磁気治療の方法は,疾患の種類により異なります.一般に,刺激頻度が1秒間に1回より多いものを高頻度刺激,1秒間に1回以下のものを低頻度刺激として区別しており,高頻度刺激では大脳皮質の活動が高まり,低頻度刺激では低下すると考えられています.そのため,大脳皮質の機能が低下している疾患では高頻度刺激が,逆に過剰に高まっている疾患では低頻度刺激が治療として用いられます.また,刺激の回数を増やすことにより大脳皮質の活動性の変化がより長く持続し,より深部に影響を与えることが知られています.
 
産業医科大学病院神経内科では,主にパーキンソン病と脊髄小脳変性症に対する磁気治療を行ってきました.また,当院神経精神科と共同でうつ病に対する磁気治療も行っております.治療効果は患者様によってまちまちですが,明らかによくなったといわれる患者様がおられることは確かです.本年は新たにジストニアに対する磁気治療も行う予定です.

試験的なものです  治療に用いられる方法は,日本臨床神経生理学会による「経頭蓋的高頻度磁気刺激法の安全性と臨床応用に関する提言」に基づき作成されています.磁気治療は試験的なものであるため,産業医科大学病院において行っているものは,すべて倫理委員会の承認のもと患者様への十分な説明を行い,文書による承諾を得たうえで行っています.
 
反復経頭蓋磁気刺激はてんかん発作を誘発する可能性があり,特に高頻度刺激で危険性が高いため,てんかんの患者様は受けることができません.また,強いパルス磁場を与えるため,脳動脈瘤クリッピング術後や心臓ペースメーカー埋込術後など,体内の重要臓器に金属が入っている患者様も受けられません.

反復経頭蓋磁気刺激の治療効果に関する報告は多いですが,治療法として確立されるには至っていません.この理由としては,どの刺激条件が良いのかなかなか決定できないことや,偽の刺激法と比較した研究が極めて少ないことなどが挙げられます.

現在,施設ごとに異なる方法で磁気治療が行われています.評価法もまちまちです.患者様に新たな治療の選択肢を提供するためにも,しっかりとした計画のもとに,客観的な評価を行う研究が必要であり,準備を進めています.
3. 対象となる疾患
神経内科の領域に含まれる病気にはさまざまなものがあります.本ホームページ内の「神経内科とは?」にあげてあるように,脳血管疾患,神経変性疾患,感染性疾患などのように分類できます.このうち,神経変性疾患にはいわゆる「難病」といわれ,現在の医学では治療が困難なものが少なくありません.磁気刺激治療とは,運動神経の機能を調べるために用いられている経頭蓋磁気刺激装置を,これらの疾患の治療として用いるという新しい試みです.

磁気刺激の方法  経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation,TMS)とは,頭皮上に電磁石のコイルを置き,瞬間的に電気を流すことによりパルス磁場を生じさせるものです.このパルス磁場が頭蓋骨を越えて脳の神経細胞に電流を生じさせ,コイル直下の脳神経の活動を変化させます.この磁気刺激は,頭部を覆う筋肉が収縮するため軽い衝撃はありますが,痛みはほとんどありません.一般には大脳の運動野に単発もしくは二連発の刺激を与えて運動機能を調べる検査法として用いられており,平成16年より「中枢神経磁気刺激による誘発筋電図」として医療保険の対象になっています.

近年,装置の性能が向上し,磁気刺激を三連発以上連続して与えることが可能になりました.3発以上規則正しく反復される経頭蓋磁気刺激を反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation, rTMS)といいます.反復経頭蓋磁気刺激を与えることにより,コイル直下の大脳皮質における神経電気活動,血流,代謝が変化します.

コイルを置く場所や刺激の回数や強さ,刺激頻度などを変えることにより,大脳皮質の活動が異なる変化をすることがわかってきました.さらに,反復経頭蓋磁気刺激によって,気分や運動機能が変化することが報告され,神経・精神疾患に対して治療的に応用できる可能性が広がりました.これまでに,さまざまな神経・精神疾患に対する治療効果がみられたとする報告があり,難治とされていた病気に対する新たな治療方法として期待されています.

疾病及び関連保健問題の国際統計分類 (しっぺいおよびかんれんほけんもんだいのこくさいとうけいぶんるい。International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems ) とは、死因や疾病の国際的な統計基準として世界保健機関(WHO) によって公表された分類。略称はICD。死因や疾病の統計などに関する情報の国際的な比較や、医療機関における診療記録の管理などに活用される。

ICD は当初、第1回国際死因分類として1900年に国際統計協会により制定され、以降10年毎に見直しがされている。第7版からは死因だけでなく疾病の分類が加えられ、医療機関における医療記録の管理に使用されるようになった。

現在の最新版は、1990年の第43回世界保健総会で採択された第10版で、ICD-10 として知られる。ICD-10では、分類はアルファベットと数字により符号されており、最初のアルファベットが全21章から成る大分類(Uを除く)、続く数字が中分類を表している。また、ICD-10は後に2007年版として改定が行なわれている。