【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
英の核再処理工場周辺 プルトニウム通常の1000倍
金沢大共同研究で検出
使用済み核燃料再処理工場などの原子力施設が集中する英国のセラフィールド周辺で、広範囲の海岸のたい積物にプルトニウムが含まれ、最大で通常の1000倍の濃度に達していることが、英国ノースウェールズ大と金沢大理学部低レベル放射能実験施設の山本政儀助手らの共同研究で19日までに分かった。
セラフィールドでは、1950年代からの、施設廃水による環境汚染が問題になった。特に、子供の白血病発生率が他地域より高く、地元住民が英核燃料会社(BNFL)を相手に損害賠償訴訟を起こしたが、汚染と健康被害の因果関係は結論が出ていない。
調査結果について、安斎育郎立命館大教授(放射線防護学)は「海産物などを通して放射性物質が人体中でどの程度濃縮されているのか早急に調べる必要がある」と指摘している。
研究は、廃液が流れ出るアイリッシュ海沿岸24地点で88年に採取された表層たい積物を、金沢大がノースウェールズ大から入手。乾燥して分離精製しアルファ線などの放射線を測定、含まれる人工放射性物質の量を調べた。
その結果、工場廃水の放出口から約10キロ南にあるエスク川流域の表層たい積物で、1キログラム当たり計694-1804ベクレルのプルトニウム239と同240が検出された。
過去の大気圏内核実験のため、通常の土壌中にも微量のプルトニウムは存在するが、一帯は通常の数百-1000倍前後の高い値となる。
さらに、再処理工場から150キロメートル近く離れた海岸からも1キログラム当たり3、40ベクレルのプルトニウムが検出され、放射性物質が相当広い範囲に拡散していることが判明。
エスク川流域の海草を分析したところ、高濃度のプルトニウム、アメリシウムなどが検出され、海産物もかなり汚染されていることが裏付けられた。
工場は廃水の処理を強化し、1985年以降は放射性物質の放出量を大幅に減らしたが、汚染源が長年にわたり放出され続けてきた工場廃水であるのはほぼ確実という。
山本助手は「沿岸海洋は人間の活動と密着しているので、きっちりとしたモニタリングを通じて長期的な研究をする必要がある」と指摘している。
科学技術庁の道正久春核燃料規制課長の話 日本では再処理工場から一般環境中に放出する放射性物質の量をかなり厳しく管理している。青森県・六ケ所村に建設予定の再処理工場についても、事業者が管理をきちんとすれば、周辺が放射性物質で汚染されることはあり得ない。
<セラフィールド再処理工場> 英核燃料会社(BNFL)が運営する使用済み核燃料再処理工場。1952年、核兵器に使うプルトニウムを取り出す軍事施設としてスタートした。64年に現在稼働中の第2工場が運転を開始。年間1500トン(ウラン量)の処理能力を持つ商業用施設として、ガス冷却炉の使用済み燃料の再処理を行っているが、放射能漏れ事故などトラブルが絶えない。現在、日本など外国から請け負った再処理を行うため、軽水炉燃料を年間1200トン処理できる工場を新設、92年中の操業を目指している。
<プルトニウム> 超ウラン元素の1つ。元素中最も毒性が高く、強力な発がん性物質。本来、天然にはほとんど存在しなかったが、大気圏内核実験などに伴い環境中に放出されるようになった。原爆の材料や核燃料となるプルトニウム239は原子炉でウラン238から大量に生成。半減期は2万4000年、酸化物の粉じんは吸入すると肺に沈着しやすく極めて有害。
(中日新聞 1992/07/20)