【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
ヨウ素129 高濃度に蓄積 東海村 動燃再処理工場の周辺
科技庁研調査
【仙台】
動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場(茨城県那珂郡東海村)周辺の土壌や松葉、海藻類に、通常の100倍以上の濃度で放射性ヨウ素129が蓄積していることが、科学技術庁放射線医学総合研究所(放医研)の環境放射生態学研究部の調査で1日までに明らかになった。国内の核施設周辺で、放射性ヨウ素の蓄積が実証的に明らかにされたのは初めて。ヨウ素129は、使用済み核燃料に含まれる核分裂生成物の一種で、人体に入ると甲状腺(せん)に濃縮する。科学技術庁と動燃は「人体には問題のないレベルだ」としているが、半減期が約1600万年と長く、環境から人体への移行の過程には分かっていない部分が多い。
研究はオランダの科学専門誌に発表され、東北電力女川原発訴訟で、証拠として仙台地裁にこのほど提出された。
土壌でみると、56年の試料で、長野県・戸隠村と長崎市西山の表層の土は1キログラム当たり0.13ミリベクレルにすぎなかったが、再処理工場から15キロ離れた水戸市で15ミリ、1キロの東海村では33ミリベクレルに達し、長野、長崎の約250倍の値を示した。
松葉、海藻、雨水も同様の傾向で、工場に近付くにつれて濃度が高まり、核施設のない地域に比べ100倍以上の濃度だった。
ヨウ素129は、再処理工場からは、フィルターで取り切れなかったものが、大気中に放出される。チェルノブイリ事故後、日本でも大量に検出されたヨウ素131(半減期8日)とは別。微量しか存在せず、検出が難しく、国内ではこれまで原子力関係施設周辺と、それ以外の地域の比較データはなかった。
この研究結果について、動燃を監督する立場の酒井彰・科学技術庁防災環境対策室長は「東海再処理工場周辺で、特に放射性ヨウ素の濃度が高いという報告は受けていない。たとえ放医研のデータが正しいとしても、被ばく線量は極めて低く、健康上の問題はない」と話している。
健康に全く影響ない
分析に当たった村松康行放医研主任研究官の話 東海村で検出した土壌中のヨウ素129の最高値を基に、年間被ばく線量を試算すると幼児で0.5ミリレム程度となり、国際放射線防護委員会の線量限度1500ミリレムに比べ、はるかに低い。健康に全く影響がない。
幼児らへの影響心配
「プルトニウムの恐怖」などの著者、高木仁三郎理学博士の話 放医研のデータの上限(松葉の値)をとって試算すると、幼児の場合、甲状腺での被ばく線量が年間約9ミリレムという安全審査の評価値に近い値になる。かなり高い値で、住民への影響も心配だ。
<放射性ヨウ素> ヨウ素には質量115から140に至る多数の同位体があり、127だけが安定で、ほかはすべて放射性。環境中に放出された放射性ヨウ素は食物などを通して人に摂取され、甲状腺に沈着、がんの原因となる。
<再処理工場> 原子力発電所で燃やした核燃料から、燃え残りのウラン235や、新たにできたプルトニウム239を回収し、再び核燃料として使えるようにする施設。動燃東海再処理工場は56年1月から本格運転に入り、62年8月までに累計350トンを処理している。
(中日新聞 1988/04/02)