) patients developed acute respiratory distress syndrome and, among them, 11 (11%) patients worsened in a short period of time and died of multiple organ failure.

50人(51%)の患者が慢性疾患を患っていました。患者は、発熱 [83%]、咳 [82%]患者、息切れ [31%])、筋肉痛 [11%]、混乱 [9%]、頭痛 [8%]、咽頭痛[5%]、鼻漏 [4%]、胸痛 [2%]、下痢 [2%]、悪心および嘔吐 [1%]。
画像検査によると、(75%)の患者が両側肺炎を示し、(14%)の患者が複数の斑点とすりガラス状の混濁を示し、(1%)の患者が気胸を示しました。 17%の患者が急性呼吸tress迫症候群を発症し、11人(11%)の患者が短期間で悪化し、多臓器不全で死亡しました。・・・
(入院重症例の1割の死亡率であった。これは、他の人への感染予防目的の隔離入院とは違う)

MuLBSTAスコア、ウイルス性肺炎の死亡率を予測するための早期警告モデルが良く機能しました。

病気の症状頻度は、全体の調査対象の選択基準の分母が大事だが、今回の論文は、緊急性を優先している。

どのような症状の患者さんを検査対象に選んだのかを知りたいが、いろいろ、調査全体については続報で出てくるであろう。

さて、上記に示した遺伝子解析論文Abstractであるが、以下にコピーしておく。
それぞれでアクセスしてほしい。
(2019-nCoV)は、こうもりから来たとある。
過去のCoVとの遺伝子変異を比較している。、


In late December, 2019, patients presenting with viral pneumonia due to an unidentified microbial agent were reported in Wuhan, China. A novel coronavirus was subsequently identified as the causative pathogen, provisionally named 2019 novel coronavirus (2019-nCoV). As of Jan 26, 2020, more than 2000 cases of 2019-nCoV infection have been confirmed, most of which involved people living in or visiting Wuhan, and human-to-human transmission has been confirmed.

METHODS:

We did next-generation sequencing of samples from bronchoalveolar lavage fluid and cultured isolates from nine inpatients, eight of whom had visited the Huanan seafood market in Wuhan. Complete and partial 2019-nCoV genome sequences were obtained from these individuals. Viral contigs were connected using Sanger sequencing to obtain the full-length genomes, with the terminal regions determined by rapid amplification of cDNA ends. Phylogenetic analysis of these 2019-nCoV genomes and those of other coronaviruses was used to determine the evolutionary history of the virus and help infer its likely origin. Homology modelling was done to explore the likely receptor-binding properties of the virus.

FINDINGS:

The ten genome sequences of 2019-nCoV obtained from the nine patients were extremely similar, exhibiting more than 99·98% sequence identity. Notably, 2019-nCoV was closely related (with 88% identity) to two bat-derived severe acute respiratory syndrome (SARS)-like coronaviruses, bat-SL-CoVZC45 and bat-SL-CoVZXC21, collected in 2018 in Zhoushan, eastern China, but were more distant from SARS-CoV (about 79%) and MERS-CoV (about 50%). Phylogenetic analysis revealed that 2019-nCoV fell within the subgenus Sarbecovirus of the genus Betacoronavirus, with a relatively long branch length to its closest relatives bat-SL-CoVZC45 and bat-SL-CoVZXC21, and was genetically distinct from SARS-CoV. Notably, homology modelling revealed that 2019-nCoV had a similar receptor-binding domain structure to that of SARS-CoV, despite amino acid variation at some key residues.

INTERPRETATION:

2019-nCoV is sufficiently divergent from SARS-CoV to be considered a new human-infecting betacoronavirus. Although our phylogenetic analysis suggests that bats might be the original host of this virus, an animal sold at the seafood market in Wuhan might represent an intermediate host facilitating the emergence of the virus in humans. Importantly, structural analysis suggests that 2019-nCoV might be able to bind to the angiotensin-converting enzyme 2 receptor in humans. The future evolution, adaptation, and spread of this virus warrant urgent investigation.

FUNDING:

National Key Research and Development Program of China, National Major Project for Control and Prevention of Infectious Disease in China, Chinese Academy of Sciences, Shandong First Medical University.

興味あることに、変異ウイルスが、人の細胞に侵入する際、 angiotensin-converting enzyme 2 receptorを使うという事実だ(下線部分)。
アンジオテンシンII受容体をブロックする薬(拮抗薬)は、降圧剤である。

ウイルス感染症が、人の血圧調節機能の受容体と関連することは、今後も注目だろう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%AA%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%B3%E5%A4%89%E6%8F%9B%E9%85%B5%E7%B4%A0%E9%98%BB%E5%AE%B3%E8%96%AC



追記
ウキペディアに、以下のような説明がありました。
人を守るために、血圧をあげる物質があるのです。
それが、細胞にあるアンギオテンシンII受容体です。

そもそもレニン-アンギオテンシンーアルドステロン系は塩分とそれに伴う水分の喪失により循環血流量および血圧が低下した場合に重要臓器の循環血流量を確保するために作動する、主として陸生哺乳類で進化した系統である。したがって、現代人のように塩分が過多の状況ではレニンおよびアンギオテンシンIIの分泌はもともと抑制されている。従って、基本的に塩分過多の高血圧症例ではアンギオテンシンII変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)による降圧効果は十分でない。このため、現時点の本態性高血圧の治療は、依然として塩分制限が中心であり、これにカルシウム拮抗剤や利尿剤とARBを組み合わせた配合錠が広く使われるようになっている。





2月3日のNHKニュースでは、賀来満夫教授の話を紹介していた。賀来先生は、元東北大の教授で、内科の臨床医だ。
呼吸器感染症の専門家だから、極端なことは言わない。
今日の教授は、人や物流の流れを止めるのは経済的損失が大きいと言い、次に感染防御対策の重要性をあげ、結局、バランスの良い対策をすべきとの常識的結論だった。

アナウンサーが、”恐れ過ぎず注意する”という方針も、結局、何を言っているのかわからないが・・・。

米国などが中国人の入国を禁止したのは、以前の経験から、人の間をコロナウイルスがめぐっていくうちに、病原性が変化することをふまえての対策ではないか?と思う。つまり、ウイルスが変異して、病原性の低い状態になる可能性がある。
ウイルスにとっては、感染した人が重症化するより、鼻粘膜などの局所感染で全身反応を起こさない方が有利なのだ。
はしかを考えよ。はしかはすごい勢いで感染しつづけるけど、子供が一旦感染を経験すると、もうはしかウイルスはその子にとりつけない。だから、はしかウイルスにとっては不利だ。
人は治し方を覚えてしまう。

そこへいくと、インフルエンザウイルスはすごい。人から人へと毎年、移っていける。そして感染者に全身免疫を惹起しない。
鼻粘膜の表在感染という選択肢を、インフルエンザウイルスは選んだ。
今後も新型インフルエンザは出てくると思うが、とんでもない感染症にはならないだろう。

むしろ、怖いのは、人が今まで感染したことのない病原体だと思う。
たとえば、深海にしかいない病原体とか、特殊な地方の特殊な動物や植物がもっていた病原体が変異して、感染した人が重症化する可能性はある。
未知の菌を研究している人とかが、危ないような気がする。
人の間にすでに、でまわっている病原体なら、だれかが免疫をうまく発動できて生き延びる。

しかし、人の免疫は多様性があり、誰かが生き延びるようになっている。
リンパ球のTCRは、そのために構築されたしくみである。

武漢から帰国した日本人が、最初のコロナウイルス検査は、咽頭ぬぐい駅検査が陰性で、以後、肺炎になり2回目検査の痰から陽性であった。
咽頭より、痰の方がウイルス量は多いと思われる。
肺内でウイルスが増えるからだ。
しかし、患者さんが痰が出せる状態であることから、人工呼吸器がついているような重症化例ではないだろう。
こうした病態の情報が全くでていないが、日本人死亡例がでるかどうか?が大事だろう。
約500人の帰国者が、どのような病態分布になるのか?答えはまもなく出る。
いづれにしろ、どのような感染症なのか?時間が解決する。

サーズの時は、満員のエレベーターが危険な場所のようだった。
マスクは予防効果がある。
すれ違いざまに、他人のくしゃみや咳を浴びないようにしたいが、呼吸器へのウイルス吸入による感染で、物品に少量付着したもウイルスからは可能性が少ない
可能性の高さをその場で考えるのは、臨床医の勘と経験だと思います。

感染症予防策のうち、どれを選択実行するか?目の前の患者さんをどのくらいの精度で診断するか?など、予めの知識をどの順で採用するか?が大事です。知識を持ってるだけでは十分でなく、ここは経験も必要です。以前のコロナウイルス騒ぎの経験を、皆、生かしていると思います。欧米を見習って、日本だけ行きすぎない事が大事です。

前回のサーズ騒ぎの時は、ベトナムでは病室の窓を解放して、ウイルスの拡散をはかりました。一方、集中治療室で人工呼吸装着している呼吸不全患者さんでは、病日がたってもウイルスが減少して行かない状態でした。ウイルス感染細胞に対して、生体の攻撃が過剰となり、制御コントロール障害となるようです。人工呼吸器装着は、ウイルスが室内に漏れ、医療関係者への感染のリスクが高いです。呼吸不全となる重症肺炎の治療としての人工呼吸器装着は、技術的にも人手と経験を要する難しい治療です。人工的圧力で肺胞を広げると、急性肺胞障害が起きてきて更なる悪化が起きるので、ここにも対策が必要です。