【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
放射能マンションぞろぞろ 台北市一帯
鉄筋に混入886戸 26戸が退去拒む
汚染、教室や道路にも
持参した放射線測定器が突然、「ピーッ」と高い音を出した──台湾の台北市とその周辺で、放射能に汚染されたマンションや学校の教室が次々と見つかっている。当局の原子力委員会が、この事実を知ったのは10年前。3年前に表面化し、これまでに分かっただけでも886戸、58教室になる。「犯人」は鉄筋に紛れ込んだ放射性物質のコバルト60という。経済成長で鉄鋼が不足し、廃鉄をもう一度溶かして再利用したところ、捨てられていた放射性物質も一緒に溶け込んだらしい。当局は住民に退去を促しているが、補償金への不満などから、住み続ける人も多い。同市郊外では、放射能汚染された道路も見つかり、不安は募るばかりだ。(科学部・武内 雄平)
放射線測定器の赤いアラームランプが点灯した。台北の中心部にあるマンション2階の踊り場にさしかかった時のことだ。3階のエレベーター付近で壁に測定器を当てると、毎時100マイクロシーベルト近い値を示した。
仮にこの壁のそばに半日もいれば、国際放射線防護委員会(ICRP)が定めた一般人の年間被ばく限度(1ミリシーベルト)を超えるのに、マンションには警告の表示さえなかった。
「当局はわれわれをだましていた」と、放射能被害者協会の王玉麟・理事長。原子力委員会はこうした「放射能マンション」の存在を1985年に知っていたのに公表せず、92年の新聞報道でようやく一般に知られるようになったという。
同委員会もこの事実を認める。10年前、歯科医のレントゲン機材を設置するためにマンションの環境放射線量を測定したら、異常に高いことがわかったが、担当者は、この歯科医の部屋以外は対策を講じないで放置した。
同委員会によると、866戸のうち、年間の推定被ばく線量が15ミリシーベルトを超すマンションは96戸あり、最も高い部屋(無人)では159ミリシーベルトに達する。
王理事長もかつて放射能マンションのひとつに住んでいた。「そのころ生まれた次女には心臓の先天性疾患がある。放射能のせいかもしれない」
当局は、日本円にして80万円から200万円相当の移転補助金や買い取り策を示しているが、今月中旬現在、15ミリシーベルトを超すマンションにも26戸が住んでいる。
一方、「放射能教室」には託児所や幼稚園も含まれる。こちらは、解体したり遮へい材を設置したりして、対応しているという。
汚染の犯人はコバルト60と、原子力委員会は断定する。台湾では6基の原発が運転されており、原発の廃棄物を疑う声もあるが、「原発の廃棄物ならいろんな種類の放射線が出るはずだが、コバルト60しか検出されていない」と同委員会。いちばん疑われているのが、陸軍化学兵学校で紛失したコバルト60だ。
放射能マンションは82年から84年ごろに建てられた。高度経済成長を迎えていた台湾では、中小の製鉄業者が廃鉄を買いまくり、溶鉱炉で溶かして再利用していた。紛失したコバルト60が一緒に溶鉱炉に紛れ込んだというのだ。
マンション、教室に加え、台北市の北の桃園市周辺で最近、「放射能道路」が見つかった。学校の前の道もある。放射線量は毎時15-20マイクロシーベルト程度という。だが、汚染経路はよくわかっていない。
がんの危険性増す
科学技術庁放射線医学総合研究所の藤元憲三・主任安全解析研究官の話 マンションの汚染は、自然放射線の年間被ばく線量が世界平均2.4ミリシーベルトであることを考えると、かなり高い。住んでいればすぐに病気になるというわけではないが、そのまま被ばくし続けると、がんなどになる危険性が増す。特に、胎児には影響が出やすいので妊婦は注意が必要だ。コバルト60は半減期が約5年なので、10年前は4倍程度の放射能レベルだったと考えなければならない。
(朝日新聞 1995/11/20)