郭公は三度目に嘘をつく 3
「例の女の子、ほら、あの香水のだよ。」
カッコウは一口吸い、きたない煙を吐き出すと、そう言った。「なんだい?君は彼女に気があるのかい?」ネコは狼狽しない。もはや、意味がわからない。自分よりも、初めて出会った隣の不気味な男の方が、自分の夢の内容に詳しいとは、どういうことだ? ネコはトリックをさぐった。そして、あらためて自分の観た夢について考えた。するとどうか、ますます全くわからなくなった。果たして、そんな夢など観たのだろうか?
ネコの眼の色が微かに変わったのを、カッコウは見逃さなかった。二十四分の一秒間だけ挿入されたサブリミナルさえ、カッコウは用意に見破る。その特異な注意力と洞察力が、今の彼を為していることは間違いなかった。そして、たった今、カッコウは新しい顧客(カスタマー)を手に入れたのだ。気分が高揚したカッコウは、ろくに吸っていない煙草を、もう灰皿へ押し捨てて言った。「すばらしい!」
郭公は三度目に嘘をつく 2
郭公は三度目に嘘をつく 1
「今晩は、お待ちしておりました」と黒服は言い、扉を開けた。そしてそれは、ネコにとって三度目のことだった。一度目の失敗をひどく気にかけていたネコは――二度目と同様に――ヴィブナムで新調した、彼の目のように深い黒のスーツに身を包んでいた。あらわになった室内から、微かに、例の香水の匂いがする。ネコは確信し、足を踏み出した。よく磨かれたエナメルの黒靴に、頭を下げたドアマンの、満足気な微笑がうつった。
ネコがカッコウと出会ったのは、ヴィブナムの向かいにあるバーでのことだった。サングラスの絵が描かれたTシャツを着て、ウィスキーをロックで飲みながら手の中の電話に向かってけたけたと笑っている男、それがカッコウだった。時折聞こえてくる「ルーレット」や「カード」といった言葉から、ギャンブルかカジノの話だとネコは思った。なんとなく、ネコにはカッコウがプレイヤーには見えなかったので、ディーラーか、あるいはオーナーなのだろうか、と色々酩酊した頭で考えていると、「どうしようもない男だな」という言葉を最後に、カッコウは電話を切った。ネコがカッコウを見ていると、ふいと目が合った。気がつけば、客は二人だけになっていた。カッコウは慣れ慣れしく目を細めて笑い、「やあ」とネコに声をかけた。ネコはひどく酔っていて、今でもこの出来事が夢ではないかと思っている。「ちょっといいかい」と隣にやってきたカッコウが話し出した内容は、たとえ素面でも、にわかには信じがたいものだった。
