日本語で「はし」という文字をみたとき、橋なのか箸なのか端なのか、その発音や漢字の表記をみなければ判別できない。そこが日本語の難しさの1つでもあると思うが、その日本語を扱う日本人ですらそれをしっかりと活用できているかと問われると、なかなか「YES」といえるような状況ではないだろう。日本人ですらそのような状況なのだから、その言語を学習する外国人はもっと大変である。「日本の駐車場はいつも励ましてくれる。『まえむきに」と」。しかし実際には「前向きに」つまり、車を停止する際は頭を前にして止めるようにしてくださいということで、前向きに頑張ってくださいという意味ではない。

 看護師として働く職場でも似たようなことが発生したことがある。「W/C移乗時、ふらつきなし」という記載に対しある先輩が、これトイレってこと?と訪ねてきた。いっている意味が全然理解できなかった。自分としてはW/C=車いすと考え記載したからだ。しかし、その場は救命。自分がW/Cの表記を学んだのはリハビリ病棟。やはり、移乗や移送などトランスが多い現場。そこでの表記が他の病棟へ浸透しているとは限らないわけだ。

 言葉をみたときの解釈は、その人の専門性はもちろんのこと、そのときの気分にも左右されるだろう。positiveな気分だったからこそ、「前向き駐車」を励ましの「前向き」に捕らえることが出来たのだ。その場その場に応じた言葉の選択はもちろんのこと、日々の生活をpositiveに捕らえることが出来るような「解釈力」をこの本から学ぶことが出来る。


日本人の知らない日本語


ノマドワーカーという生き方

立花 岳志 著

 「ノマド」とは遊牧民という意味を持ち、そこから働く場所=会社という特定の場所を持たず働く人のことを「ノマドワーカー」とされている。この著者は17年間働いていた会社を辞めて「ブロガー」として生きることを決め、それが一つの「ノマドワーカー」としての働き方になっているのだと著者はいう。

 彼がブログで表現するものは、IT・本・食事・ダイエット・・・と数多くの物に及んでいる。それは、彼が会社で働いていたときにこのままではまずいという危機感からBlogを人生を変えるツールにしようと捕らえどのように戦略的に活用していけば良いのかを考え利用してきたことに原点がある。翻訳を学び、それを生かせない会社で働き文章を書きたいと感じていた彼に自由にそれが行える場が与えられ、それは創造を解放する場でもあった。

 解き放たれた創造力はその場にとどまらず、twitter・facebookといったSNSへも解放されたことで、他者による情報流入をうけ 、著者の放ったアートが装飾されさらなる高みへ昇華し、新たな創造へと変化する。

 この自分自身の発信力・創造力を今のIT社会でどのように生かし強力な創造力を発揮していけば良いのかを実例を用いて解説しているのが本著である。

大切な人の「こころの病」に気づく 今すぐできる問診票付 (朝日新書)

末安 民生著


前回紹介した「眠らぬ夜の精神科」は医師の視点から書かれたものであるが、この「大切な人のこころの病に気づく」は看護師の目線から書かれている。医師の目線と看護師の目線の違いというのはやはり端的にいえば疾病を見るか人を見るかである。特にこの本の中で目を引くのは疾患を抱えた家族や友人、恋人に対してどのように接したら良いのか、どのような対策があるのか、相談の場から治療中のケア方法まで事細かに書かれている。これは、患者自身のケア力を高めるだけではなく、周囲のセルフケア力を高めることにもつながる。

メランコリー親和型という言葉を聞いたことがある人は少なくないだろう。精神疾患にかかりやすい性格だと言われている。しかし可能性の観点から考えると大事なのは本書でも述べられている通り「私たちが医療の現場で感じるのは、精神科を受診する人に共通する特徴などないということです。性別や年齢、性格、職業に関係なく、どんな人でもこころの病にかかる可能性はあります。」ということだ。つまりノーマライゼーションの考え方が身体障害のみならず精神疾患患者にも言えるということだ。そういう考え方を持つと自分は大丈夫だろうかと、関心を持つことが出来る。それは同時に他者理解にもつながる。

社団法人日本精神科看護技術協会が2009 年に1000人の会員を対象に実施したアンケートでは、受診のタイミングについての質問に対し、「もっと早く相談に来てほしい」という回答が87%にものぼった。これは精神疾患がどのような症状があるのか分からないということや、先述した自分や家族など身近な人は大丈夫だという考え方から来ているのだろう。そしてもっと早く相談に来てほしいという想いは、もっと早く来てくれればここまでひどくならなかったのにという思いの裏返しと言える。そのひどくなるという最たるものがやはり前回も述べた「自殺」であろう。

警察庁が2010年5月に発表した「平成21年中における自殺の概要資料」によると2009 年の自殺者数は3万2845人で、遺書などから動機が特定できた2万4434 人のうち、3 割弱の6949 人がうつ病にかかっていたことが明らかになっている。また、統合失調症による自殺者は1394 人、アルコール依存症は336 人。その他の動機としては経済状態や生活、家庭の問題などがあがっているが、それらの場合も、問題を抱えていたことによる精神疾患にかかっていた可能性がある。つまり、早く相談に来ていれば、正しい対処、正しい対策がなされていれば、これらの自殺は防げた可能性があるというわけだ。

また筆者曰く問題を難しくしていることの1つに「非定型うつ病」が特に若い世代の女性に増えていることがあるとのこと。その特徴は、過食や過眠など、典型的なうつ病とは異なる症状を呈する点で、また普段は何もする気力が湧かないにもかかわらず、何か楽しいことがあると一時的に気分が好転し、元気に活動できるという傾向もある。つまりそういった面から、これは病気ではない、疲れているだけと思いこんでしまうという可能性を高めているということだ。

では、家族としては何が出来るのか。筆者はポイントとして4点挙げている。「否定や説得はしない」「過保護にならない」「あせらず見守ること。」「ご家族が患者さんの心と行動に理解を示すこと」である。

そしてもしこの対応が難しいのであれば、まずは相談することだ。病院に行くことに対して抵抗があるのであれば、、家族だけでも保健所や保健センターで相談をすることが出来る。本書では、自分にも精神疾患をもつ可能性があるということ、気になったらすぐに相談をすること、相談は病院だけではなく保健所や保健センターでも可能なことを学ぶことが出来る。またパニック障害など個別の疾患についても看護師の視点から分かりやすくまとめられており、一読の価値はあるだろう。是非、機会があれば。