【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】

ソ連原発事故報告の4.5倍 セシウム137 450万キュリー
京大原子炉実験所が試算

ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故で、京都大学原子炉実験所(大阪府泉南郡熊取町)の瀬尾健(原子核物理)らのグループは16日までに放出された放射能のうち人体の健康に深刻な影響を及ぼすセシウム137の総量が、ソ連政府が国際原子力機関(IAEA)に報告した値の4.5倍に当たる450万キュリーにのぼる、との試算を得た。世界的にも特異の調査で19日の同実験所学術講演会で発表する。


ソ連政府の報告によると、原子炉から放出された放射能は23種頼を数え、総量は約1億キュリー。うち体内に吸収されやすく、がんの原因となるヨウ素131は700万キュリー、セシウム137は100万キュリー──などとされている。


グループは、半減期が30年で、長期的には深刻な影響を持つとされるセシウム137に注目し、汚染地図づくりを試み、ヨーロッパに行く研究者などを通じポーランドなど空白部の土壌サンプルを入手した。
一方で、地面に降り積もった放射能が発するガンマ線の測定値が同原発からの距離や、風向で放射能の成分比がどう変わるかを解析し、それを基にガンマ線量からセシウム137の沈着量を逆に求める作業を続けた。


こうした作業からソ連、欧州でのセシウム137の沈着量を試算すると、チェルノブイリ原発から半径30キロに拡散されたセシウム137は31万キュリー(ソ連報告28万キュリー)、30キロ-600キロでは140万キュリー(同75万キュリー)だが、報告書に全く触れられていない600キロ以遠の地域(3000キロまで)に280万キュリーが降りそそぎ、合計すると原子炉に蓄積されていた量(770万キュリー)の半分を超す450万キュリーとなった。


住民が将来、どれだけの放射能を浴びるかを示す集団被ばく線量を計算したところ、2億2000万人レムとなった。


これに国際放射線防護委員会(ICRP)の「1万人レム当たり1人のがん死者」の算定基準を用いると、今後、70年間の放射能によるがん死者は2万2000人となり、米原子力規制委員会が先月発表した予想(1万4000人)を大幅に上回った。


<セシウム137> ウランが崩壊してできる核分裂生成物質の1つ。土壌から食物を通じて体内に吸収され、筋肉、生殖腺に集まり、染色体異常、がんの引き金となる。


<キュリー> 1秒間に370億個の原子が崩壊する放射能量の単位。1キュリーはラジウム1グラムに相当する。


(毎日新聞 1987/03/16)