
昼の高槻祭っちゅうのはな、地面ごと煮込んどるみたいな暑さやった。ソースの匂い、汗、風鈴、焼けた空気――ぜんぶ混ざって、そこに「夏」いう名の怪物が、どてっと寝そべっとった。ステージの上、俺はギター抱えて汗まみれ。音響はハウるし、モニターは沈黙。観客は半分ビールでできとる。でも、それがええ。世の中なんて、だいたい半分アルコールでできてるんや。音も同じや。出した瞬間に、世界がちょっとズレる。そのズレが気持ちええんや。――生きてる証拠や。その時や。客席の端で、ひとりの青年が俺を見とった。何かを探すような目つきで、じっとステージを見つめとる。あとで聞いた。あれがROLLY寺西やった。けどその瞬間は、ただの“ギターを知っとる目”をした奴やと思った。けどな、そういう奴がいちばん危ない。静かに見とるようで、胸ん中は爆発寸前や。ピックを握り直した瞬間、空気がビリッと裂けた。右手を上げる――その刹那。ギターが笑い出したんや。「ウヒョヒョ〜」「ギュルギュルギュル〜」「ヒヒヒッ」音というより、魂が笑いながら暴れ出した感じやった。観客ざわつく、子ども泣く、旗が揺れる。太陽までも、「お前ら、バカでええな!」って笑っとった。その時、ボーカルがアンプに火をつけよったんや。「ロックは燃えてなんぼや!」言うてな。ドンッ! 火花が散って、アンプがゴロッと転がる。それがコロコロ転がって――ROLLYの足元まで行った。けど青年は一歩も引かん。炎の向こうで、ただギターを見てた。その瞳が言うとった。「もう、ふつうのプレイじゃ満足できへん」ってな。ハハハ。ギターが笑い、炎が踊り、太陽がうなずいた。あの音は、俺の意志やない。ギターが勝手に笑うてた。俺はただの見届け人や。――それが、“笑うギター”のはじまりやった。年月がたち、“笑うギター奏法”っちゅう名前が勝手に歩き出した。野村義男の番組で紹介され、2ちゃんねるにスレが立つ。「やり方知ってる奴、いる?」――知らん。誰も知らん。本当のやり方は、俺しか知らん。墓まで持ってく。だって、あれは技術やない。虚と実の皮膜がビリビリ震えた瞬間、音がそこからニヤッと顔を出しただけや。真実はいつも笑っとる。俺らが勝手に深刻ぶってるだけや。夜中になると、静かな部屋でギターを抱える。窓の外では風がひゅうと鳴る。右手を上げる。すると骨の奥で、あの音が鳴る。あの夏の太陽が、まだ笑ってる。俺も笑う。それでええ。それで充分や。……で、余談やけどな。この前ROLLYのDVD見たら、「俺が発明者と言う事、やり方のヒント」まで載せとった。あいつ、やるなぁと思た。あの時の炎の向こうの目、まだ燃えとるんやなって思た。みんな、買ってや。ギター、笑うで。――知らんけどな。ウヒョヒョ〜。