今、ラジオから流れる音楽を聞いてるよ。犬のハヤブサも、大好きな歌。彼は心地良さそうに、耳を傾けてベージュ色のソファーの上で寝そべっている。
まだやることはいっぱいあるけど、今日は、疲れたからもう寝ようかな…。
あたしの身にひしひしと生じたこの疲労感のわけは、勿論、今日の「重要なイベント」の、ため。 …ってわけでもないんだけど。


と、言うわけで今日の放課後、授業が終わるとすぐに、あたしは生徒会室に向かった。生徒会室は、職員室の前を通り、真っ直ぐ廊下を歩いて行くと、保健室の左横に相接した位置にある。
あたしが扉を開ける前に、一人の男子生徒が部屋から出てきた。
あたしは、その男子生徒を知っていたわけなんだけど。彼は、あたしのことを知らない。
「それでは。またな。」
出てくるなり、黒髪の彼は、あたしに遭遇すると、チッと舌打ちをして、
「その髪留めは校則違反だ。よこせ。」
と、言い、桜色のピンを奪って、さっさと胸ポケットにしまい込んでしまった。
目敏い人、とあたしはその時思った。
「担任に、預けておく。転校生だからって許されると思うのは、間違いだ。もっとしっかり、校則を読み込んでおけ。」
そのまま、身を翻して素早く去ろうとする彼に、あたしは、一言言っておきたい事があるような気がしたけれど、何も言わずに見送った。
その後、制服のブレザーのポケットから、予備の、盗られたピンと全く同じピンをとり出して、髪に付け、戸をノックしてから中に入った。
「失礼しまぁす。」
入った瞬間、生徒会長と目が合った。
いや、だって目の前にいたから。
「おぉっ!お春さんではないか!久しぶりだなぁー。」
藤武勝三は、ごついその顔を輝かせて笑っていた。
あたしも、自然と、笑い返した。
「久しぶりだね、勝三くん。元気そうで何より。でも、その呼び方はやめて頂戴。」
「ああ、スマンスマン。じゃあ、えっと…春菜殿。ようこそ、我が江戸守高校の生徒会室へ。」
にっこりと彼は寛大そうに笑って、あたしを迎えてくれた。
言葉、だけでは。
「んー…っと……。」
なかなか前をどこうとしない勝三くんに、あたしも何も言わないので、気まずくなったのか、彼は言葉を繋いだ。
「えー……ところで、昨夜のメールは見てくれたかな?」
言いにくそうだった。
「うん。見たよ。今日は無理なんでしょ?でも、一応顔を合わせて挨拶するだけでも、って思って。」
あたしは微笑んだ。ちょっと意地悪な笑みだったかもしれない。
「ああ、すまないな…カイも出て行っちまったしなぁ…。あ、そう言えばアイツと丁度会わなかったか?」
「会ったよ。」
「そうか。で、挨拶を?」
「私じゃなくて、向こうからね…」
「何!?それは変だな…アイツは何と?」
「『そのピンは校則違反だ。よこせ。』だって。」
皮肉たっぷりに、棒読みで言ったので、差ほど似ていなかった。でも、思わず、声帯までそっくり真似てしまいそうで、恐かった。
ハ、ハ、ハ、と、勝三くんが口を開けて笑った。
「アイツは校則には、厳しいからな。」
「あたし、あの人のこと、苦手かもね…。」
「ん?大丈夫だ。カイは厳しいが、いいヤツだぞ。心配せんでも、上手くやっていけるさ。」
二方海斗のことを語る時の勝三くんは、生き生きしている。そこから、彼らの絆の尺度が判る。


あたしは、そのまま挨拶して、生徒会室を後にした。
と、言うことなので、結局、今日はちゃんと生徒会に行くことが出来なかったわけ。
あーあ…直接協力してあげるって言ったのになぁー…生真面目なんだから。俺達の問題だから、って。
でも、おかげで、明日、面白い用事ができたかも。やっぱり、また、楽しみだ。

あぁ、もう眠ーい…。

それで、疲れた理由はその後の尊大な行事によることなんだけど、それは、また、書ける時が来たら、書こうかな…。
今は、明日のために、体を休めなきゃね。




あたしは、そんなに乗り気じゃなかったんだけど。
柏原、に言われて、ブログを始めてみた。
彼曰く、あたしにはこういうものが必要らしい。
まるで、人を寂しい人みたいに言うんだから、失礼しちゃうね。
でも、書いてみたはいいものの、何を書いたらいいか、よくわかんないな…。事後レポートとかは、よく書くけど…日記なんて何年ぶりだろう…。
まあ、とりあえず、日々のコトでも書いてみようっと。


今日、いや、昨日は、化学の授業で寝てしまった。もちろん、先生に気づかれないように。
だって、授業の交換で、今日は化学が二時間も続けてあったんだよ?退屈になっちゃって。それに、貴重な睡眠時間は、こういう時に確保しておかないと。
でも、たまには、授業中に寝るのも悪くない、ね。
少ないが、平凡な高校生活を実感できるから。


もうすぐ午前二時になる。あたしはパソコンを片付けて、寝なくては。明日は、重要な行事があるから。
あたしが、生徒会室に行くっていうイベントが。
江戸守高校の生徒会、楽しみだな。
生徒会長の藤武勝三、副会長の二方海斗。
その他それを取り巻く生徒達。
興味深くて、きっと羨ましい。


あっ。彼からメールがきた。きっと、明日の話についてかな。こんな時間に送るなんて、まったく、もう。



では、おやすみなさい。