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一喜一憂・・・

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残念な高広・・

高広が小学生の時、チョコレート業界が企てた『バレンタインデー』などとは誕生したばかりであまり知られていなかった。女子の間でチラチラ流行り始めた感じの頃であった。ましてや田舎町の男子小学生の高広など知る由もない。高広の悩み抜いた返事、「うん、嬉しい。本当に嬉しいけど・・・・、こんな事これっきりにして欲しいんだ」と聞かされた重本さんはショックで目の前の高広をじっと見つめるばかりだった。彼女は自分が彼に好意を持っているの事に高広は迷惑しているのだという激痛にも似た感情が徐々に湧いてくる。彼女は乱れた始めた感情を高広に悟られぬように『わかった、ゴメンね』と言い残し高広に後ろを向け勢いよく走り出した。『私、高広君が好きだし・・』『高広君だって私のこと嫌いだなんて思っていなかった・・』『どうしてこんなに冷たく突き放されるのだろう』などといろんな事を考えながら人気の無い校舎の裏まで行きそれまで我慢していた涙を流した。

片や一人取り残された高広は複雑な心境だった。重本さんはどうしてあんなに悲しそうにしていたんだろう・・・。どうしていきなり走り去ってしまったのだろう・・。その日、高広は沈んだ気持ちを引きづったまま家に帰り夕食を迎えた。元気の無い高広にマサ子が明るい声をかける「高広、ご飯食べねきゃもっと元気なくなるよ」しかし高広はご飯を箸で遊ぶようにしながあまり食べようとしない。その日は兄の紀夫は学習塾に行っており二人きりの夕食だった。高広は彼だけでは解決できない様を少しづつマサ子に話しはじめる。話のほぼ半分位を聞いた処でマサ子はバレンタインデーを知らなかった我が子を悟った。更に母子家庭である事を気にしていた我が子に居た堪れない気持ちでいっぱいになった。

困った高広ー3

高広は重本さんから貰った、箱の中に入ったチョコについてどう彼女にリアクションするか考えた。夕ご飯の時もお風呂の時も・・・ひたすら悩み考えた。高広は寝床に入っても同じ状態ではあるがついに意識が遠のきはじめる。このまま明日を迎えてよいはずがない・・・。しかし何のアイディアも浮かばず彼にとっては一瞬の時であったかのような夜は終わり朝がちゃんとやってきてしまう。高広はいつものように登校しいつものようにクラスメイトと言葉を交わし重本さんが教室に入って来るのを俄に待つ。「おはよう」と高広は不意をつかれた形で重本さんから声を掛けられる。「あっ、おっおはよう」と高広はいつものダメ癖が出てしまう。「私が渡したの見てくれた」と重本さんは少し照れ混じりの顔で高広に確認する。「うん、そのことでちょっと話したくて・・・、今日放課後って、いい?」「いいわよ、でも今日はクラブやってるから美術室は駄目だわ」「じゃ、プールの入口でもいい」高広はこの時期誰も近寄らないプール棟の入り口を指定する。「うん、わかった。じゃ放課後ね」と彼女は明るく答え長く伸びた黒髪を翻し向きを変え自分の席に向かった。

高広は放課後彼女に何と言おうか授業中もずっと考えている。貧乏だから、チョコ買えないから、僕は・・・。そんな事は全くないが、このまま繰り返し重本さんがチョコを僕に買ってくれるのは忍びない。「そうだやはり今回のお礼と、繰り返しチョコを貰うのだけは辞退しよう。」高広は午後の授業が終わるころには心の中でそう決めていた。

プール棟の入り口は軒はあるが半屋外なのでこの時期風が吹くと肌寒い。重本さんを待つこと5分、彼女は小走りに教室棟からやって来る。1年生の時とは違い高広の身長は重本さんよりほんの僅か低い位だ。少し息切れした彼女は高広に近づき「お待たせ」と一言。「あのっ、昨日はありがと・・・、チョコ、の箱・・」高広は本当に哀しい位いざという時に弱い子だった。「チョコ、食べてくれた」「いや、今日食べる、ホントにありがと」「うん、山岡君チョコ嬉しい?」「うん、嬉しい。本当に嬉しいけど・・・・、こんな事これっきりにして欲しいんだ」高広は勇気を出して言う、その瞬間彼女は途方に暮れんばかりに茫然と高広を睨むように見つめる。

困った高広ー2

高広は重本さんから預かった箱を紙袋に入れ胸に抱きかかえるが如く大切に持って帰る。いつもと同じ通学路の

帰り道を彼は今日ほど長く感じたことは多分なかった。帰って一目散に自分の部屋に入り紙袋を学習机の上に置きゆっくり中から箱を取り出す。部屋の電気に照らされる箱はピンク地に薄ブルーのシャボン玉柄で包装されている。高広は中に何が入っているか暫く考えてみるがやはり全く見当がつかない。おそるおそる包装紙が止めてあるセロテープを剥がし、まるできちんと作られた折り紙をほどくようにゆっくりと丁寧に広げ始める。3枚目を広げたところで箱が見えてきた。箱は茶色の普通の箱で特に気遣いを感じる体裁ではない。包装紙を全て取り除き裸の箱が寂しそうに机上に載っている。高広は両手で箱の蓋に手をやる、そしてゆっくりと上に持ち上げる「あぁ~、」箱の中には高広が大好きなアーモンドチョコと板チョコがお行儀よく揃って入っている。高広は複雑な気持ちになる、「何故チョコ?を重本さんがくれるの?俺貧乏と思われたのかなー・・・?」高広は心の中で呟く。山岡家は貧乏ではなかったがマサ子から事あるごとに「お金が無いから、節約しなさい」と高広は言われていた、彼はマサ子に洗脳され自分の家族は普通より若干貧乏であると思い込んでいたのだ。更に母子家庭や生活保護家庭には毎学期末市役所からの補助で学習道具や助成金が手渡される。高広のクラスにはもう一人同じ様な子が居た。高広はクラス全員の前でそれらを手にする度に「母子家庭=貧乏」を公表されているかのように思っていた。友達の庄本は「高広いいな~、毎回そんなの貰えてさー」などと嫌味っぽい声をかけられたこともあった。このチョコを彼女に返すのは明らかによくない。でもチョコ位買うお金はあるし・・・・。どうしよう。どうしよう。

高広には重本さんの本意が判らなかった。

困った高広-1

高広が小学3年生になった2月のある日のお昼休み、重本さんから声を掛けられる「山岡君今日の放課後、帰る前に少し時間もらっていいかな」、高広は突然の誘いにビックリしながら「うん、いいけど・・・・」と次の言葉を出せないまま飲み込んでしまう。彼はそのあと午後の授業などまるで頭に入らず彼女から誘われたわけをああでもない、こうでもないと考えてみる。しかし確たる答えも導き出せないままとても不安であり楽しみでもある放課後がやってくる。

授業終了のチャイムが鳴り三々五々クラスメイトたちは帰宅し始める。そんな中、高広の処に重本さんがやってきて「山岡君、あと10分位経ったら美術室にきてくれる・・」と、さも学校行事を告げるかのような言い回しで喋ってくる。その態度に合わせる様に「わかった」と高広は一言だけ返す。平屋で川の字、3棟からなる小学校で美術室は高広たちから一番遠い棟の端っこに位置している。重本さんは美術部に所属していたが今日は部活動が無い日なので部屋の電気は点いておらず廊下にも人気は無く静まりかえっていた。高広は重本さんのいうとおり美術室に到着し入口の引き戸を開ける。夕方のうす暗さもあり中の様子は一瞬では伺えなかった。少し目を凝らして見回すと一番後ろの真ん中に重本さんが佇んでいる。「山岡君ごめんね・・・呼んじゃって」重本さんが先に声を掛けてくる「うん、いや・・・いいんだ。僕だって何もないから・・・」と言いながら高広は彼女に向かってゆっくり歩き出す。高広が自分の近くまで来たのを確認して「実はね、これ山岡君に渡したくって」と言いながら、後ろ手にしていた両手を高広の前に彼女は差し出す。そのシュッと伸びた指と白い手のひらには丁度収まる程の箱が載っていた。「何これ」、「だから・・・これ山岡君に渡したくて・・・」いつもは淡々と喋る彼女が何だか少し恥ずかしそうに言う。高広はどう言っていいか判らず、焦りながら「何が入ってんの」と、とんでもなくデリカシーの無いことを言ってしまう。高広は焦ると一瞬のリアクションが出来ず行きあたりばったりな事を言ってしまう癖がある。母のマサ子からは焦っても落ち着いてひと息しながら少し考えて喋るよう厳しく言われていた。しかしそれはまるでできていなかったのが証拠にちゃんと今日も失敗している。「だから~、山岡君に渡したくて・・・お願い、持って帰って!」と今度は逆にいつもより強い口調で高広に言いながら彼女は高広の手を取り箱を握らせる。「あっ、わかった。持って帰るから・・・、ありがと。」と何ともそっけない返事をする。「箱、帰ったらちゃんと開けてね、絶対今日開けてね」と彼女は最初の少し恥ずかし喋り口調に戻る。そう言うと重本さんは急ぐように美術室を後にする。残された高広は大好きな重本さんから預かった大切な箱を観ながら踊る心を沈めるのに懸命だった。

成れの果て

懲りない男3人のひとり、東村はマサ子から借金した後ろめたさとマサ子の近所で自分が噂の人となっていることを察し行動を慎んだ、結果山岡家と自然に疎遠になってしまう。そうなるとマサ子の勤務先先輩の村田か、過去マサ子とお見合い実績のある野辺田守男、この二人に戦いは絞られる。

公務員である村田とマサ子は土曜日午後と日、祝日が休日であり野辺田は仕事柄、土、日、祝日が稼ぎ時で忙しい。そんな流れから彼らが山岡家へやってくる規則めいた流れが自然にできてくる。

村田は土曜日マサ子を自分の車で送りそのまま山岡家へ2泊し翌月曜日マサ子と一緒に勤務先近くまで車で行くようになる。山岡家には応接室(今でいうゲストルーム?)があり村田はそこを使わせてもらっていた。いわばお抱え運ちゃんを泊めている・・?みたいな感じではあるが子供二人を可愛がってくれる彼をマサ子は快く思っていた。片や野辺田は平日の夜、3日~4日の割合で山岡家へやってきて紀夫や高広をマサ子と一緒に連れ出し、ほぼ毎回、ホーリングと食事に連れて行った。郊外レストランから高級レストラン・割烹まで、金持ちの子供でも経験できないような平日の夜を田舎少年二人は過ごした。当時、ボーリングはブームで山岡家から車で30分以内に10施設近くあった。野辺田のおかげでマサ子と少年二人は短期間でボーリングの腕をグングンあげてゆく。

そんな日々、3ヵ月位経ったある夜マサ子へ東村から電話が入る。「マッちゃんごめんよ。僕の会社いろいろやったけどやっぱり駄目みたいなんだ・・。だから僕・・・、暫く遠い処へ行くから。でも約束はちゃんと守るから。落ち着いたら連絡する・・・。本当にごめんよ・・・。」と囁くように言い公衆電話を静かに切った。マサ子は受話器を持ったまま暫く茫然としてる。彼女は音信不通の東村は七転八倒しながらも必ず復活すると堅く信じていた。それが・・・・。行くあてもなくさまよう東村の後姿がマサ子の空白の脳裏に浮かぶ。彼女は切なさの大きな波に襲われ「そんなの可愛そうじゃない。どうしてそんなことになっちゃうの・・・」心の中で呟く。マサ子は東村を安否する気持ちで全てが支配される。貸したお金の事など微塵も考えていなかった。

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