猫界のマザー・テレサ(1971年2月3日 ローマ)

永山は、猫たちの歓迎に大喜びしていた。彼は動物好き、それも無類の猫好きだからだ。物心ついた頃から好きだったが、大人になってからはますます好きになった。
外房の海で漁師をしていた頃、彼の帰りを漁港で迎えてくれたのは、(いもしない)恋人ではなく、恋猫たちだった。
仕事が休みの日、海岸や河口で釣り糸を垂らしている時に、はべらしていたのは、美女(まして、いるわけもない)・・・ではなく、美猫たちだった。
もちろん、猫たちの目当ては、永山という男ではなく、彼がくれる魚だったが、そのうち彼自身も猫たちから慕われ、愛されるようになった。こうなると、彼の方もますます猫たちが可愛くなり、かわいがり方にも気合いが入るようになった。
永山は、フラナガン家の猫たちの様子に気がついた。今は皆健康で、毛の艶も良いようだが、多くは古い傷を持っている。目が見えない猫や、脚が一本無い猫もいる。
(今は幸せそうだけど、みんな大変な思いをして生きてきたんだなあ・・・)
彼がそんな思いにふけっていると、
「こんにちは、イロ!いらっしゃい。待っていたわよ、特に主人がね」
ラウラの賑やかな声が聞こえてきた。アレッサンドラもフラナガンも永山の名前を正確に発音してくれるが、生粋のローマっ子のラウラは、やはりHの音が苦手なようだ。もっとも、将来義母になるこの人に対しては、もう永山もあまり気にしなくなっていた。
「お義母さん、こんにちは。猫ちゃんたち、すごいたくさんいますね!」
永山の方も、最初から家族として話をしている。
「ああ、みんなローマの街中で拾ってきた野良ちゃんたちよ。死にそうな子たちだけ選んできたけど、今じゃこの通り元気になったわ。でも、もう元のところには戻せないから、みんなうちの子になったのよ」
「すごいな・・・」
「ローマの街には野良ちゃんが多いのよ。古代の遺跡なんかには特にね。この子はコロッセオ、この子はフォロ、それからこの子はカラカラ浴場にいたのよ。こっちが羨ましくなるようなところに住んでいたけど、外の暮らしは大変。まあ、食べるものだけは誰かくれる人がいるからいいけど、虐められたり、それで怪我もしたり、病気になったりね」
「そうですよね・・・」
「猫ちゃんたちを捨てる人がいるからいけないのよね。こんなに可愛いのに」
ラウラの話に永山は感動を覚えた。
「そうです。本当にそうですよ!」
ラウラは永山に話を振った。
「イロ、あなたも猫好きみたいね。それに、うちに来た早々から猫たちに気に入られているし」
「はい、元々漁師だから、売り物にならない魚をよくあげていたんですよ。そうしたら、猫たちもこっちを好きになってくれました。まあ、これは自分の育った村の話ですが、一つのところでそうなると、他の国・どこの街に行っても、猫には好かれるようですね。別に、猫の世界の連絡網なんてないと思うけど」
「いい人ねぇ。サンドラやうちの主人の目が高いことがよくわかったわ」
二人の猫談義は続いた。フラナガンが来たので一旦終わったが、そうでなければいつまで続いたかわかったものではない。
契約に向かう永山にラウラが言った。
「イロ、あなたも一人暮らしで寂しいでしょう。この子なんてサンドラに似てるからいいんじゃない。丸顔で、猫なのに目が下がっていて、サンドラそっくりよ」
その猫は、たしかにアレッサンドラに似ていた。永山は猫を抱くラウラに答えた。
「可愛いですね、本当に。でも、その子、男の子ですよ・・・」
そう答えながら、フラナガンのいる部屋に入って行った。
(続く)

永山は、猫たちの歓迎に大喜びしていた。彼は動物好き、それも無類の猫好きだからだ。物心ついた頃から好きだったが、大人になってからはますます好きになった。
外房の海で漁師をしていた頃、彼の帰りを漁港で迎えてくれたのは、(いもしない)恋人ではなく、恋猫たちだった。
仕事が休みの日、海岸や河口で釣り糸を垂らしている時に、はべらしていたのは、美女(まして、いるわけもない)・・・ではなく、美猫たちだった。
もちろん、猫たちの目当ては、永山という男ではなく、彼がくれる魚だったが、そのうち彼自身も猫たちから慕われ、愛されるようになった。こうなると、彼の方もますます猫たちが可愛くなり、かわいがり方にも気合いが入るようになった。
永山は、フラナガン家の猫たちの様子に気がついた。今は皆健康で、毛の艶も良いようだが、多くは古い傷を持っている。目が見えない猫や、脚が一本無い猫もいる。
(今は幸せそうだけど、みんな大変な思いをして生きてきたんだなあ・・・)
彼がそんな思いにふけっていると、
「こんにちは、イロ!いらっしゃい。待っていたわよ、特に主人がね」
ラウラの賑やかな声が聞こえてきた。アレッサンドラもフラナガンも永山の名前を正確に発音してくれるが、生粋のローマっ子のラウラは、やはりHの音が苦手なようだ。もっとも、将来義母になるこの人に対しては、もう永山もあまり気にしなくなっていた。
「お義母さん、こんにちは。猫ちゃんたち、すごいたくさんいますね!」
永山の方も、最初から家族として話をしている。
「ああ、みんなローマの街中で拾ってきた野良ちゃんたちよ。死にそうな子たちだけ選んできたけど、今じゃこの通り元気になったわ。でも、もう元のところには戻せないから、みんなうちの子になったのよ」
「すごいな・・・」
「ローマの街には野良ちゃんが多いのよ。古代の遺跡なんかには特にね。この子はコロッセオ、この子はフォロ、それからこの子はカラカラ浴場にいたのよ。こっちが羨ましくなるようなところに住んでいたけど、外の暮らしは大変。まあ、食べるものだけは誰かくれる人がいるからいいけど、虐められたり、それで怪我もしたり、病気になったりね」
「そうですよね・・・」
「猫ちゃんたちを捨てる人がいるからいけないのよね。こんなに可愛いのに」
ラウラの話に永山は感動を覚えた。
「そうです。本当にそうですよ!」
ラウラは永山に話を振った。
「イロ、あなたも猫好きみたいね。それに、うちに来た早々から猫たちに気に入られているし」
「はい、元々漁師だから、売り物にならない魚をよくあげていたんですよ。そうしたら、猫たちもこっちを好きになってくれました。まあ、これは自分の育った村の話ですが、一つのところでそうなると、他の国・どこの街に行っても、猫には好かれるようですね。別に、猫の世界の連絡網なんてないと思うけど」
「いい人ねぇ。サンドラやうちの主人の目が高いことがよくわかったわ」
二人の猫談義は続いた。フラナガンが来たので一旦終わったが、そうでなければいつまで続いたかわかったものではない。
契約に向かう永山にラウラが言った。
「イロ、あなたも一人暮らしで寂しいでしょう。この子なんてサンドラに似てるからいいんじゃない。丸顔で、猫なのに目が下がっていて、サンドラそっくりよ」
その猫は、たしかにアレッサンドラに似ていた。永山は猫を抱くラウラに答えた。
「可愛いですね、本当に。でも、その子、男の子ですよ・・・」
そう答えながら、フラナガンのいる部屋に入って行った。
(続く)















