天才黒人ピアニストが、白人(イタリア系)の用心棒兼ドライバーを雇い、差別と偏見がはびこる南部へツアーに出かけるお話。さまざまなトラブルに見舞われながら、ピアニストであるドクター・シャーリーと、用心棒のトニーの心が通い合っていく様子が描かれていく。

グリーンブック公式サイトより)

 

さて、今回の注目フードは、その道中でケンタッキー州にさしかかったときのこと。用心棒のトニーが「ケンタッキー州に来たんだからフライドチキン食べなきゃ!」と言ってKFCに立ち寄るのだ。

バーレルを運転席の横に置き、手づかみでフライドチキンを食べながら運転するトニー。それを見て、後部座席で眉をひそめるシャーリー。トニーに「1つ食べろ」と勧められても、頑なに断るのだ。

 

もともとフライドチキンという食べ物は、アメリカでは肉体労働が主な仕事だった黒人奴隷のソウルフードだったという。だから、食べろと言っても断るシャーリーに、トニーの口からは「黒人なんだからフライドチキンが好きなはずだろ」なんて言葉がついて出てしまう。

これも偏見なのだろうか。「日本人なんだから鮨が好きでしょ」「イタリア人なんだからピザやパスタばっかり食べてるんでしょ」なんていう、文化的傾向のひとつとして、今でも私たちだって軽く口にしてしまいそうな表現だが、国籍ではなく人種で判断していることと、アメリカの奴隷制度という暗い歴史の上にできた食文化だから、言われる方としては複雑な思いがあるのかもしれない。

KFC公式サイトより)

 

それにしても、トニーがむしゃむしゃと乱暴にチキンにかぶりつく様が、なんとも美味しそうで羨ましく感じるのである。あんな食べ方、口の周りや指が油まみれになることを考えると、なかなか実行できない。しかも運転中…ハンドルはどれだけベタベタになっちゃっているんだろう…。

そんな現実的なことを考えると、お上品なシャーリーの気持ちもよくわかる。「なにも運転しながら食べなくても…」「食べた後の骨はどうするんだ!?」とかね。

食べたあとのベタベタの指は舐める!(Finger lickin' good!)食べた後の骨は窓から投げ捨てる!

こんな豪快な食べ方、一度でいいからやってみたい。映画を観た後、バーレルを買い込んで、指の油なんか気にせずに豪快にかぶりつきたくなること間違いなし。

 

余談だが、「チキンの骨は投げ捨ててもいいけれど、飲み終えたドリンクカップを捨てるのは許さない」、このシャーリーの姿勢、ちょっと笑ってしまった。制作会社としてのコンプライアンスへの配慮なのだろうか…笑

 

なんちゃってレシピ【recipe】

ケンタッキーフライドチキンでバーレルを買ってくるだけ!

トマトジュースとウォッカのカクテル、ブラディ・メアリー。アメリカでは食前酒として、あるいは二日酔いの朝の迎え酒としてよく飲まれるカクテルだ。

食前酒を飲む習慣のない日本人には、あまり馴染みのない飲み物かもしれない。たまにホテルのバーやなんかでちょっとした待ち時間をつぶさなくてはならないとき、空腹に飲んでも酔いすぎないものを…と思って頼んでみたりすると、出てくるのはロンググラスのスタイリッシュなグラスにカットレモンが添えられた、上品なカクテル。トマトとレモンの爽やかな味わいを、品よく楚々といただくものだと思っていた。

 

クエンティン・タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でブラッド・ピットが飲むのは、そんなイメージとは真逆の、カジュアルで素朴なブラディ・メアリーだった。

ドロッとした、まさに血のように赤い液体に、大きなセロリがどーんと突き刺さっているのだ。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド公式サイトより)

 

映画の冒頭、レオナルド・ディカプリオ扮する俳優リック・ダルトンが、映画プロデューサーを演じるアル・パチーノと待ち合わせをする場面。スタントマン、クリフ・ブース役のブラッド・ピットは、Tシャツにデニムジャケットという普段着の装いで、カウンターに肘をつき、セロリで無造作にかき混ぜたりしながらブラディ・メアリーを飲んでいる。途中でその真っ赤な液体に浸ったセロリを、豪快にかじりもする。その姿が、粗野なのにそれでいてなんともキュートなのである。

 

タバスコと胡椒の効いたトマトジュースにセロリ…なるほどね。ガスパチョみたいで美味しそう。

普段着の日常に気負いなく飲めるブラディ・メアリーには、グラスにどーんっと突き刺さったセロリが必要なのかもしれない。

 

ちなみに映画の中盤でも、この飲み物が再度登場する。クリフ・ブース(ブラッド・ピット)が殺したと噂われている元妻との回想シーン。水着でデッキに横たわる彼女の手には、セロリが刺さったブラディ・メアリーが。

二人は言い争いをしていて、「このあと彼女を船から突き落としちゃったのかも…?」と思わせる、あまり後味のよくないシーンだが、仲の良かったときには二人して好きだった飲み物だったのかなと、なにか意味深なメッセージを想像してしまう。たった2シーンで出てくる、ちょっとした小道具に過ぎないのに。そのくらいにインパクトのある、ブラディ・メアリーだったのだ。

なんちゃってレシピ【recipe】

グラスの縁をレモンで濡らして、塩コショウをまとわせる。
氷を入れて、ウォッカ(45ml)・トマトジュース(100ml)・レモン汁(5ml)を注いで混ぜる。
適当な長さに切ったセロリを挿せば出来上がり。
飲むときには、胡椒やタバスコでお好みの味に調味して。