【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
21世紀の科学と人間
原子力エネルギー(3)「放射線と茶カテキン」


静岡大学理学部助教授(付属放射科学研究施設放射化学・放射能利用分析)吉岡濶江
原子力エネルギーの利用に際して、だれもが抱く共通の不安は、万が一起こるかもしれない事故による、大量の放射線被ばくにある。生体は何故大量の放射線に弱いのか? 生体に損傷をもたらす因子は何なのか?

の身体は70~80%の水とタンパク質や核酸、脂質などの分子からできている。この水分子は放射線から高いエネルギーをもらい、自ら分解して、ヒドロキシルラジカル(・OHと書く)と呼ばれる活性酸素を生成する。この・OHは非常に反応性の高い物質で、核酸の1つであるDNA や脂質分子と反応して化学変化を起こし、その結果、正常細胞が壊されてしまう。DNAが切断されると遺伝情報が正確に読めなくなり、遺伝病やがんなどになる。

最近、いろいろな病気や老化までも、活性酸素によって引き起こされることが明らかにされてきた。
一方、この活性酸素は、放射線のみでなく、紫外線や食品添加物、あるいは精神的ストレスなどによっても発生することも分かってきた。 従って私たちが健康な身体を維持するためには、たとえこのような活性酸素が身体の中でできても、それを消去してしまう物質(抗酸化物質という)を、身体の中に同時に持っていることが必要である。最近特に注目されている抗酸化物質の1つは、県特産品の緑茶に多く含まれているカテキンである。

私たちの研究室では、放射線によってDNA鎖が切断されるときに、緑茶の浸出液や、その成分であるカテキンを一緒にしておくと、その切断がおさえられることを明らかにした。これはカテキンが、放射線で生成する・OHを消去してしまうからである。

つまり緑茶は放射線防御の観点からみても、非常に有効なものであることが証明されたことになる。私たちは現在、カテキンの活性酸素を消去するメカニズムをいろいろな方法を用いて研究しているが、その研究をさらに進めて、より有効な抗酸化物質を探し出したり、合成したりすることも目指している。

(静岡新聞 2000/11/11)