【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
チェルノブイリ原発事故原因 制御棒に設計ミス
緊急停止で逆効果 ソ連安全委、文書で断定

【モスクワ16日=松本、花井記者】

世界の原発史上最悪の事故となった1986年4月26日のソ連・チェルノブイリ原発事故の原因は、運転員が各種安全装置を切るなど重大な規則違反を重ねて実験を行ったためと、ソ連の公式報告ではなっていたが、16日までに朝日新聞社が入手したソ連の国家原子力安全監視委員会の未公表文書によって、運転員のミス以上に設計上の欠陥が大きかったことがわかった。安全上最も重要な制御棒に致命的設計ミスがあって、緊急停止しようとしたところ、逆に核反応が促進されたというものだ。
ソ連では、情報公開(グラスノスチ)の流れの中で、チェルノブイリ事故の原因についての研究が昨年から本格的に始まっている。この文責はその一環。国家原子力安全監視委員会(日本の原子力安全委員会に相当)が専門家約20人で組織した科学技術評議会による「決定」というタイトルの文書で、今年2月15日付。
それによると、事故直前のように、低出力状態でほとんどの制御棒が炉心から引き上げられている時は、緊急停止ボタンを押して制御棒を降下させると、炉心下部で核分裂を促進させることになる。このため出力は急増し、炉内で大量の蒸気が発生した。この型の炉では、低出力状態で炉心内の蒸気が増えると、これがさらに核分裂反応を起きやすくさせるという「正のボイド効果」があり、これによって破局的な出力激増を招き、爆発したとしている。
制御棒は、中性子を吸収する吸収棒部分と、その下の黒鉛でできた水排除棒部分からなる。ところが、水排除棒が短くて、制御棒が最も上まで引き抜かれた時には、水排除棒の下端が炉心下端から1.25メートルほど上がってしまい、ここに水が浸入する。この状態で緊急停止ボタンを押すと制御棒が炉心に入っていくが、水排除棒の下の部分では水が押し出されて、一時的にその部分を黒鉛が占めることになる。水は核反応を起こす役目を持つ中性子を、黒鉛よりはるかによく吸収する。水が黒鉛に置き換わると中性子が増えて核反応が進むのだ。
「決定」は、こうした欠陥が事故2年前の1984年に内部で指摘されていたが、改善されないままだったとしている。これまで事故の主原因とされてきた運転員の重大な規則違反については、「事故の発展と規模には無関係だ」と述べている。
この欠陥は、ソ連が1986年に国際原子力機関(IAEA)に報告書を提出したすぐ後から、西側の専門家が推測していた。
ソ連の報告書を検討したIAEA専門家会議で事故原因について説明したアーメン・アバギャン所長は記者(松本)の質問に答え「事故の原因となったのは、まず第一に原子炉の特質によるもので、運転員による規則違反は付加的な効果しか持っていなかった。」と、この「決定」に大筋で同意し、設計の欠陥が規則違反によって事故に結びついたとの見方を示した。
そして、「このことは、事故のあと、早い段階で分かったが、当時、主張したのは私たちの研究所だけだった」と語った。

(朝日新聞 1990/07/17)