【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
米ネバダ州の核廃棄物地下貯蔵施設 危ぶまれる建設
地下水に漏れたら「移動速い」と報告書
米国がネバダ州の山中に計画している世界初の高レベル核廃棄物地下貯蔵施設の建設実現が危ぶまれている。今年中に全米の原子力発電所から出た廃棄物を運び込み始めるという当初予定は既に大幅先送りとなっているが、万一、廃棄物が漏れた場合、これを運ぶことになる地下水の移動が予想よりもはるかに速いことがこのほどまとまった中間報告書で明らかになり、ネバダ州が計画撤回を求める事態になっている。現場を訪ねた。(米ネバダ州ユッカマウンテンで、河野博子)
処分場予定地ユッカマウンテンでは、地質などの適性を検証する「特性調査」が86年から約30億ドルかけて進められている。貯蔵所が作られる地下の予定区画と地上を結ぶ直径7.6メートル、長さ8キロの巨大なトンネル沿いに掘られた「研究室」で、様々な実験を実施する。エネルギー省職員の案内でトンネル内に入ると、予定区画に隣接した第5実験所では、貯蔵容器を様々な方法で加熱し、その耐久性を検証する実験が行われていた。
米国は77年、カーター政権が核兵器の拡散を防ぐ観点から、再処理をやめ、82年には、原子炉から出る使用済み燃料棒を政府が集めて永久貯蔵、一括管理するとした「核廃棄物政策法」を制定した。これに基づき、電力会社45社がこれまでに計100億ドルを拠出、エネルギー省は98年に使用済み燃料の受け入れを始めるとしていた。
その後、ユッカマウンテンは唯一の候補地となり、地元ネバダ州政府を中心に反対運動が激化、計画差し止めなどを求める訴訟を次々と起こしたことから連邦政府は建設の正式決定延期に追い込まれた。さらに、今月18日に発表されたエネルギー省の中間報告書に掲載された「新発見」ともいうべきデータをめぐって、科学論争が再燃している。
焦点は、これまで同省が「保存容器から万一、廃棄物が漏れても、240メートル下にある地下水面(地下に湖状にたまる水の表面)まで地下水に乗って核物質が運ばれるのは1000年以上かかるため、問題ない」としてきた点。
特性調査で、貯蔵予定区画わきの坑道から天然にない塩素同位体が採取されたことから、州の科学者らは、50年近く前に行われた核実験の結果、放出された物質が断層沿いの亀裂を通る地下水に乗って移動し、地下の岩盤に付着していたものと判断。
地下水が予定区画から地下水面まで達するのは「3日から110年」と独自に試算した。
そのうえで、約50キロ離れた集落の井戸がこの地下水面につながっていることを重視。「地下水の移動時間を含む基本的な自然条件に見込み違いがあった場合、計画を撤回する」との同省のガイドラインを根拠に、ボブ・ミラー州知事は計画の撤回を申し入れた。
これに対し、エネルギー省側は「地下水の移動が予想より速いことがわかったのは事実だが、計画撤回が必要になるようなデータではない」としている。
環境団体「ネバダ核廃棄物作業部会」のジュディ・トレイシェル事務局長は「原発施設での貯蔵を続け、その間に様々な処分法を検討すべきだ」と訴える。
<ユッカマウンテン高レベル核廃棄物地下核貯蔵施設計画> ユッカマウンテンは、ラスベガスから北西に約130キロ、50年近く前に行われた核実験場の端に位置する標高約1500メートルの丘陵。地下378-420メートルに面積計約8100平方メートルの貯蔵所を作り、計7万本の使用済み燃料棒を貯蔵する予定。
エネルギー省は廃棄物の受け入れ開始を当初計画の今年から12年先の2010年に延ばした。2001年には、科学的な特性調査の結果に基づき適格性について判断することになっている。
(読売新聞 1998/12/24)