【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
臨界事故350メートル内の150人中、DNA損傷8人が平均超す
聖マリアンナ医大調査 茨城県 本人に通知せず
茨城県東海村の核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JCO)の臨界事故で、避難勧告を受けた現場から350メートル圏内にいた150人について聖マリアンナ医大の山内博・助教授(予防医学)が放射線被ばくによる健康影響を調査した結果、8人からDNAの損傷を示す物質が健康な人の平均より高いレベルで検出されていたことが7日、明らかになった。茨城県は数値の報告を受けながら本人や東海村など地元自治体に通知せず、再検査などの措置も取っていない。
細胞内で生命維持に重要な役割を果たすDNAは放射線などを受けると壊れ、将来発がんなどの「晩発影響」が現れる可能性もあるとされ、山内助教授は「早急な再検査と長期的な追跡調査をする必要がある」としている。
検査は事故直後の10月2-4日、県が実施した健康診断を受けた1838人のうち、350メートル圏内で事故当時働いていた27人と、住民123人の尿を分析。放射線などでDNAが損傷したときに尿中に排出される「尿中8ヒド口キシル2デオキシグアノシン」の濃度を測定し、日本人の平均値(1ミリグラム・クレアチニン当たり15.7ナノグラム)と比較した。
この結果、27人中5人と123人中3人の計8人が、正常値の上限(21.1ナノグラム)を上回る数値を示し、最大で29.1ナノグラムに達した。
同助教授は当初この数値を「心配ない」と見ていたが、その後DNA損傷の進み具合を検討し「事故5日後から影響が顕著になる」と判断。「8人の検体は2-4日後に採取されたもので、正確な検査には早過ぎ、この後さらに高まった恐れが強い」として茨城県に強く再検査を勧めた。
しかし県は「検査は信頼性が未知数で、リンパ球が減少する『早期影響』の検査が先」として取り合わず、「数字を公表すると住民が不安がる」として本人にも伝えなかった。
今後についても「晩発影響は科学技術庁の調査に任せる」と消極的な態度を取っている。
今回検査した150人には既に被ばく者と認定された69人や、事故当時JCO内で働いていた作業員は含まれていない。
<放射線とDNA> 放射線の人体への影響は、大量の被ばくでリンパ球の数が減るなどし最悪の場合は死亡する「早期影響」と、少量被ばくでも年月を経てからがんや白血病などを発病する「晩発影響」に分けられる。休内のタンパク質合成で重要な働きをするDNAは放射線によって損傷を受ける。人体にはDNA損傷を修復する働きがあるが、修復力が弱かったりすると壊れたままとなり、将来的にがんや白血病などの発病の恐れがあるとされる。詳しいメカニズムは分かっていない。
<DNA損傷尿検査> 放射線を浴びたり、ある種の毒物を摂取したりすると細胞内のDNAの鎖が断ち切られる。切れたDNAの破片は細胞中で8ヒドロキシル2デオキシグアノシンとして合成され、老廃物として血中から尿を通じて体外へと排出されるため尿検査で調べることができる。染色体を1つ1つ調べる方法よりも簡便なのが利点。(中日新聞 1999/11/08)