昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
危険・電力だぶつき「もうつくらぬ」流れ
ドイツが脱原発 市場自由化追い風


ドイツ政府と電力業界が国内に19基ある原子力発電所を段階的に全廃することで合意し、総発電量の約3割を原発に頼るドイツは脱原発へと大きく踏み出した。「もうつくらない」という欧米の潮流をさらに定着させる動きだ。ドイツの合意を可能にした事情や、原発をめぐる世界の現状をまとめた。(ベルリン=古山 順一、科学部・上田 俊英)


ドイツの原発は、1970年代に社会民主党(SPD)が加わった連立政権下で推進されたが、86年のチェルノブイリ原発事故を機に見直された。89年以降、新たな原発建設はなく、90年のドイツ統一前後には、旧ソ連製の原子炉を使っていた旧東独の6基すべての解体が決まった。

SPDは緩やかな脱原発へと方針を転換し、98年秋、環境問題を重視する90年連合・緑の党との連立協定に脱原発を盛り込んだ。

電力業界も、使用済み燃料の処理問題など金のかかる原発に代わるエネルギーを模索し始めていた。政府との協議は昨年初めに始まったが、採算などの面から原子炉の寿命35年を主張する電力側と、即時廃棄を求める90年連合・緑の党との隔たりは大きかった。

電力側との合意なしに一方的に原発廃棄を法制化すれば、損害賠償などでばく大な費用がかかることが予想された。SPDのシュレーダー首相は90年連合・緑の党の歩み寄りを求め、同党は今年3月、政権維持の立場から原発の即時廃棄の方針を放棄した。

90年連合・緑の党にとって大きな方針転換だが、今回の合意では原発の今後の総発電量を、これまでの総発電量を上回る約2.6兆キロワット時と算定した。企業寄りの妥協だとして、23日に開く党大会では連立政権にとどまるかどうかも含め、もめそうだ。

一方、電力市場は98年4月に自由化され、送電線がつながっていれば国内外の発電事業者から安い電気が買えるようになった。大手電力会社の地域独占は崩れ、料金が大幅に下がった。

さらに今年4月、風力など再生可能エネルギー利用の促進を目指す新法が制定され、同エネルギーの利用が電力会社に義務づけられた。政府は、再生可能エネルギーが発電に占める割合を現在の5%から2010年までに倍増させる計画だ。
また電力はだぶつき、一部を輸しているほど。原発廃棄に伴う代替エネルギーの一部は、既存の発電所の稼働率を上げることで補えるとの目算もある。ロシアなどから天然ガスの輸入を増やして発電に利用することも検討されている。


スウェーデン流踏襲 先進国で魅力薄れる

ドイツ政府と電力業界との「原発全廃」合意は、すでに脱原発を進めるスウェーデンのケースとよく似ている。両国は、原発をすぐにやめると決めたわけではない。選んだのは「もうつくらない」という道だ。

スウェーデンでは1980年、原発の是非をめぐる国民投票が実施され、「原発は新設しない」ことなどを柱とする段階的廃止案が多数の支持を得た。これを受けて、国会が「2010年までに全原発を段階的に廃止する」と決議した。

当時、スウェーデンには運転中の原発が6基、建設中が6基あったが、どの原発も数十年後には必ず老朽化して、使えなくなる。新設しなければ、原発は寿命の順に閉鎖され、いずれはなくなることになる。

原発廃止というエネルギー政策の大転換には、代替エネルギー開発などに長い時間が必要だ。2010年という目標は、その準備の時間と、原発の寿命を25年間と見込んで決められた。

スウェーデンが脱原発に踏み出したのは、国民投票前年の1979年、米国でスリーマイル島原発事故が起こり、原発の安全性への不安が高まったからだった。
いま、原発は経済的にも逆風にさらされている。電力需要の伸び悩みや電力市場の自由化などによって、多額の初期投資が必要な原発は他の発電方式と比べ、経済的に次第に不利になってきている。
これは、先進国にほぼ共通する問題だ。現実に、北米と西欧では現在、建設中の原発は1基もない。

日本も現実には、原発の新規立地はまったくといっていいほど進んでいない。政府は2010年度までに最大20基の増設という目標を掲げているが、電力業界は今年3月、同年度までの増設計画を、20基から13基に引き下げた。

脱原発の道は、平たんではない。スウェーデンは97年、全廃目標の「2010年」を「雇用や福祉などへの悪影響を考慮」して撤回した。閉鎖した原発も、まだ1基だけだ。
しかし、原発の魅力は着実に薄らいでいる。電力関係者からは「原発建設のような多額の投資は、自由化の先が見えるまでは控えたい」という意見が、よく聞かれる。


賛成 経済的にも理にかなう

90年連合・緑の党のエネルギー政策責任者ミヒャエレ・フステット連邦議会議員 脱原発は経済的にも十分な理由がある。ドイツでは必要量よりも約3割過剰に発電しているため電力会社は発電所を新規につくる必要がない。最新の天然ガス発電所は、原発の発電コストの半分で済む。天然ガスのほか、風力や太陽光といった再生可能エネルギーヘの投資が必要だ。

お金がかかる原発を建設するよりも、これらの分野の投資に電力会社も前向きだ。キリスト教民主同盟(CDU)は、政権を奪取したら脱原発を放棄する、と言っているが、我々は長期的な経済効果もみながら脱原発を進めている。


《政府と電力会社の合意の概要》

▽原発の運転開始からの運転期間を基本的に32年とし、2000年1月からの各原発の残りの運転期間をそれぞれ算出する
▽運転停止中のミュルハイムケーリッヒ原発について電力会社は運転許可申請と、州政府に対する賠償請求を取り下げる。代わりに約0.1兆キロワット時分を全体の今後の総発電量に加える
▽同原発と稼働中の19の原発で今後発電できる総発電量を約2.6兆キロワット時と算定する
▽使用済み燃料の再処理は2005年7月以降、最終処分場に直接持ち込むことに限定する
▽原発建設の禁止などを骨子とする原子力法の改正に電力側は理解を示す
(注=今後の総発電量を各原発にどう割り当てるかは電力会社に任されているため、実際は32年以上運転される原発も出てくる)

(朝日新聞 2000/06/22)