【130830 Baby Don't Cry】参考



    ベクとギョンスは小学生からの幼馴染。しとしと雨の降る朝、遅刻寸前で教室に駆け込んできたベクがギョンスの前に一枚の紙を出す。

「高校生、歌唱大会?」

その紙には全国の高校生が歌で競う旨が書かれていた。

「出よう俺たち」

ベクは目を輝かせながら言った。

「えベク何言って」

「音楽やろうぜギョンス!」



    ベクは何事にも飽き性な性格だった。一週間続けば良い方で今回も何かに影響を受けたのだろう、とギョンスは首を縦に振らなかった。しかし一向にベクは勧誘をやめない。しかも一週間後にはインストルメンタル(歌詞のない曲)まで作ってきたと言う。仕方ないとギョンスは「大会は別として練習だけなら」と眉を下げて笑った。ベクも嬉しそうに笑った。



    授業終わりの帰り道、曲を再生する。携帯から流れる電子ピアノの音色が人通りの少ない道で響く。3.4分の時を経て停止ボタンを押したベクは何も言わないギョンスに感想を促した。「どう?」しかし隣から返事はない。恐る恐る横を見たものの誰もおらず、数メートルほど後方でギョンスは俯いていた。ぎょっとしたベクは慌ててギョンスに駆け寄り顔を両手で上げた。するとギョンスは大きな目に涙を貯めながら必死に涙を堪えていた。

「泣いてるし」

「泣いてない。良かった、良かったよベク」

「は〜まじかぁ」その場で頭を抱えてしゃがみこむベク。夕日が二人を照らしていた。



   その日を境に練習を始めた。担任に頼み空き教室や屋上の鍵を借りて大会の対策を練る。ただこの時点で大きな問題が2つ。大会出場は4人以上であり、持ち歌1曲は必須であるという事だった。



    「たのもーーう」授業後軽音部の扉をノックもせず開いたベク。隣にはギョンスも一緒だ。

「えなになになに」驚いて教室の端の方で伸びている高身長の男が目を丸くしていた。

「突然ごめん、俺2-Cビョンベッキョン。でこいつが」「ドギョンス。同じ2-C

「え喧嘩?喧嘩なのかな。俺弱いしどうしよう誰か、でも」慌てふためく高身長の男は止まらない。

「あすみません落ち着いてください。喧嘩は僕も

ちょっと。ほらベクが頼もうとか言うから、本当すみません。あの軽音部って今お1人なんですか」

誤解を正すようにギョンスが微笑みながら話す。

「あごめんね慌てちゃって。俺2-Aのパクチャニョル。気軽にチャニョルって呼んでね!えっとね今何人なんだろう。詳しい人数は分かんないけど、ここに来るのは俺だけかな?いわゆる幽霊部員が多いんだここ」チャニョルは切なげに笑った。

「じゃあお前今1人で弾いてるの?」

ベク、お前はやめようねとギョンスは小声で言う。

「そう。1人で弾けるから」「それはすごいね。でも去年の文化祭でチャニョル君軽音部のステージに出てなかったよね?」「あ〜うん。来てくれてたんだ。でもバンドはやらないんだ俺。音楽は趣味だからさ、そこまでのめり込みたくなくて」

「そっ、か。あのさ歌とかって興味ないかな?もし良かったらこれ」"歌唱大会"と書かれたあの紙をチャニョルにも渡す。目を丸くしたチャニョルがギョンスを見てベクの方に視線を移す。

「なぁチャニョル俺たちと音楽やらねぇ?」



    「振られたな」「振られたね」とぼとぼ歩く帰り道。あの後やんわり断られ結局下校の時間になってしまった。

「だけど諦めたくないんだよな」一人言のようにベクが呟く。「うん。それにチャニョル君は一人なら楽器弾いたり歌ったりしてるみたいだし」

ベクは首を傾げながらギョンスの方を見た。「えそうなの?あいつ歌も歌えるの?」「うん多分。だっておかしいと思わない?弾くだけならマイクスタンドの高さは低めで良い。なのに彼の身長に合わせて何本か調整してあるなんて」

「あいつ器用かよ。じゃあ尚更諦められねぇな。明日からも顔出してみるか」



    「勧誘忘れて音楽について語り合ってたわ俺」

「僕も」数日軽音部に顔を出していると勧誘も忘れて楽器の弾き方や歌の作り方など話が弾んでしまった。「くっそー、あいつ良いやつだし無理強いはしたくないんだよな。折角話せるようになったし」

「うん、」歯切れが悪そうにギョンスが返す。

「ギョンスー、どした?」「あいやちょっと思う事があって。明日僕一人で行っていい?」

「分かった。じゃあ先に屋上いってるな」



    翌日軽音部に向かうギョンスを見てからベクも屋上へ向かった。梅雨だというのに今日はじりじりと太陽が照りつけている。限られた日陰に荷物を置き練習の準備を始めた。



    「あの、何をしてるんですか」ベクを追って屋上にやってきた男子生徒がベクに声をかける。「おー生徒会長じゃん。こんにちは〜」「あこんにちは」ベクに近寄るこの男は生徒会長のキムジュンミョンである。頭脳明晰、眉目秀麗で彼を知らない生徒はこの学校にはいない。「ジュンミョン先輩はどうしたんです?俺に何か用事?」準備を進める手を止めずジュンミョンに問いかける。

「いや校内の見回りだよ。屋上にはあまり来る機会がなかったから気になって後を追ってきたんだ。気を悪くしたらごめんね」ジュンミョンは申し訳なさそうに話す。一方のベクは楽譜の入ったファイルとパソコンを見比べながら「そうなんすか。俺は全然。むしろ来て貰えて良かったってゆうか。あったあった。えーと、俺はですね歌の練習をしています」少し耳を赤くしながら笑うベクがジュンミョンにもあの紙を差し出した。「歌の、全国大会?」

「はい。あ、俺2-Cのビョンベッキョンって言うんすけど同じクラスのドギョンスってやつと、あと軽音部のパクチャニョルってやつは今勧誘中!でも絶対一緒に出ます。先輩も一緒にどうですか?」

まさか自分も誘われるとは思ってなかったであろうジュンミョンは目を丸くした。「いやでも俺、誰にでも誘ってるって訳じゃないですよ。先輩俺らの入学式で国家歌ってたじゃないですか。あれ良かったなぁと思って。もし良かったら考えといて下さい」ベクに右手を差し出され、思わず同じように差し出したジュンミョンの手のひらに置かれたのは赤色のUSBだった。「これは?」「俺とギョンスの歌が入ってます。カバーですけど」それは凄いな、と呟きながらUSBを見つめるジュンミョンにベクが笑う。「重く捉えないでとりあえず聞いてみて欲しいの意味を込めてです。俺はともかくギョンスの歌良いんですよ。でもあいつ人前で歌えないからこれからなんとかしなくちゃいけないなーって。俺がどれだけ褒めても結局幼馴染だから伝わってる気がしないんすよね。まぁそうゆうわけで俺らにはジュンミョン先輩が必要です」

最初のへらへらした態度はどこへやら、真剣な表情をして話すベクの目を見つめ「分かった。応えられるか分からないけど聴いてみるよ。このUSBも返しにこなきゃだしね」でもここは暑いし無理はしちゃだめだよ〜と爽やかに笑みを浮かべたジュンミョンは屋上をあとにした。



    「さっすが生徒会長。俺もよくやった」太陽が照りつけているのも気にせずうおおおと叫びながらベクは屋上を駆け回った。ギョンスがチャニョルの手を引き、屋上に駆け込んでくるまであと5秒。