【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
敦賀原発で放射能汚染 海草類から通常値の10倍
一般排水路出口でコバルト60など検出
福井県敦賀市の浦底湾に面する日本原子力発電会社の敦賀原発(沸騰水型、出力35万7000キロワット)の
一般排水路の出口にたまった土砂が高濃度の放射能に汚染されていることが18日、通産省・資源エネルギー庁への報告で明らかになった。
この排水路は冷却水系とは関係のない、背後の山からわき出る地下水や雨水などの水路であり、このような場所から高い放射能が検出されたことはわが国の商業原発では例がなく、同省は事態を深刻に受け止め、調査を開始した。
原因はわかっていない。汚染は同原発が面している浦底湾の広範囲にわたっている可能性があり、海草だけでなく魚にも影響が出ている可能性もある。同省は「今のところ、人体に直接の影響はない」としているが、汚染状況と原因を徹底究明するという。
敦賀原発は今月初め、原子炉内で起きた事故を報告せず、応急修理して運転を続けたことが問題になったばかりだが、改めて原発の安全性を根幹から問われる事態を引き起こした。
湾全体汚染の恐れも
日本原電から18日未明、通産省に入った報告によると、原発取水口付近にある雨水や井戸水を流す一般排水口近くの土砂1グラムから放射性物質のコバルト60が61ピコ(1兆分の1の単位)キュリー、マンガン54が10ピコキュリー検出された。これは、微量の放射能を含んだ冷却水が流れる別の放水口付近の土砂から日常的に検出される放射能値に比べても、約100倍という異常値である。
ふだんはまったく放射性物質が流出するはずのない場所からこれほど高濃度の放射性物質が出たことは、わが国の原発史上まったくなかったことである。
検出のきっかけになったのは、福井県が今月8日に行った1カ月に1度の定期的な環境モニタリング調査。
この調査で、一般排水路出口から南東へ約700メートルの地点で海草「ホンダワラ」を採取して分析したところ、1グラム当たりコバルト60が0.49ピコキュリー、マンガン54が0.16ピコキュリーと、ここ数カ月の測定値の7-49倍もあった。このため、県は14日に日本原電に「浦底湾に大量の放射性物質が流出している疑いがある」と通報、これを受けて日本原電は同じ場所でホンダワラを採取し分析したところ、平常値の約10倍のコバルト60などが検出された。
さらに日本原電が15日、原発の放水口や一般排水路付近の土砂を採取し調べた結果、16日午後になって一般排水路付近の土砂にコバルト60やマンガン54が大量に含まれていることがわかった。
通産省が日本原電から事情を聴いたところ、48年ごろまでは、今回検出された海草の放射能値は「平常値」だった。しかし、その後、コバルト60やマンガン54などを除去する装置を付け、放水口から流し出す放射性物質の量をかなり抑えたため、ホンダワラに蓄積される放射能は少なくなっていた。
ここ数年の数値からすると、一般排水路からこうした高濃度の放射性物質が発見されたことはまったく異常といってよく、同原発の安全管理のずさんさを露呈したものといえる。
原子炉等規制法などに基づいて定められた周辺監視区域外(発電所敷地外)の液体廃棄物放出量の許容濃度はコバルト60が1ccで30ピコキュリー、マンガン54は1ccで100ピコキュリーとなっている。
日本原電は現在、一般排水路を含む発電所内の9地点の土砂を採取し分析しているが、今のところ、冷却水が流れ出る放水口では、異常値は出ていないとしている。また、一般排水路出口は海面より1メートルの高さで、満潮時でも海水につかるところではなく、また、一般排水路から放水口までは250メートル離れており、冷却水の放水口付近からの逆流も考えられないとしている。
なぜ、汚染されるはずのない一般排水路出口で高濃度の放射性物質が見つかったかについては、同省もすでに係官を派遣、調査しているが不明である。
敦賀原発は今年1月、原子炉内の給水加熱器が2度にわたってヒビ割れし、1次冷却水が建屋内に漏れている。この事故を通産省や地元の県や市にも報告せずに補修していた。このため、事故隠しが発覚した今月1日、原子炉の運転を停止しているが、一般排水路の出口の土砂が汚染されていることと、この時の冷却水漏れの関係についても同省で調べている。
原発は全国で22基が現在、運転されているが、このようにまったく予想外の場所から海へ放射性物質が流出したことはない。48年6月、東京電力の福島第1原発1号機で放射性廃液をくみ上げ、ろ過処理中、バルブが締まらなくなり、原子炉建屋外に漏れたことがあったが、汚染した土を取り除いただけですんでいる。
通産省の調査 結論は来週に
通産省は日本原電に指示し、18日午前9時から流出経路を究明するため、発電所構内の放水口、一般排水路など9カ所で水の調査を始めた。また、浦底湾の11カ所で、海水、海底の土砂を採取し、4カ所で海草などを採り、放射性物質がどの程度含まれているか汚染状況の調査を開始した。結果が出るのは来週早々という。
また同省は同日、日本原電本社幹部から今回の放射能漏れについて事情聴取した。
心配な魚介類 通産省は「人体影響なし」
放射性物質コバルト60やマンガン54がこびりついた海草を食べたらどういう影響があるのか。18日明らかになった日本原子力発電敦賀原発の放射能汚染事故は浦底湾で魚をとり、その周辺で暮らす住民に強い不安をもたらした。
本来、放射性物質とは無縁のはずの一般排水路から放射性物質が海に流出し、海草を汚染していた。魚の体内にも蓄積されている可能性がある。「ただちに人体に影響はない」と通産省は言うが、長い間食べ続けたらどうなるのだろうか。
通産省の試算によると、今回高濃度のコバルト60、マンガン54が検出された海草「ホンダワラ」を毎日40グラムずつ1年間食べ続けたとすると、コバルト60で0.02ミリレム、マンガン54で0.001ミリレムになるという。
原子炉を建設する際の安全審査の目標値によると、原発周辺では空中の放射能、また食物を通して体内に入る放射性物質など原発そのものによって一般人が浴びる線量は「年間5ミリレム以下に管理する」とされている。となるとホンダワラを1年間食べても被ばく線量はこの200分の1以下だという。通産省ではこうした試算をもとに「浦底湾の海草を食べてもまず心配はない」といっている。
だが、海草だけではない。魚や貝類も流れ出た放射能で汚れている可能性が強い。通産省は「魚や貝類が汚染されていたとしてもホンダワラに付着した放射能を上回ることはない。魚介類、海草を集中的に食べ続けても5ミリレムをはるかに下回る」と計算している。
周辺の住民の安全のために定められた目標値5ミリレムと同じ程度の被ばく線量になるのは1日に魚介類、海草をざっと8キロ食べることになる、という。しかし、測定結果が出たのはほんの一部だけで、学者の中には浦底湾の汚染の度合いがもっとひどいのではないか、という意見もあり、通産省の試算どおりにいくかどうかはわからない。
「最近にない異常な高さ」
同原発の放射能汚染について放射線医学総合研究所那珂湊支所の上田泰司・海洋放射生態学研究部長は次のように語っている。
原子炉から出る温排水(2次冷却水)には極微量ながら放射性物質が含まれているので、われわれは以前から継続的に調査している。ホンダワラに含まれるコバルト60の濃度を測定するわけだ。浦底湾の敦賀原発の場合、10年ほど前は、生ホンダワラ1グラム当たり最高178ピコキュリーという高い値を検出したことがある。しかし、その後、放射能除去の技術も進んだようで、ここ数年は0.01ピコキュリーと安定していた。したがって、0.49ピコキュリーというのは最近にない異常に高い値だ。
海底にたい積している土の場合はもっと高く、1グラム当たり2-3ピコキュリーというデータもある。しかし、一般排水路からそんなに高い値が出るのはおかしい。海草は放射能をとり込みやすいが、なかでもホンダワラは濃縮係数2000(倍)で最高。これに比べれば、貝は40-50(倍)、魚は1程度。したがって魚中の放射能はホンダワラよりもずっと少ない。結局、今回の汚染値は、ここ数年にない高い値だが、一般の人への放射線被ばく線量と考えれば医学的には大して心配はない。
「過去測定最大値の半分」
日本原電日本原子力発電(鈴木俊一社長、資本金620億円)は龝山通太郎(あきやま みちたろう)常務が18日午前11時半から東京・大手町の経団連会館で記者会見し、福井県の敦賀原子力発電所周辺で起きた放射能汚染について「申し訳ない」と遺憾の意を表明、「安全確保に万全を期するため原因究明を急いでいる」と次のような簡単なコメントを発表した。また、今回の放射能の濃度について「過去に同じ地点で測定された最大値(48年7月)の半分で人体には直接影響ない」と指摘した。
今回検出された環境モニタリングの結果は、過去において測定されている最大値を下回っており、現在のところ環境への特段の支障はないものと考えている。いずれにしても安全確保に万全を期する観点から早急に原因を究明する。
核種まだ他にも?“隠された部分”が怖い 関係者
本来“死の灰”が混じるはずのない一般排水口の泥から通常の100倍もの放射性コバルト、マンガンを検出──。
故障隠しと無謀修理が次々に明るみに出て周辺住民から不信の目で見つめられていた日本原電敦賀発電所にまたまた暗いカゲがさしたが、
18日早朝発表されたデータは「午前5時記者会見」という異例ぶりに加え、内容の面でも異常ずくめ。「一体、発電所内で何が起きたのか」「まだまだ隠されたデータがあるのではないか」とナゾは深まるばかりだ。
「えっ、夜明け前の発表?妙ですねェ。何か重大なことが、それも長期にわたって隠されているのではないか」と疑問を投げかけるのは、久米三四郎・大阪大理学部講師(放射化学)。
「不審な点」は、排水口の泥の採取が昼間でなく、17日夜に行われたこと。14日の福井県衛生研究所の測定結果がいかに日本原電を驚かせたとは言え、夜間作業までした“熱心さ”の理由は?
しかも原子炉内の“死の灰”の回収系統とは無関係な一般的な雑排水を吐き出す排水口が調査対象に含まれたこと自体、原電側は「放射能が漏れた」ことを知っていたのではないか。ふだんは測定地点に入っていないから、比較するデータは“取水口付近”という別の地点のものになっており「放射性物質の測定は少しでも場所がずれると数字がガラリと違うから、その意味では“100倍”という数字よりもっと深刻な事態があるかもしれない」と久米講師は指摘する。
関係者が強い関心を寄せているのはコバルト、マンガン以外の“隠された核種”についてのデータ。
原発内で生まれる放射性物質には多くの種類があり、事故の種類によってその構成はガラリと変わる。
コバルト、マンガン以外に放射性の鉄や亜鉛が出ていればパイプ類のサビと考えられ、さほど大きな異常があったと見なくともよい。しかし、セシウムやストロンチウムなどが入っていれば、これは燃料棒に出来た小さな穴から核物質が直接漏出したものとみられ、さらにウランやプルトニウムが検出されれば、燃料棒が破れる大事故があったとしか考えられず、雑排水に入ったとすれば大変。
今回のような測定ではコバルトなどと同時にすべての核種についてデータが出ているはずなのに、なぜこの2種だけしか発表しなかったのか。これまた重大な疑問だ。
関電美浜原発の燃料棒事故(48年3月)の追及を続けている小出裕章・京大原子炉実験所助手は「排水口で異常があるなら、敷地内の排水ルートをさかのぼって泥を取れば、すぐ出発点を突きとめることが出来るはず」といい、「原因不明」という発表に首をかしげている。
「今回のデータは外部に情報が漏れそうになってあわてて一部を公表したような感じで、隠しきれるものなら隠していたのではないか」と、久米講師らは資料の全面公開を強く求めている。
<日本原子力発電敦賀原発> 昭和32年、9電力会社、政府などの出資で原子力開発を目的に設立された日本原子力発電会社が茨城県東海村の東海発電所に次いで45年3月に運転を始めた、わが国2番目の原発。関西電力高浜、大飯、美浜など原発の集中する福井県の若狭湾沿岸、敦賀半島の先端に位置、敦賀市から約12キロ離れている。敷地面積は約220万平方メートル。
原子炉は我が国初の沸騰水型で出力は35万7000キロワット。同じ型の原子炉は福島県の東京電力・福島第1原発、静岡県の中部電力・浜岡原発、島根県の中国電力・島根原発で稼働しているが、出力は敦賀原発が一番小さい。日本原子力発電では53年にさらに加圧水型の2号機(出力110万6キロワット、加圧水型軽水炉)の建設計画を決めている。
同原発前の海域では、敦賀市漁協、福井県水産試験場が同原発から排出される温排水を利用、昭和46年からマダイ、ハマチ、イシダイ、ヒラメ、アユ、クルマエビなどを繁殖している。
<コバルト60、マンガン54> 放射性同位元素の代表的なもので、放射能が半分になる半減期は、コバルト60が5.24年、マンガン54が291日。原発からは核分裂生成物(死の灰)が出るが、コバルト60、マンガン54は核分裂生成物ではなく、原発内の鉄サビなどに中性子があたってできる。これが1次冷却水の中に入り込み、さらに一部が2次冷却水にまぎれ込む。
<沸騰水型軽水炉> 冷却材の普通の水(軽水)を炉内で沸騰させ、その蒸気で直接タービンを回して発電する原子炉。炉心を囲む圧力容器の中で蒸気を発生させるので、加圧水型のような蒸気発生器がいらない。
タービンを回す蒸気は、1次冷却水そのものであるため放射能を含み、放射線管理が複雑になる。発電炉専用として米・ゼネラルエレクトリック(GE)社が開発した。
(毎日新聞 1981/04/18)