【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
チェルノブイリ原発周辺 先天異常の増加確認 日本と共同調査
8年前、爆発事故のあったチェルノブイリ原発の周辺地区で、これまで指摘されてきた子供の甲状腺(せん)がんのほか、多指症や内臓奇形など胎児の先天異常の発生率も高まっていることが、現地と日本の共同研究で分かった。高濃度の放射能汚染地区では、異常の発生頻度が事故前の約1.8倍に増えていた。こうした実態が統計で確かめられたのは初めて。14日から、高知市である日本先天異常学会で報告される。
調査したのは、ベラルーシ共和国ミンスク遺伝性疾患研究所のG・ラジュク所長と、広島大原爆放射能医学研究所の佐藤幸男教授(放射線奇形学)らのグループ。
同原発の北東にあって汚染濃度が高かった同共和国は、先天異常の発生頻度を毎年調べている。そのデータをもとに、事故前(1982-85年)と事故後(87-92年)について、汚染度で分けた地域ごとに見た。対象の地域では年間6000人から7000人が生まれた。
放射性物質セシウム137による低濃度汚染地区(1平方キロ当たり5キュリー未満)では、事故前に出産1000件当たり4.6件だった異常が、事故後は6.0件に、高濃度汚染地区(同15キュリー以上)では3.9件から7.0件に増えていた。
また、人工妊娠中絶された胎児について各地の病院の異常のデータを集めたら、高濃度汚染地区の事故後(86-92年)の発生率は9.9%だった。事故前のデータはないが、影響がなかった首都ミンスク(事故前5.6%、事故後4.4%)より高かった。
ラジュク所長は「食生活や公害など複数の否定的要因が重なったことも考えられるが、多指症が増えているので、何らかの突然変異が起きたことは否定できない」としている。
佐藤教授は「事故の放射線の影響で増えたと言い切る証拠は今のところないが、放射線は1つの大きな要因であると考えられる」と話している。
同原発事故の影響についてはIAEA国際諮問委員会(委員長、重松逸造・放射線影響研究所理事長)が調査し、91年、「周辺住民に関する健康被害は現時点では確認できなかった」と報告。先天異常についても「放射線被ばくの結果として胎児の異常が増えた証拠はなかった」とした。
重松逸造・放射線影響研究所理事長の話 IAEAでは、先天異常については聞き取り調査程度しかしなかったので実態は分からない。発生率が増加しているなら、原因について科学的に議論する必要がある。
(朝日新聞 1994/07/07)