【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
原発労働に改めて問い 白血病で死亡 作業員「労災」
ベールの一端露呈
分厚い「企業秘密」のベールに覆われてきた原発労働。その一端が、ようやぺ垣間見えてきた。福島第1原発での労災死認定に続いて、浜岡原発で長期間働いた末に29歳で白血病死した若者の両親が、新たな労災申請へ。2人の死は、原発労働の「安全性」を、改めて問いかけているようだ。
同じ境遇、他にも 長男亡くした嶋橋さん夫妻
「なぜ息子が死んだのか、事実をはっきりさせてほしい」──中部電力浜岡原子力発電所の煙突が窓越しに見える自宅の座敷で、長男の伸之さんを慢性骨髄性白血病で亡くした嶋橋美智子さん(56)は、涙を浮かべた。夫の正秀さん(63)は、息子と同じ病気で亡くなった福島の原発労働者の労災認定の知らせを聞き、「申請を出す人は氷山の一角で、ほかにも同じ境遇の人がいるのではないか」と語った。
91年秋、伸之さんの葬儀が終わったあと、会社側が「労災に見合う分以上の弔慰金を払う」と、覚書の文書を持ってきた。「労災の申請をすれば時間がかかるし、一時金の方が得」と説明されたという。両親はその年の12月、孫請け会社と覚書を交わし、弔慰金として計3000万円を受け取った。
伸之さんの被曝(ひばく)データを記録した手帳などが返還されたのは、死亡後半年もたった92年春。再三の催促の末だった。社内での健康診断記録には、通常の2倍近い白血球の数を示す記録もあるのに、その横に「異常なし」のゴム印が押されていた。
いま、伸之さんの死を「労災」と信じる美智子さんはいう。「お金の問題ではありません。なぜ伸之が死んだのかをはっきりさせて、あの子の死を無駄にさせたくないからです」
「おかしいのは労災基準の方」 中部電力
浜岡原発の事業者である中部電力(本社・名古屋)は「原子力発電所では、法律に定められた線量を下回る環境下で働いてもらっている。労災認定の基準の方がおかしい」(広報室)と話している。
(朝日新聞 1993/05/05)