【の】格助詞(格助詞)

(一)連体的用法 体言(または体言と同等とみなされた語句)と体言(=名詞)を結びつける。

春【の】日のかすめる時に  
更け行く秋【の】夜 
よろづ【の】事に使ひけり 
いささか【の】ひま

なお、体言が「ごとく」「ゆゑ」「やう」「まにまに」などにつづく場合、体言とそれらの語とは、「の」によって結ばれる。
(「が」によって結ばれる場合については、「が」の条、参照)

動かざること山【の】ごとし
何【の】ゆゑぞと問ふ人もなし
龍【の】やうなるもの出できて我を食はんとしき
もみぢの錦、神【の】まにまに

連体的用法で、したに体言の現れない使い方がある。(「が」の条、参照)
さては、くらげ【の】ななり
*現在、いわゆる「体言の代用」などといわれる用法。このたび亀井孝先生の『概説文語文法 改訂版』が、ちくまから出るとのこと(旧版は吉川弘文館)であるが、未見。このブログの記述は、旧版によるところが大きい。

(二)連用的用法 次のような場合、文の主語となる語につく。(「が」の条、参照)
イ、述部の用言がそれで文を終止せずに、後に続く部分の連体修飾部になるか、「~するの」「すること」の意の名詞句となる場合

御はかまも、昨日【の】おなじくれなゐなり
いみじきもののふ・あた・かたきなりとも、見てはうち笑まれぬべきさま【の】し給へれば
ロ、主語を特に強調して、それと示すために添える場合。
人【の】ゆく裏に道あり花の山 

次のような「の」は、「のように」と訳すのが習慣である。しかし、実際には、「の」に、そういう意味はない。そういう場合は、修辞法の隠喩である。だから「のように」と訳しても、実は隠喩であるということは、知っておくべきだ。
白雲【の】 こなたかなたに 立ち分かれ
あさか山 かげさへ見ゆる 山の井【の】 浅き心を わが思はなくに
日暮るるほど、例【の】集まりぬ


接続助詞「に」
 
まえの句の述部の連体形について、あとの句を限定する。前の句と後の句のあいだの意味の関係は、文脈によって決まるが、ほぼ次のように分類される。
 
1 これといった因果関係は、とくにない二つの事柄を結びつける。
 
『徒然草』第八十九段「ある所にて夜ふくるまで連歌して、ただひとり帰りける【に】、小川の端にて、音に聞きし猫又あやまたず足元へふと寄り来て、やがてかきつくままに、首のほどを食はんとす。」(あるところで夜が遅くなるまで連歌をして、たったひとりで帰ったところ、小川の川端で、うわさに聞いた猫又が、狙いはずさず足元へサッと近寄ってきて、そのままとびかかるやいなや、首のあたりをかみつこうとした)
 
 
2 前の句の内容から期待されるところのものと異なる内容のものが、あとの句に対立的にあらわれる場合が実際には少なくない。
 
『竹取物語』《かぐや姫の昇天》「なにしに悲しき【に】、見送りたてまつらむ。」(どうして、かぐや姫との別れが悲しいのに、見送りもうしあげましょうや、いや、悲しすぎて、とても見送りもうしあげる気になれません)
 
『徒然草』第百八十九段「かねてのあらまし、みな違ひゆくかと思ふ【に】、おのづから違はぬこともあれば、いよいよ物は定めがたし。」(まえまえからの予定が、みんな食い違っていくかと思っていると、たまたま食い違わないで予定通りになることもあるので、ますます物事というものは、こうなるはずだとは決めつけがたい)
 
・現代語の「のに」は、こういう場合の「に」から発達したものである。
・接続助詞の「に」は、格助詞の「に」の用法から枝分かれして発生したものである。
・格助詞の「に」に接続助詞の「て」がついた「にて」の形もある。現代語の「で」に当たる。
『土佐日記』「潮海のほとり【にて】あざれあへり」。
接続助詞「に」
 
前の句の述部の連体形について、あとの句を限定する。前の句と後の句とのあいだの意味の関係は、文脈によって決まるが、ほぼ以下のように分けられる。
 
1 これといった因果関係のない二つの事柄を結びつける。
 
・あやしがりて寄りて見る【に】、筒の中ひかりたり(不思議に思って近寄って見てみると、筒の中が光っている)。
 
・わが入らんとする道は、いと暗う細き【に】、つた・かへでは茂り(われわれが入っていこうとする道は、とても暗く細いうえに、おまけにツタやカエデが生い茂っていて)
 
2 前の句の内容から期待・予想されるものと異なる内容のものが、後の句に現れる場合が少なくない。
 
・かみなづきつごもりなる【に】、もみぢ散らで盛りなり(旧暦十月の末だというのに、紅葉がまだ散らずに盛りである)
 
※現代語の「のに」は、こういう場合の「に」から発達したものである。
 
※接続助詞の「に」は、格助詞の「に」の用法から派生したものである。
 
※格助詞の「に」に接続助詞の「て」がついた「にて」の形がある。現代語の「で」にあたる。
・しほうみのほとり【にて】、あざれあへり(塩のきいた海のそばで打ち上げられた魚が腐っている。海のそばで酔ってふざけ合っている)
・われ、朝ごと夕ごとに見る竹の中におはする【にて】知りぬ(私は毎朝毎夕目にする竹のなかにいらっしゃるので、はっきりとわかった)
 
格助詞
 
「に」
1 場所あるいは時間を表す。
 
・みかさの山【に】いでし月かも(三笠の山にでたあの月と同じなのだなあ)
 
・あした【に】死に、ゆふべ【に】生まるるならひ(朝に誰かが死んでは、その夕方には誰かが生まれてくるというこの世のならわし)
 
2 事柄の原因または理由を表す。
 
・わがころもではつゆ【に】ぬれつつ(私の着衣の袖は露にぬれることだ)
 
3 目的を表す。
 
・あづまのかたに住むべき国もとめ【に】とて(東国方面に自分が住むのに適当な国を探しに行こうと思って)
 
4 結果を表す。
 
・おとな【に】なりぬれば(成年に達してしまったので)
 
5 比較の基準を表す。
 
・この人々の深きこころざしは、この海【に】は劣らざるべし(この人々の深い真心は、この海に比べて決してその深さでは劣っていないにちがいない)
 
6 動詞の表す意味を強めるために、同じ動詞を繰り返すとき、動詞と動詞とのあいだに挿入する。その場合、まえの動詞は連用形になる。
 
・心地、ただじれ【に】しれて目守りあへり(気持ちが、ただもう呆然としてしまって見つめあっていた)
 
 
なむ
●(係助詞)  種々の語に付く。係り結びの呼応がおこる。強意の表現に用いられる。散文に多く用いられる。
 
『竹取物語』「駿河の国にあんなる山【なむ】この都も近く天も近くはべると奏す」(駿河の国にあるという山が、この京のみやこも近く、天も近うございます、と帝に申し上げた)
 
「なむ」の結びが省略される場合がある。『伊勢物語』《東下り》「これ【なむ】都鳥」
 
●(終助詞) 動詞の未然形について、文を終止させ、事柄の実現を他にねがうのに用いる。
 
『伊勢物語』《芥川》「はや、夜も明け【なむ】」(雨や雷鳴がやむだけでなく、はやく夜も明けてほしい)
 
※この「なむ」を完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」に推量の助動詞の「む」の付いたものと混同しないように。
 
 
など(副助詞)
 
●例示(ナンカと訳す) 事物を挙げる際、なお、ほかに省略したもののあることを示すのに用いる。
『土佐日記』「このとまりの浜には、くさぐさの、うるはしき、かひ・いし【など】おほかり」(この港の砂浜には、種々の、綺麗な貝や石ナンカが多くある。)
 
●婉曲(ナドと訳す)  はっきり言うのを避けて遠回しに言う気持ちを示す。 
『枕草子』「雨【など】降るも、をかし」(雨ナドが降るのも味わいぶかい)
 
●引用(~ナドトと訳す) 内容のおおよそを引用する。
『更級日記』「『いとうつくしう、おひ成りにけり』【など】、あはれがり、めづらしがりて」(とても可愛らしく成長なさいましたねえナドト感動し、ほめて)
 
 
 
 
「ながら」(接続助詞)
 
動詞の連用形、または、体言につく。平行して行われるか、あるいは、平行して存在する二つの事柄を互いに対立させて示す。
 
・源氏の五十余巻、ひつに入り【ながら】(源氏物語五十数巻を、ひつに入ったママ)
 
・三人【ながら】島を出でたりなんど聞こえば(三人スベテ島を出たなどと、もし京へ聞こえたなら)
※数詞についた場合スベテの意を表す。
 
・食ひ【ながら】(ながら文をも読みけり(芋を食いナガラ経典を読んだとさ)
 
・身はいやし【ながら】母なむ宮なりける(身分は低いトハイウモノノ、母は皇族だったとさ。)
 
・神【ながら】神さびいます(神トシテマサニこうごうしくいらっしゃる)
※体言につく場合は、多く口語の「ノママニ」にあたる。
 
終助詞「な」
 
1 禁止の「な」 動詞の終止形につく。
 
・あやまちす【な】。心して降りよ(失敗するナ。気をつけて降りろ)
 
2 詠嘆の「な」 いったん終止した文のあとに感動詞のごとく、かるく添える。
 
・花の色は移りにけり【な】(桜の花の色はあせてしまったナア)
 
3 願望の「な」 動詞の未然形につく。*これは奈良時代に見られる用法。
 
A 自己の願望
・この丘に菜つますこ、家聞か【な】(この丘で菜をお積みになっているお嬢さん、おうちはどこか聞きタイ)
 
B 他に対する願望
・もろもろ救ひ渡し給は【な】(多くの人々を救済して極楽浄土へお渡しになっテホシイ)
 
C 勧誘(自他でともに行う行為)
・潮もかなひぬ、今は漕ぎいで【な】(潮の具合もちょうどよくなった、サア漕ぎだそウよ)
接続助詞「ど」「ども」
 
用言の已然形について、既定または確定の逆接条件をあらわす。
 
船路なれ【ど】、馬のはなむけす(馬には乗らぬ船旅であるが、馬の鼻を旅の目的地のほうへ向けて旅の無事を祈る儀式をした)
 
ゆくりなく風吹きて漕げ【ども】漕げ【ども】しりへしぞきにしぞきて(不意に風が吹いて、漕いでも漕いでも後方へどんどん船が後退して)
接続助詞「とも」
 
動詞および補充形容詞には、その終止形、完全形容詞および不完全形容詞には、その連用形について、仮定または未定の逆接条件を表す。「~とも」=「たとえ~ても」と訳す。
 
・雲な隠しそ 雨は降る【とも】(雲よ隠すな タトエ雨は降っテモ)
 
・かくさしこめてあり【とも】、かの国の人こば、みな開きなむとす(タトエこんなふうに戸締りをして私を屋敷のなかに閉じ込めておいテモ、あの月の国の人がもしやって来たら、みんな開いてしまうだろう)