【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
職場被ばくのがん発生 現行推定値の2倍リスク
英国放射線防護委 初の大規模疫学調査結果
白血病で「相関」顕著 将来的に限度量見直しも
原発や核燃料再処理工場、核兵器製造工場などで受ける放射線被ばくは、これまで国際放射線防護委員会(ICRP)が推定していた約2倍のがん、とくに白血病を起こすことが分かったという、英国放射線防護委員会(NRPB)の調査が英医学誌ブリティシュ・メディカル・ジャーナルに発表され、各方面に大きな影響を与えている。将来的には職場における被ばく限度量の見直しが求められる可能性もある。(ロンドン=竹内 敬二)
長期的な低レベル被ばくとがんの影響が大規模疫学調査で明確に示されたのはこれが初めて。
NRPBは1976年に、放射能を受ける職場にいる労働者の登録制度を作り、その死因、とくにがんと、放射線外部被ばく量との関係を追跡調査している。今回発表されたのは88年末までの結果をまとめた第1次報告で、調査対象は約9万5000人(9割が男性)。うち死亡者が6660人だった。
1人平均の蓄積被ばく量は33.6ミリシーベルト。8.7%の人が100ミリシーベルト以上だった。ICRPの現在の年間被ばく上限値は50ミリシーベルト。
全体の死亡率は一般の英国人の85%、全がん発生率も86%とかなり低かったが、これは雇用の際に健康人を選ぶことによる、いわゆる「健康者効果」と判断された。
死亡原因と被ばく量では、(1)すべてのがん発生率と被ばく量の間には続計的に弱い相関しかないものの、線量が増えるにしたがって発生が増加していた(2)放射線の影響とは考えにくい「慢性リンパ性白血病」を除いた「すべての白血病」をとると、線量の増加に応じて発生率が上がる相関がはっきりと表れ、低線量被ばくでの白血病発生リスクが証明された。
しかも、どちらの場合も、「健康者効果」を差し引いて、生涯のがん発生確率を比べると、現在、ICRPが勧告している値のそれぞれ2.5倍、1.9倍となった。
このほか、前立腺(せん)がんと甲状腺がんは一般人よりも発生率が高かったが、前者では統計学的な差異はなかった。後者は発生率は一般人の3倍と大きいが発生は9人と小さく、また外部被ばく線量との相関もなかった。いずれも偶然の結果か内部被ばくの可能性が強いと見ている。
結果について、NRPBは「まだ、ばらつきが極めて大きいので、基準を変える必要はない」としている。調査は今後2年かけてさらに詳細なデータをとる。2年後には対象死亡数も増え、不確実性が2-3割減るとしている。
英国では90年2月に、セラフィールド核燃料再処理施設周辺に多発している子どもの白血病は、父親が同施設で働き、放射線被ばくが高いほど(とくに100ミリシーベルト以上)多いと発表され、放射能職場で働く労働者やその家族を不安にさせている。
<放射能の影響> 放射能の健康への影響は大規模なグループを長期間、追跡調査して初めて分かる。一時的な大量被ばくの影響は主に日本の原爆被爆者のデータで明らかになっており、職業被ばくの限度を決めた現在のICRPの値も、主にこれを基礎に低線量領域まで推定して決めている。
英国ではこれまでいくつかの追跡調査をしているが、対象が少ないことなどから、明確な相関は出なかった。また米国での調査では、がん発生のリスクはICRPの推定よりも小さく、今回の結果とは食い違う。
(朝日新聞 1992/02/04)