二次元大好きイーノックのラノベ風小説ブログ

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自作ラノベ小説や二次創作を書いていきます

●『狼犬種族の守護者 ~2014年へ~』

●『ブラック・ブレット ~大阪エリア編~』二次創作
 
●戦対課 少年少女事件簿

小説家になろう というサイトでも小説公開してますので、暇ならどうぞ

○小説情報

以下の小説は、これからこのブログで更新する予定のモノです。
その他の小説は『小説家になろう』に移転 or 更新ストップ状態です。

更新速度は不安定なので、ご了承を。


・狼犬種族の守護者


・戦対課 少年少女事件簿


・二次創作 ブラックブレット ~大阪エリア編~
 


Amebaでブログを始めよう!
10月31日 土曜日  午前9時50分
白川県 柿ノ木市中央区宮部 JR柿ノ木駅ビル西口前



 自宅マンションがある北区薄輪4丁目から県道27号柿ノ木五宮線を南下していくと、地上15階・地下3階で構成されているJR柿ノ木駅ビルが見えてきた。
 近代的なシャープなフォルムのしたスポーツツアラーに跨っている鎌ヶ谷拓真は、駅ビル西口前にバイクを停車させ、被っていたヘルメットを脱いで、腕時計へと目をやる。


「午前9時50分。あと10分か … 」


 そう呟き、拓真は駅ビル西口前をグルリと見渡してみる。
 朝の通勤時間はとっくに過ぎているせいか、駅前には人がチラホラいる程度であった。

 今日は拓真がいつも利用しているネットオンラインゲーム:『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』のフレンド仲間であるチルルとリアルで会う約束をした日である。
 指定された時間は午前10時にJR柿ノ木駅西口前とのこと。ちなみに今のところ、誰かを待っている様子の人は見受けられない。


「チルルには事前に、青いバイクを停めておくからその前で待ってる って連絡したんだけど … 上手く伝わっているかな?」

『大丈夫ですよ、拓真さん。あと10分、気長に待ちましょう!』


 バイクの上に浮遊している守護神:ミーサの姿をまじまじと見つめながら、拓真は少しだけ不満な表情を浮かべた。


「ミーサ、分かってるだろうな?」

『何がですか?』

「チルルと居る時は、絶対に俺に話しかけてこないっていう約束を。周りの連中はお前の姿が見えないんだから、俺とお前が会話していても、周りの奴らは俺が独り言を呟いているにしか見えないんだからな」

『も、もちろんですよ … 拓真さんに話しかけないように努力します』

「本当か? 高校時代みたいに俺に構ってもらえないからって、いろいろとイタズラしてくるんじゃないだろうな?」


 実は言うとミーサは寂しがり屋だ。それは拓真もよく理解している。

 拓真が高校時代だった頃、ミーサは授業中よく拓真に抱きついたり話しかけたり、テストでは問題に悩む拓真にこっそりと答えを囁いたりしていた。その他、鉛筆や消しゴムを奪い取ったりもした。そう、ミーサは何とかして拓真の気を自分へと向けてもらいたかったので、そういうイタズラを行っていたのだ。

 別に拓真を困らせてやろうと思ったり、拓真のことが嫌いだからそういうことを行ったわけではないということを、拓真自身も理解しているのだが。


『本当ですって! あたし、拓真さんに嫌われるのだけは嫌ですから! 拓真さんの迷惑にならないよう、頑張ります!』

「それならいいんだけどさ」

『信じてくれるんですか? ありがとうございます!』


 朝顔模様のピンクの浴衣をなびかせながらミーサはグルグルと拓真の頭上を飛び回り、喜びのアピールをする。
 そんな彼女の姿を見て、拓真は苦笑した。


『あっ、拓真さん! ここ寝癖付いてますよ?』

「ん、このくらい別にいいだろ」

『ダメです! 身だしなみは綺麗にしておかなければいけませんよ! ほらほら、上着も少し乱れています!』

「つーかお前、お節介なお母さんかよ。別にデートしにきたわけじゃないんだからさ … 細かいことはいいじゃん」

『お母さんより、世話好きの妹って呼ばれる方が嬉しいんですけど … 』

「どっちでもいいわw」


 その時、3人組の中年女性がこちらを見てヒソヒソ話をしながら通り過ぎて行ったことに気が付き、拓真は顔を真っ赤にして「やっちまった … 」と呟いて、うな垂れた。
 周りの人から見れば、先程の拓真はバイクの近くで独り言を呟いている頭のおかしい人にしか見えていなかったであろう。


「うわ … やべぇ、今日はもうずっと黙っておくわ」

『拓真さん … さっきのは、別にあたしが悪いわけじゃないですよね?』


 やがて時刻は午前10時を迎え、待ち合わせの約束時間となった。
 そろそろチルルが現れるだろうと思っていると、突如声を掛けられた。


「あの … すみません」


 拓真が声をした方向に視線を向けてみると、そこには車椅子に座っている1人の少女の姿があった。

 車椅子に座っている少女は、それはもう何とも言えぬ程の美少女であった。

 髪は煌めく銀色をしており、髪型はカントリースタイルと呼ばれる結び目が耳より下にある2つ結び(ツインテール)にしている。顔は少しだけあどけなさが残っている幼い顔立ちに、右目はブラウン・左目はブルーという通称:オッドアイと呼ばれる左右異なる目の色をしている。白いワンピースの上から淡い桃色のカーディガンを羽織っており、ワンピースの裾からは黒タイツに包まれた細い脚が露わになっている。
 その姿は、まるでお人形さんのように可愛らしかった。

 拓真が「えっ?」と固まっていると、少女は首を傾げながらも質問を投げかけてくる。


「あなたが … タクさんですか?」

「えっ … なぜ俺のネット上の名前を … 」


 拓真がネット上で名乗っている名前「タク」は、ネット上でフレンド仲間「チルル」と会う約束をしたのは遂2日前。
 そして実際に会う約束日は10月31日土曜日で、待ち合わせ時間は午前10時00分、場所はJR柿ノ木駅西口前にて、愛車の青いバイクの前で待っていると伝えた。それが今日である。

 現在、駅ビル西口前にて青いバイクの前にいる人物は鎌ヶ谷拓真しかいない。当然、駅ビル西口にチルルがやってきたら、彼に話しかける事だろう。
 つまり、こうして自分に話しかけてきて、ネット上の名前「タク」の名を知っているということが意味しているのは …


「ま、まさか … き、君が、チルル … なのか?」

「はい、わたしがチルルです」


 予想もしていなかった出来事に、拓真は驚かずにはいられなかった。なぜならばチルルが女だったからだ。


(いやいやいや … 待て!! 確かチルルのアバターは男だったよな!?)


 しかし今思い起こしても、チルルが男のアバターを使用しているとはいえ、リアルが男であるという証拠は見受けられなかったハズだった。
 アバターの外見は中性的な顔立ちの青年であったが、自分が男であるとは一言も口にしていなかったし、話し口調もずっと敬語だった。ただ、拓真はアバターの外見だけで、チルルが男であると勝手に決めつけていただけにすぎなかったのだ。

 拓真が驚きで動揺していることを感じ取ったのか、車椅子の少女:チルルは申し訳なさそうな表情を浮かべ頭を下げてきた。


「ごめんなさい。タクさんが驚かれるのも無理はないですよね … わたし、ネット上では男として振る舞っていたのですから … 」

「あっ … いやいや、チルルが謝る必要はないって。俺が勝手に男だと思っていたんだからさ」

「でも … 性別を偽っていたのは、わたしの方ですから … 」

(こういう礼儀正しい面だけは、ネット上のチルルと同じだな)


 実はチルルが女であったことが判明して物凄く驚いたが、とにかくチルルと会えたことに拓真は嬉しかった。
 まだお互いの本名を知らないので、とりあえず自己紹介でもするかと考えていたところ、車椅子のチルルの背後にスーツを着た男性が立っていることに、今更ながらも拓真は気が付いた。


「とりあえず自己紹介を … と言いたい所だけど、後ろにいる人は … ?」

「あっ … わたしのお父さんです」


 そう言えば親同伴なら許してくれるとチルルは言っていたな、と拓真が思い出した所で、その中年男性が頭を下げてきた。


「どうも、私は父の千葉(ちば)康三郎(こうざぶろう)と言います」


 そう言って人柄の良さそうな優しい笑みを浮かべて、ご丁寧にも名刺を手渡してきたので、拓真は丁寧に名刺を受け取り、同じく頭を下げた。


「君が娘のネットゲームでの友達か。いやいや、真面目そうな青年で本当に安心したよ」

「恐縮です」

「娘がいつもお世話になっているそうだね」

「お世話だなんてとんでもない。俺は娘さんとただゲームをしたり、チャットをしたりする関係ですよ」


 拓真はそう言い、先程貰った名刺にチラリと目をやった。
 名刺には『株式会社床崎電機 営業部 営業二課 課長  千葉 康三郎』と書かれてあったので、拓真は思わず目を見開いた。

 株式会社床崎電機といえば、日本の総合電機メーカーの1つである。
 家電製品から自動車部品、人工衛星、防衛機器、通信機器などのあらゆる製品を製造・販売しており、あの四菱電機に迫る程の勢いで急成長している。特に防衛・兵器分野で高いシェアを持っており、陸上自衛隊の量産型戦闘特化二足歩行兵器:「アサルト」、災害救助用無人パワードスーツなどを製造していることで有名だ。

 ちなみに拓真の右腕義手も、この株式会社床崎電機の特注製品である。


「株式会社床崎電機といえば有名な会社ですよね。むしろ俺の方がお世話になっています」


 拓真が自分の右腕を指差しながらそう言うと、チルルの父の表情がさらに緩やかになった。


「おおっ、そうだったのか。君がうちの会社の特注製品を使ってもらっているという … あの例の青年だったのか」

「お父さん、タクさんと知り合いだったの?」

「知り合いというか … ちょっとした有名人だよ。瑠唯も一度は聞いたことあるだろうが、彼は13年前に起きた航空機墜落事故の唯一の生存者だからね」

「えっ … タクさんが … ですか? 本当なんですか?」


 チルルはキョトンとした表情を浮かべながら首を傾げ、こちらの方を見てきたので、その姿が面白くて拓真は軽く笑ってしまう。


「ああ、本当だよ。その航空機事故で右腕を失くしたものだから、株式会社床崎電機に特注で義手を作ってもらっているんだ」

「そうだったのですか!」


 自分が勤めている会社の製品を使っているということに機嫌を良くしたのか、チルルの父は嬉しそうに微笑みながら自分の娘に向かって「いい人で良かったな」と連発し始める。


「とりあえず真面目でいい人そうだから、父さんも安心したよ。それで瑠唯、これからどうするつもりだ?」

「タクさんと2人きりになって話したいことがあるから」

「父さんはどうすればいい?」

「もう、お父さんは帰っていいよ」

「でも … 身体は大丈夫なのか?」

「うん。何かあったら連絡するから … あっ、車椅子は持って帰って」

「分かった。だがくれぐれも無理はするなよ」


 するとチルルはおもむろに車椅子から立ち上がった。
 最初、車椅子に座っていたものだから、てっきり足が悪いのかと思っていた。だがそうでもないらしい。しっかりとした足腰で地面を踏みしめている。

 では、なぜチルルは車椅子に座っていたのか? そしてチルルの父は、なぜこれほど娘の身体を心配しているのか?
 拓真は心の中で何か胸騒ぎがするのを感じた。


「なぁ … チルル、もしかしてどこか身体が悪いのか?」


 そう尋ねると、僅(わず)かながらもチルルの視線が泳いだ


「今は、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」

「そうか、ならいいんだ」


 今は、という言葉がやけに強調されていたことに、このとき拓真は気が付いていなかった。

 その後、チルルの父は会社に向かうと言い残してタクシーで去って行った。
 チルルと2人きりになってしまった拓真はこれからどうするのか脳内で必死にプランを立てるものの、チルルが男の子ではなく女の子だったということもあってか、どうすればよいのか迷っていた。チルルもチルルで2人きりになって少し恥ずかしいのか、少し俯いてモジモジしている。

 そこへ見かけたミーサが拓真の身体の中から飛び出してきて、拓真の耳元で小さく囁きかける。


『拓真さん、とりあえずチルルさんを暖かい場所に連れて行ってあげましょう! 男なんですから、ここで彼女をリードしてあげないと!』


 ミーサの言葉に促され、拓真はチルルに向かって「あのさぁ」と声をかける。


「今日は大事な話があるってことで会ったのはいいけど、こんな風が冷たくて寒いところでは風邪ひくだろうし … とりあえずどこか暖かい場所に行こうか。喫茶店やレストラン … どこか行きたい所はある?」

「行きたい場所? それなら … 前に雑誌で見たことがあるスイーツ店『Sweetia』に行ってみたい … です」

「スイーツ店の『Sweetia』か。それなら国道61号線沿いにあった気がするな。よし、そこに連れて行ってあげるよ」


 拓真は愛車のバイクのシートに腰掛けると、シートの後ろを指差して言った。


「ほら、座って」


 言われるがままにチルルはシートに腰掛ける。


「チルル、ヘルメットの付け方は分かるか?」

「わたし、バイクに乗るのは初めてですから … 分からないです」

「しょうがないな … ほら、顔上げて」


 チルルの小さな頭にヘルメットを被せ、アゴ紐を調節してしっかりと締めてあげる。
 彼女との顔の距離が自然にも縮まる作業だったため、付けてあげている間はずっとドキドキしっぱなしだった。

 そして同じく拓真もヘルメットを被り、鍵穴にキーを差し込んでセルボタンを押しエンジンをかける。


「えーと … チルル、ワンピースを着ているけど大丈夫かな … 」

「えっ … ダメなのですか?」

「バイクに乗るときは防寒対策のためにズボンが最適なんだけど … 。それに風で捲れてパンツが見えたりするし … 」

「タイツ履いているので大丈夫だと思います」


 チルルが着ているワンピース丈は膝小僧が見えるくらいなので、ギリギリ大丈夫だろうと拓真は思った。


「それじゃあ、そろそろ出発するから、しっかり俺の腰に掴まっておけよ」

「はい」


 彼女の細い腕が拓真の腰に回され密着状態となる。
 首筋にチルルの吐息を感じ、さらに女の子のいい匂いが鼻の奥を突き抜け、拓真は思わず胸がドキドキしてしまう。


(女の子をバイクの後ろに乗せたのって … これで2人目だな。茂原さんといい、チルルといい、どうして女の子はいい匂いがするんだろうか)

『拓真さん … あたしは無視ですか?』


 バイクに乗せてあげた人数に入れてもらえなかったミーサは軽くショックを受けているが、拓真はお構いなしにアクセルをゆっくり回してバイクを発進させた。

 一応、後ろのチルルに配慮して速度はあまり出さずに安全運転。
 原付の最高速度とほぼ同じ時速30キロで県道27号線を南下し、市役所のある三林交差点を右折。そして国道59号線を西方面に向かって突き進んでいくと、やがて前方に拓真のアルバイト先である白川県警察本部の建物が見えてきた。


(やべぇ … この姿を誰かに見られたら、絶対疑われる! 特に木更津さんには!!)


 白川県警本部は大きな交差点の角に建っているのだが、運が悪かったようで信号が赤になってしまった。結果的に拓真の乗ったバイクは県警本部前に停止することになる。


「タクさん、どうかしたのですか?」

「いやっ … 何でもないよ」


 なぜか県警本部から反対側の方向に視線を向いている拓真に、チルルは小さく首を傾げていた。
 早く信号青になれ と個々の中で念じていると、聞きなれた声が耳に入ってきた。


「あの人 … 鎌ヶ谷君じゃない?」


 それは間違いなく木更津雪穂の声だった。


「絶対、鎌ヶ谷君だよ! おーい、鎌ヶ谷くーん!!」


 拓真は声がした方向に恐る恐る視線を向けてみると、そこには大きくこちらに向かって手を振っている木更津雪穂の姿があった。その隣には船橋影朗もいる。


「やばっ!! 早速、バレたじゃねーか!」


 その時、信号が青へと切り替わったので、手を振る木更津雪穂を無視して急いでバイクを発進させて交差点を左折し、国道61号線を突き進んだ。


「さっきの人、もしかしてタクさんのお知り合いなのですか?」

「あ、ああ … バイト先の上司と言ったところかな」

「そうですか、綺麗な方でしたね」


 後でしっかり言い訳を考えておかなければ と思いながらも、さらにバイクを走らせること数十分後、バイクは目的地のスイーツ店『Sweetia』に到着した。
 バイクを停めたとろこまでは良いものの、腰に回されているチルルの手が離れないので降りようにも降りることができなかった。


「 … チルル? 目的地に着いたから … もう腕は離しても大丈夫だよ?」

「えっ … あっ、ごめんなさい!」


 ようやくチルルが腕を離してくれる。


「もしかして、バイク怖かったか?」

「いえ、あのぅ … 実は男の人とこんなに身体を密着させたのは初めてなので … 少しだけ緊張しただけです。でも … 凄く楽しかったです!」

「そっか。喜んでくれたならいいんだ。それじゃあ、中に入ろっか」


 スイーツ店内にいる客は、ほぼ女性客で占められていた。
 洋菓子ショーケースの中には色とりどりの美味しそうなスイーツが並べられており、店員が忙(せわ)しなく中のスイーツを取り出しては箱に詰めている。

 とりあえず拓真とチルルは各々スイーツを頼むと、店員が「こちらでお召し上がりですか?お持ち帰りですか?」と尋ねてきたので、拓真は「こちらで食べます」と答えると、店員さんに席へと案内された。
 席に2人向かい合うように座ると、チルルはテーブル上に並べられたスイーツを見つめて身を乗り出して目を輝かせ始めた。


「この店のケーキ、一度食べてみたかったのです!」

「ってことは、チルルは一度もこの店に来たことがないってこと?」

「そうです。この前読んだ雑誌に載ってあったので、いつか食べたいなって思っていたところで … あっ、そう言えば自己紹介がまだでしたね」


 ここで拓真もようやく互いの本名を知らないということに気が付く。


「わたしはチルルこと、名前は千葉(ちば)瑠唯(るい)です」

「俺はタクこと、本名は鎌ヶ谷拓真だ」

「へぇ~、名前が拓真だから、タクというアバター名を付けたのですね」

「ああ、いちいち新しいアバター名を考えるのもメンドくさいからな」


 拓真はコップに入った水を口に含み、喉の渇きを潤した。


「それでチル … いや、千葉さんにいろいろと聞きたいことがあるんだけど … 」

「わたしとタクさんは既にお友達なのですから、今まで通りにチルルって呼んでください」

「ああ … そうだよな。ごめん、チルル」

「いえいえ」


 千葉瑠唯ことチルルは、小さく苦笑する。


「えーと … まずタクさんに謝りたいことがあります。わたし … 女の子なのに、ネット上で男の子として振る舞っていたこと … 本当にごめんなさい」

「いやいや、別に謝らなくてもいいよ。びっくりしたのは確かだけどさ」

「でも、タクさんは男の人が来ると思っていたのは事実ですよね? その … 騙してしまったみたいで罪悪感が … だから、そのぉ … 本当にごめんなさい!」

「だから謝らなくてもいいって!」


(なんて、奥ゆかしい子なんだ。奥ゆかしい女の子なんて、とっくの昔に絶滅したんじゃなかったのか?)

『まさに絶滅危惧種ですね!』

(ああ、そうだな。絶滅危惧種だから、きちんと保護してあげないと … この俺がな)

『拓真さん、ゲスいですね! 茂原水奈さんがいるにも関わらず、もうチルルさんに手を出そうとしているだなんて … 見損ないました!』

(いや … だから冗談だって!)


 拓真は自分の身体の中で大人しくしているミーサとの脳内会話を終えると、必死に頭を下げてくるチルルの手をそっと優しく包み込んだ。


「別に怒ってないから、それ以上は謝らなくてもいいよ」

「本当 … ですか?」

「ああ、本当だ。ちなみに聞きたいんだけど、他のパーティーメンバーはチルルが女の子だということを知っているのか?」

「ネーさんだけは … わたしが女の子であるということがパーティーを結成した日にバレてしまっているので … 。今思えばネーさんは女の子だったから、わたしが女であると見抜けたのでしょうね。『チルルさん、ネナベでしょ?』って言われた時は、わたし驚きました」


 ちなみにネナベとは、リアルの性別は女性なのにネット上で男性のフリをするプレイヤーのことである。逆にリアルの性別は男性なのにネット上で女性のフリをするプレイヤーのことをネカマという。


「マジか! … ってことは、今までネー以外のメンバーは知らなかったってことか。でも何でネナベになろうと?」

「以前の別のネットゲームでは性別が同じ女性アバターを使用していたのですが、一部の男性プレイヤーからしつこく付き纏われることがありまして … 。中にはわたしに告白してくる者もいました。そのたびにわたしは丁寧にお断りしたのですが … 相手方は諦めきれなかったようで …」

「まぁ、お互いの顔や素性を知らないのに告白されても困るわな」

「わたしがゲームにログインするたびに、卑猥な内容のメッセージを送ってきたりもしました。だからわたし怖くなって … それ以来、ネット上では男として振る舞うことにしたんです」

「そっか … いわゆるネットストーカーっていうのに遭ってしまったからだったのか」


 拓真はチョコレートケーキの一部をフォークで切り取ると、それを口に含んでから次の質問を投げかけた。


「そんな怖い経験をしたはずなのに、なぜ俺にリアルで会おうと? 顏も知らない相手とリアルで会うって相当勇気がいることだよな? 顔バレだってしちゃうわけだし、下手すれば犯罪に巻き込まれる可能性だってあるし … 怖いとは思わなかったのか?」

「怖くなかったと言えば嘘になっちゃいますけど … でも、タクさんとは1年間の付き合いです。毎日のようにチャットをしたりゲームをしたりしているうちに、タクさんは真面目で優しい方なのだと分かりましたから。だからリアルのタクさんも、きっと真面目で優しい人間だろうと信じていました」


 そう言って、チルルは天使のような微笑みを浮かべた。


「わたし、タクさんに感謝を伝えたくて … タクさんは『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』内で出会った、わたしの初めてのフレンド相手です。あの時、ゲームを始めたばかりで操作に困っているわたしに、タクさんは優しく声を掛けてきてくれて、いろいろと優しく教えてくれましたよね」

「ああ、そうだったよな」


 思い起こせば1年前、拓真《タク》と瑠唯《チルル》が出会ったのは、『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』がサービス開始された日のゲーム内にある【地球エリア:市街地シブヤ】というフィールドであった。
 そこで拓真が、操作に困っている様子のチルルに声をかけたことがきっかけで、2人はフレンド登録を行い、2人だけの小さなパーティーを結成することになったのだ。

 このゲームの先行プレイヤーだった拓真は、初心者プレイヤーのチルルにいろいろなことを指導してあげた。2人だけでいろいろなフィールドをクリアしていったし、くだらない話もたくさんした。
 どれもこれも楽しい思い出になったことは、拓真も同じである。


「たかがネットゲームで大袈裟な、と周りから見れば思うかもしれないけど、チルルと過ごした日々は本当に楽しかったよ」

「ですよね! 毎日のように狩りをしたり、チャットでお話したり … どれもこれもタクさんと過ごした日々は、わたしにとってかけがえのない最高の思い出ばかりです!」

「いやぁ、チルルにそう言われると … なんか照れるな」


 すると、チルルは拓真の顔を見てクスクス笑い出した。


「チルル、何だよ … 笑うなよ」

「だって、タクさんの照れ顔が可愛かったものですから」


 そう言い、チルルはフォークに突き刺さったイチゴのショートケーキを口に含んで、美味しそうな表情を浮かべる。


「できれば … これからもタクさんと友達で居られたらいいなぁ、って思っています」

「ああ、俺とチルルはこの先もずっと友達のままだ。またゲームしたりチャットしたり、時々こうやって会ったりして、これからもいい思い出を作って行こうな」

「 ……… 」


 しかし、チルルからの返事はなかった。
 先程の天使のような笑みはどこへ行ったのか、チルルは唇を噛んで俯いてしまっている。


「 … チルル?」

「ごめんなさい … タクさんとは、もう会うことは出来なくなります」

「えっ … ど、どういうことなんだ?」

「わたし海外に引っ越すことになったんです。だから … もう二度と、こうしてリアルやネットで会うことは … 」


 萎縮したような暗い元気のない感じで言った彼女の言葉に、拓真の全身を稲妻のような衝撃が駆け巡った。


「そうか … だから、最後のお別れを俺に伝えるために、こうして … 」

「はい、いずれ他のパーティーメンバーにもお別れを伝えるつもりです。でも、タクさんには直接会って伝えたかったもので … タクさんは、わたしの大切な友達でしたから」


 もう一緒にネトゲを出来なくなってしまうことを知ってショックを受ける拓真であったが、何か彼女の言葉に違和感を抱いた。

 彼女はさっき『二度と会うことは出来ない』と言った。
 しかしSNSが世界中で急速に広がっているこの現代では、世界のどこに居ようが誰とでもメールやチャットが出来るものである。確かにネトゲでは会えなくなるかもしれないが、SNS上では会話できるはずである。


「チルル、俺達はどんなに離れていようとも友達であることには変わりないよ。そりゃ … 一緒にゲーム出来なくなるのは寂しいけどさ、LIME(ライム)やFacehook(フェイスフック)とかあるじゃん。あと声で会話したいならSkypen(スカイプン)とかあるし … 」

「 … タクさんの言う通りですね。でも … それは無理なんです」

「それは引っ越す先は、ネットが使えない環境の場所だからか?」

「そ、そうと思って頂けたら … いいと思います」


 そう言って見る見る内に、チルルの目に涙がにじんでいき始めた。


「うぅ … わたしだって … ずっとタクさんと一緒に友達のままで居たかった … 」

「 … チルル」


 嗚咽(おえつ)を漏らし始めたチルルの手を、拓真はそっと包み込んであげた。
 かけてあげる言葉が見つからず、拓真はじっと彼女の様子を見守っているしかなかった。

 そして突如、それは起こってしまった。


「うっ … ぁぁ … 」


 急にチルルが顔を歪めて苦しそうに胸を押さえたかと思えば、その小さな身体が傾いていき、そのまま床へと倒れてしまった。
 力なく横たわった彼女の姿を見て、拓真の思考が真っ白になった。何が起きたのか分からなかった。


「おい、チルル、どうしたんだ!? 大丈夫か!?」


 しかし返事はない。
 ぐったりとした彼女の顔は真っ青になっており、唇が小さく震えている。誰がどう見ても大丈夫そうには見えない様子だった。


「誰か、救急車を!!」


 拓真が大声でそう叫ぶと、店員が慌てて電話の受話器を手に取り119番通報をする。
 店内が騒然となる中、拓真はチルルの身体を抱え起こし、苦しそうにしているチルルの顔を覗き込んだ。


「チルル、しっかりしろ!!」


 救急車が到着するまで何度も何度も声を掛けたものの、チルルから何一つ返事が返ってくることはなかった。


10月30日 金曜日  午後12時40分
白川県 柿ノ木市中央区岡野 柿ノ木西高等学校 3階 2-2教室


 キーンコーンカーンコーン!
 4時限目の終了を告げるチャイムが鳴り響くと同時に、茂原水奈は疲れたように目をパチパチさせながら机に突っ伏した。


「はぁ … やっと授業終わった」

「水奈、一緒に購買部行こー!」


 そんな水奈の元に、テンションが高めな1人の女子生徒が駆け寄ってきた。
 髪をポニーテールに纏め、クリッとした大きな瞳のした彼女は、水奈と同じクラスメイトである大親友:袖ヶ浦(そでがうら)陽花(はるか)である。


「うーん、どうしようかな? でもあそこ込むでしょ?」

「今なら間に合うって!」

「じゃあ、行く行く!」


 この学校の生徒は、昼食は食堂で何か注文して食べる派・購買部で何か買って食べる派・持参した弁当を食べる派に分かれている。
 水奈は、陽花と一緒に食堂で何か注文して食べる派であるのだが、毎週金曜日になると購買部で週末限定パンが販売されるため、それ目当てに金曜日だけは購買部で何かを買って食べている。

 今週も大混雑する購買部で限定パン争奪戦を潜り抜けなきゃいけないのか … と心の中で溜息を吐きながらも、陽花に連れられて1階にある購買部前までやってきた。


「うわぁ … ヤバいヤバい!! めっちゃ並んでる!」

「これじゃあ … 今週も無理だよ … 」


 目の前に広がっている大量の生徒らを見て思わず声を漏らしてしまったが、ここであたふたしても仕方がない。
 水奈は陽花と顔を見合わせて、頷き合うと、なりふり構わずに大混雑している購買部の中に突っ込むことにした。


(今週こそ … 限定パン:グラタン焼きそばパンを手に入れてみせる!!)


 人混みに押しつぶされながら突き進んでいくと、ようやくお目当てのパンコーナーまでやってくることに成功した。
 しかし安心している暇はない。残りのグラタン焼きそばパンの数は、あと10個しか残っておらず、こうしている今も次々と数を減らしていっている。


(ええーい、届けー!! あたしのグラタン焼きそばパン!!)


 水奈がスリムで小柄な体型であることが幸いしてか、群がっている体格の良い大柄な男子生徒達の間を上手くすり抜けることに成功した。同時に手を伸ばし、最後の1つとなってしまったグラタン焼きそばパンを鷲掴みにする。


(やったぁっ!!)


 後は横取りされないために、自分の方へと引き寄せるだけだったのだが、それは出来なかった。
 なぜならば、水奈が掴んだグラタン焼きそばパンには、もう1つ掴んでいる手があったからだ。


「あっ!」 「あ!!」


 グラタン焼きそばパンを掴んでいる手の持ち主2人が、同時にそう声を上げてお互いの顔を見た。
 相手は見知らぬ男性生徒だった。
 日本人ではないのだろうか、髪は少し長めの金髪。色白の肌に、二重瞼のくっきりとした碧(あお)い目をしている整った顔立ちをしている。


(ウ … ウソッ!?)


 あまりにも彼が少女漫画に出てくる美男子と雰囲気がそっくりだったために、驚きのあまりグラタン焼きそばパンを掴んでいた手が離れてしまい、パンは男子生徒の手に渡ってしまった。


(うわぁ … 何この人、美男子過ぎるじゃん!!)


 パンを手放してしまったことにも気づいていない水奈であったが、その美男子男子生徒は爽やかな甘い笑みを浮かべると、なんと手に持ったグラタン焼きそばパンを手渡してきたのだ。
 そして男子生徒は、思わず固まってしまった水奈の顔を覗き込み、


「それ、君に譲ってあげるよ」

「えっ … い、いいんですか?」

「いいよ。こういう時は女性に譲ってあげるのがマナーだからね」


 直後、購買部や廊下に女子の「キャァーー!! カッコいい~!!」という甲高い歓声が響き渡った。


「ひぇ … あのぅ、でも … 」

「じゃあ、僕はこれで。See you !!」


 そう言い残し、男子生徒は去って行ってしまった。



 その後、支払いを済ませた水奈は陽花を合流し、屋上へと向かうべく階段を昇っていた。


「ねぇねぇ、水奈よかったね!!」

「えっ、何が?」

「もうー、覚えてないの!? さっき金髪の美男子と話してたじゃん!!」

「あぁ … あの人?」

「そうそう!! 噂通りに、超イケメンで美男子だったよねー!!」

「噂通りって … 陽花、あの人のこと知ってるの?」

「えっ、水奈知らないの!? 昨日、2年4組に転校生がやってきたっていう話。確か … 名前は柏(かしわ)翔士(ジョージ George)って言ったっけ? お父さんが日本人で、お母さんはアメリカ人らしいよ。ハーフでイケメンで美男子で紳士的で … とにかくどの学年もその転校生の話でもちきりなの!」

「ふーん、そうだったんだぁ。知らなかった」


 あの男子生徒は、水奈も思わずドキッ!としてしまったほど美男子だったのには間違いない。
 しかし、何かモヤモヤと心に引っ掛かるものがあったのも事実であった。


「ねぇねぇ、水奈ならあの転校生と付き合えるんじゃない? ていうか付き合っちゃえば?」

「えっ … どうして?」

「だって水奈って超可愛いし、あの人とお似合いだと思うよ。それにさっきの出来事だって、何かのご縁だと思うし」

「うーん、あの人は確かに美男子だと思うんだけど … 何かしっくり来ないっていうか … あたしとは不釣り合いっていうか … 」

「じゃあ、水奈が好きな男性のタイプって何なの?」


 陽花からそう尋ねられた水奈の脳裏に、ふと鎌ヶ谷拓真の顔が思い浮かんだ。そしてカーっと水奈の顔が真っ赤に染まって行く。


「えっ、何、顏真っ赤にしてんの?」

「いやっ … こ、これは別に … 」

「あーっ!! もしかして水奈、今好きな人いるんでしょ?」


 図星だったために、水奈は反論できずに押し黙ってしまった。


「ほら、やっぱり~!! ちなみに相手は誰なの~?」


 興味津々な目で身を乗り出してきた陽花に、水奈は恥ずかしそうに目を伏せる。


「もしかして隣のクラスの稲毛君?」

「違うよ~! えーと … 同じアルバイト先の先輩で、3つ年上の大学生」

「おおっ~、アルバイト先の先輩か、いいじゃん! もう告ったの?」

「いやいや … まだ告ってなんかないよ! そもそもあたしのことをどう思ってるか分かんないし!」

「水奈ならいけるって! 女子のあたしでも惚れそうなくらいだもん! こんな可愛い子を振る男子なんていないから! ウチが保証する!!」

「ちょっと、冗談はやめてよ~!」


 水奈は照れたように陽花の肩を叩く。
 すると陽花は真剣な表情を浮かべ、水奈の白くて柔らかい手を両手で握り締めた。


「冗談じゃないってば! ほら、水奈の手ぷにぷにしてるし、スタイルいいし、身体も温かいし、むぎゅう!」

「ちょっ、陽花 … 恥ずかしいよ~! こんなの誰かに見られたら勘違いされちゃうよ!」

「えー、いいじゃんいいじゃん。ウチら親友なんだし! ほら、水奈も早く!」

「う、うん … ちょっとだけなら」


 屋上へと通じる階段で2人仲良く抱き合っていると、突然屋上の扉が開き、男子生徒が姿を現した。その男子生徒とは、先程購買部で水奈が出会った金髪ハーフ顏の男性生徒:柏翔士であった。
 突然彼が現れたことに驚いたのか、水奈と陽花は互いに抱き合ったまま固まっていた。


「やぁ、君達仲が良いね」

「「ひゃっ!」」


 慌てて2人は互いに離れる。
 2人とも顔を真っ赤に染めながら俯いていると、柏翔士は優しい笑みを浮かべながら、水奈の顔を覗き込んだ。


「おや? 君、さっき購買部にいた女の子だね」

「は、はい。あの時は、ありがとうございました」

「あはは、別に構わないよ。こうして出会ったのも何かの縁だ。お名前を聞いてもいいかな?」

「あたしは2年2組の茂原水奈です」

「水奈さんか、可愛い名前だね」


 可愛い名前と言われ、水奈は思わず赤面してしまった。


「僕は2年4組の柏翔士。ジョージと呼んでくれると嬉しい。昨日、この学校に転校してきたばかりだ。よろしく」

「ううん、こちらこそ … よろしく」


 まるで白馬の王子のような眩しい笑顔を浮かべると、今度は水奈の隣に立っている女子生徒へと視線を移した。


「そちらにいる可愛いらしい君も、お名前を聞かせてくれるかな?」

「か、可愛い … !? ウチ、可愛いって言われちゃった!!」

「陽花、落ち着いて!」


 イケメン美男子に可愛いと言われてテンションが上がってしまった陽花であるが、何とか自己紹介をするべく気持ちを落ち着かせ、大きく深呼吸をする。


「ウチも水奈と同じ2組の袖ヶ浦陽花だよ。よろしく!」

「うん、よろしく。元気があって良いね」

「ねぇ、ジョージ君、1つ聞いてもいい?」

「何でもいいよ」

「ジョージ君って、お母さんがアメリカ人なんでしょ? もちろん、英語も得意なんだよね?」

「もちろんさ。じゃあ、試しに英語で自己紹介でもしてみせよう」


 柏翔士は小さく頷き、陽花の目を見据えて口を開いた。


「My name Kashiwa George. Age 17 years old. My mother is an American, My father is Japanese. Born in America, I grew up in there until the age of 16. I just came to Japan a year ago. Japanese is polite and gentle, All women is beautiful.」

「うっわ … ペラペラ過ぎて、何を言ってるか聞き取れない!」


 陽花は首を傾げているものの、水奈は目を見開いて驚いていた。


「えっ … ジョージ君って、日本に来てまだ1年目なんだ。それなのに日本語ペラペラだね」

「そう、かな? これでも自分ではまだまだと思っているんだけどね。そう言う水奈さんこそ、僕の英語を1回で聞き取ることが出来るなんて凄いじゃないか」

「うん、まあね」


 ジョージに褒められて、水奈は照れ臭そうに笑う。


「水奈さんの照れ顔、可愛いね。思わず見とれちゃったよ」

「っ!?」

「じゃあ、そろそろ戻らないと。水奈さん、陽花さん、See you!」


 柏翔士はそう言い残し、早々と階段を駆け下りて行ってしまった。


「照れ顔可愛いだって … 水奈だけズルい。ジョージ君、絶対水奈に気があるんじゃない?」

「そ、そうかな … ?」

「だって水奈可愛いもん」

「そんなことないよ! 陽花の方が可愛いと思うよ?」

「またまた~。よく男の人にナンパされてるくせに~」

「そ、そんなことないよ! 陽花の方が絶対に可愛いってば~!」


 しばらくの間、そういうやり取りが続くと同時に刻々と時間が過ぎて行ってしまう。
 そして昼休み終了5分前に鳴る5時限目予鈴チャイムが流れたと同時に、2人はハッと顔を上げた。


「やばっ!! まだ昼食とってないよ!!」

「こ、こうなったら … 教室まで向かう間に食べるしかないよね!」


 慌てた様子で2人は購買部で購入したパンの袋をこじ開け、かぶりつきながら、教室へと向かうのであった。







同日  午後3時20分
白川県 柿ノ木市北区茹島  築山大学 柿ノ木キャンパス 2号館


 築山大学には、アニメ・マンガ・ゲーム同好会という名のサークルが存在している。その名の通り、アニメ・漫画・ゲームが好きな者が所属しているサークルである。
 部員は15名。活動時間は毎週:月・水・金の午後1時から。活動内容は絵を描いたり、ゲームをしたり、漫画を読んだりするなどしている。

 履修している今日の授業を終えた鎌ヶ谷拓真は、自分が所属しているそのアニメ・マンガ・ゲーム同好会の活動部屋へと足を踏み入れた。
 広さ12帖くらいのアニメDVDや漫画本などが散乱している部屋の中、パソコンの前に座っていた1人の女子学生が手を振ってきたので、拓真も片手を上げた。


「タク、こん!」

「ねね、こん」


 その女子学生の名前は、浦安(うらやす)寧々(ねね)。拓真と同じ築山大学に通う、理工学部情報システム学科2回生である。
 彼女が『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』のユーザーの1人、アバター名:『ネー』の使い主であった。

 髪は薄めのブラウン色で、長い髪を三つ編みハーフアップに纏めており、その色白の肌と優しそうに微笑んでいる表情もあってか、お金持ちの社長令嬢のような雰囲気を漂わせている。しかし服装は、肩だしニットの服にフリフリのミニスカートという露出が多め。大きく開いた胸元からは、巨乳が顔を覗かせている。


(今日も相変わらず … 目のやり場に困る服装だな)


 挨拶を交わし終え、拓真が目のやり場を求めて視線を彷徨わさせていると、浦安寧々はニコニコと元気のいい笑顔を浮かべながら、1冊のラノベ本を拓真へと手渡した。


「これ、ありがとう! 読み終わったから返すね!」

「おう … それにしても読み終わるのが早いな」

「まあね~。話の展開が気になるものだから、遂ぶっ続けで読み終えちゃった。まさかあんな展開になるなんてね。あ~、続きが気になる~!」

「続きは来月の10日に発売だから、それまでの間は辛抱だな」


 拓真が何とか自分の視線が浦安寧々の胸元に吸い寄せられることに必死に耐えていると、部屋の扉が開いて、顔見知りの男子学生が入ってきた。
 髪は茶髪で、アクティブショートにしている今風の男子学生の名前は、理工学部自然環境学科に所属している松戸(まつど)仁彦(よしひこ)である。
 彼もまた『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』のユーザーの1人、アバター名:『よっしー』の使い主であった。


「ちーす!」

「おう」 「こん!」


 松戸仁彦は、浦安寧々の大きく開いた胸元に目をやると、不気味な笑みを浮かべた。


「あー、今日も疲れた。寧々ちゃん、その胸揉ませて」

「はぁ? 吹っ飛ばされたいの?」

「胸で吹っ飛ばされるのなら光栄」

「きっも。今夜のオンゲでPKしてあげるから覚悟してね」

「あっ … すみません」


 その言葉で松戸は大人しくなった。

 ちなみにPKとは、オンラインゲームにおいて他のプレイヤーを攻撃する人(プレイヤーキラー)、又は攻撃する事(プレイヤーキル)のことを指す言葉である。
 拓真たちがプレイしている『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』でも、このPKが可能となっている。PKされると、その時に所持していたアイテムが略奪されてしまうので、PKされないようにプレイヤーは細心の注意を払わなければならないのである。


「どいつもこいつも男ときたら、胸揉ませてーってウザいんだけど。ネットでもあたしが女と分かれば、卑猥な発言ばかりしてくるしさー」


 そう言うと、浦安はチラリと拓真に目をやり、


「それに比べて、タクって真面目だよねー。下ネタとか変な事とか全然言わないし。少しはタクを見習ったらどうなの?」

「いやいやいや、タクも時々下ネタ言ってるぞ?」

「それってタクとアンタが話している時でしょ? 少なくてもタクは、女子が居る場や公共の場では下ネタ言わないよね」

「 …… そ、そう言えば、そうだな」

「デリカシーがない男は嫌われるから、これから気を付けなさいよね。ていうか大体、よっしーは … 」


 ちょっと松戸が可哀想だと思ったので、拓真はフォローに入った。


「まぁまぁ … 寧々、そいつも反省しているだろうし、その辺で終わりにしてやってくれないか?」

「うーん、タクがそう言うなら」


 ホッと息を吐いている松戸を横目に見ながら、拓真は昨日チルルからされた話を打ち明けることにした。


「なぁ、寧々。ちょっといいか?」

「ん、何?」

「俺らのパーティーメンバーにチルルがいるだろ? そのチルルについて、少し聞きたいことがあるんだけど … 」


 浦安に向かってそう尋ねた時、ほんのわずかに彼女の眉がピクリと動いたのを拓真は見逃さなかった。


「ああ … チルルのことね。何を聞きたいの?」

「俺、昨日チルルから会ってほしいと言われたんだ。重要な話だから、直接会って話したいって」

「ふーん、それで会う約束をしたわけ?」

「ああ、明日会う約束になっているんだけど … 重要な話ってなんだろうと疑問に思ってさ。寧々も結構チルルと仲良いし、何か事情を知っているかなーって思って、ちょっと聞きてみたいんだけど … 」

「 ………… 」


 すると浦安は何か思いつめたような表情を浮かべ、黙り込んでしまった。


「おーい、寧々? 何だよ、急に黙り込んで」

「 …・…・… 」

「もしかして、何か事情を知っているんだな?」

「 …… ごめん、ウチは何も言えないかも」


 彼女は否定しなかった。
 何か事情を知っている、と拓真は確信する。


「チルルが直接タクと会って話したいって言っているんだから、ウチが言うべきことじゃないよね?」

「そ、そう … だよな」

「詳しいことは、直接本人の口から聞くのがベストだから」



 それっきり、浦安寧々はチルルについて触れることはなかった。


 直接リアルで会ってまで話したいことがあるチルル。
 そこまでして話したい重要な話って何だろう? と、サークルの時間の間、ずっと考えていた拓真であった。

10月29日 木曜日  午後8時00分
白川県 柿ノ木市北区薄輪4丁目6-14  マンション5階 502号室


 『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』 ――― 近未来の地球や惑星を舞台に、宇宙の遥か彼方から攻めてきたエイリアンを仲間プレイヤーと共に狩るというMMORPGである。
 このオンラインゲームの運営である「ゲームラボラトリー」は、サーバーが落ちた時のサポート体制も万全であり、運営している3つのMMORPGはすべて課金の必要が無く、今インターネット上で神運営として人気話題となっている。

 鎌ヶ谷拓真も、その『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』をプレイしているユーザーの1人であった。
 いつものようにゲームを起動し、ユーザー認証の手続きをしてログインを行う。
 しかし、パソコン画面に 『申し訳ありません。ただ今サーバーが混み合っております。しばらく経ってからもう一度お試しください』 という文字が表示された。

 今日は『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』のメンテナンスの日であったのだが、普段行われるメンテナンス時間は毎週木曜の午前11時~午後6時までの間である。
 メンテナンス終了直後はアクセスが集中することで知られているが、現在時刻は午後8時。メンテナンス終了時間から2時間も過ぎているハズなのだが、現在混み合っていた。

 拓真は面倒くさそうな表情を浮かべながらも、運営の公式ツブッターを確認してみた。
 結果的に、どうやらメンテナンス中にトラブルが発生し、その影響でメンテナンス終了時間が午後8時に延長してしまったらしい。


「まぁ … 今日から1周年記念イベントが始まるからな。いろいろ装備やエリアが実装されるみたいだから、予期せぬトラブルも発生するだろう。運営も大変だな … 」


 1人パソコン画面に向かってそう呟くと、拓真の身体の中から、アサガオ模様がプリントされたピンク色の浴衣を着たミーサがぴょんと飛び出してきた。


『あー、拓真さん、またネトゲやろうとしているんですか?』

「文句あるか?」

『文句あるって言われても … 明日レポートの提出締切日じゃなかったんですか? やらなくてもいいんですか?』

「あっ … 忘れてたわ。でも、あんなの30分あれば出来るから後でやるわ」

『もうー!  どうせゲームに夢中になって、結局また徹夜して仕上げることになりますよ?』


 ミーサがジト目を浮かべてそう言った直後、パソコン画面がチカチカ点滅し始めた。
 それを見て、拓真は慌てた様子で立ち上がる。


「や、やめろ!! 頼むから強制終了だけはやめてくれ!!」


 パソコンがチカチカしている原因はミーサにあった。
 電化製品などは、霊体や生霊などの強い影響を受けやすいということでよく知られている。(例を挙げると、心霊スポットに行くとカメラが動かなくなったり、照明機器が勝手に付いたり消えたりしたりなど)

 だから霊体であるミーサも電化製品などを自由にコントロールできるわけである。


「でも … ちょっとだけやらせてくれ、頼む!」

『 … じゃぁ、午後11時までならネトゲやってもいいです! それまでに終わらなかったら、あたしが強制終了させますからね!』

「うっ … わ、分かった」


 いつものように背中に抱きついてきたミーサをよそに、拓真は再ログインを行ってみる。
 すると今度はすんなりとログインすることが出来た。


『拓真さん、あたしに感謝してくださいね♪』

「お、おう … ありがとう」


 どうやらすんなりと再ログイン出来たのは、ミーサのおかげだったらしい。
 拓真からお礼を言われたミーサは『どういたしまして♪』と答え、嬉しそうな笑みを浮かべる。


「さてと … ログインできたし、早速イベントに取り組むとするかな。おっと … まずはどんなイベントなのかチェックしないとな」


 再び運営の公式ツブッターをチェックして、イベントの概要を調べていく。


「なるほど、今度のマップは遂に地球外惑星に進出か!」


 今回の『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』1周年記念イベントは、新エリアである《火星居住区》・《金星居住区》に出現した超弩級エイリアン機動部隊を撃退せよ! というものである。
 期間限定の任務をこなしていくと、限定レアアイテムなどが入手できるらしい。


「よーし、頑張るぞー!」

『そんなにレアアイテムが欲しいのなら、あたしが今すぐにでも出してあげますよ?』

「いや、それ不正になるから。苦労して勝ち取ったことに意味があるんだからさ」

『ふーん』


 ゲームにあまり興味がなさそうなミーサは、つまんなさそうに拓真の背中に顔を埋(うず)めた。


「さてさて、いつものパーティーメンバーもログイン出来ているかな?」


 基本的に、このオンラインゲーム『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』は他のプレイヤー仲間と協力することを前提に作られているので、ソロでプレイしても敵を倒すことは不可能となっている。だから普通は3人~5人のパーティーを組んでプレイする。
 拓真が所属しているパーティーメンバーは、拓真のアバターである「タク」の他に、「ネー」、「よっしー」、「D0n41d」、「チルル」がいる。

 画面の端にあるパーティーメンバー専用チャットのところを確認してみると、他のメンバーの名前が光っていなかったので、どうやらサーバー混雑に引っ掛かっているのかログインしていなかった。


「俺だけかよ。まぁ … ミーサの力を借りたおかげだからか … 」


 他のメンバーが揃うのを待つこと10分後、ぞくぞくと4人の名前が点滅し出し、チャットに入室してきた。



 タク : こん
 チルル : こんばんわ。
 D0n41d : おいすー
 ネー : こん(*´∀`*)ノ♪ 
 ネー : タクはやーいΣ(*゜Д`;)
 よっしー : ちぃーす! ていうかタク、お前何分前からログインしてたんっすかww
 タク : 10分くらい前
 よっしー : オレなんて今やっとログインできたところっすよ。裏山しいっす!
 チルル : タクさんは運がいいですね。
 タク : www


 本当はミーサの力を借りて混雑したサーバーをすり抜けてきたとは言えず、拓真はパソコンの前で苦笑いを浮かべているしかなかった。

 ちなみに派手な武装をしているチャラい男性アバター「よっしー」とオシャレな服装の女性アバター「ネー」は、拓真と同じ大学のサークル仲間である。レア装備で全身武装している男性アバター「D0n41d」は、ニヨニヨ動画内でゲーム実況者として活動していることが多く、拓真とはSkypen(スカイプン)でよく会話する間柄だ。
 そして軽武装をしている好青年風の男性アバター「チルル」は、この『エイリアンハンティングオンライン(AHO)』がサービス開始されたその日に、拓真が初めて知り合ってフレンド相手となった人物である。しかし他の3人と違って、「チルル」のリアルな情報は知らない。


 D0n41d : それより早くイベントをやろう!
 ネー : どんなイベントだっけ(*´д`)??
 よっしー : ggrks
 D0n41d : >>よっしー  ちょっw 女の子に向かってそれはひどくないか?
 ネー : www
 D0n41d : >>ネー  http://○○○wiki.jp/ で確認してきたらいいよ
 ネー : 人´∀`).☆.。.:*ありがとぉ
 タク : >>D0n41d  お前、女子には本当に優しいよな
 チルル : ですねw
 ネー : ググってきたよσ(゜ー^*)
 ネー : 火星と金星エリアが解放されたんだってね! 楽しみー(*゜▽゜*)ワクワク
 タク : じゃあ、まずは攻略に向けて装備を整えないとな


 こうして今日から始まったオンラインゲームの期間限定イベントに、拓真は取り掛かるのであった。







 よっしー : くらえ、荒ぶる鷹のポーズ!
 ネー : >>よっしー ちょっと、変なポーズとってないで早くたたかってよ゛(`ヘ´#) ムッキー
 よっしー : ごめんちゃいw
 D0n41d : ぐぁぁ!! やられたぁーー!! ネー、蘇生してくれ頼む!
 ネー : えっー! 残りPP少ないのにー∑(´□`;)
 D0n41d : そこをなんとか、オナシャス
 ネー : しょうがないにゃあ(´∀`)
 タク : >>チルル 10時の方向から敵の飛行部隊が接近。迎撃援護頼む!
 チルル : おkです。
 D0n41d : >>ネー  サンキュー! 助かったわ!


 オンラインゲームをプレイすること3時間、現在時計の針は午後11時に差し掛かろうとしていた。
 だがゲームに夢中になっているせいか、約束の午後11時に差し掛かろうとしていることに拓真は気が付いていなかった。

 彼の背後を飛び回っているミーサは、拓真に構ってもらえないことに不満の表情を浮かべながら、時計の針にチラチラに目をやっている。


『拓真さん、もうすぐ午後11時になりますよ!』

「はぁっ!? もうそんな時間なのか!?」

『そうですよ! だから早くゲームをやめてください!』

「今、いいところなんだよ。頼むから、あと10分だけ!」

『ダメです! 約束したじゃないですかぁ!! やめないのなら強制的に電源切りますよ?』

「ああっー!! やめてくれ!! 分かったから、やめるから!」


 結局、ミーサに渋々従うことになった拓真は、パーティーメンバーにこのことを伝えるべく、カタカタとキーボードに指を走らせた。


 タク : みんなゴメン。俺、そろそろ落ちるわ…
 チルル : えっ…タクさん、もう落ちちゃうんですか?
 よっしー : はえーよ、まだ11時っすよ
 D0n41d : もしかして今から彼女とエロいことすんのかw?
 タク : >>D0n41d  ちげーよwww
 タク : 今からレポート仕上げなきゃいけないんだよ
 チルル : そう言えば、タクさんは大学生なのでしたよね
 ネー : そっか~、ならしょうがないよね…残念从´_υ`从ショボーン
 D0n41d : じゃあ今回はこの辺でお開きとしますか
 ネー : だね( ̄Д)=3 
 よっしー : 続きは明日ってことっすか?
 タク : >>よっしー  本当にすまん
 ネー : 別にいいよー^^ 
 ネー : じゃあ、ウチ風呂いてくるねー。ではでは(・ω・)ノシ

 >>ネーさんが退室しました

 よっしー : 俺も落ちるわノシ
 D0n41d : ノシ

 >>よっしーさんが退室しました
 >> D0n41dさんが退室しました


 続けて拓真もログアウトしようとした時だった。


 チルル : あの、タクさん!
 タク : ん、何?
 チルル : 少しだけタクさんにお願いがあるのですが…ちょっとだけ時間いいですか? 
 チルル : レポートで忙しいと思いますが…手短に済ませますので
 タク : うーん、別にいいよ^^


 拓真がそう打ち込んだ直後、背後から殺気のオーラが漂ってきた。


『拓真さん、午後11時とっくに過ぎましたよね?』

「いやぁ … でもさぁ、チルルはこのゲームを始めた時からのフレンドだしさ、断るわけにはいかないじゃん? 友人の頼みは聞いてあげるのが友達ってものだろ?」

『顔も知らない相手なのに … 友達って … 』

「あとでミーサの言うこと1つだけ何でも聞いてあげるからさ、10分だけ延長頼む!」


 拓真の言葉を聞き、ミーサの眉がピクリと動く。


『何でも…ですか? だったら今夜は拓真さんと同じ布団で寝たいです!』

「はぁ?」

『何でも聞いてあげるって言ったじゃないですか!』

「うっ … 分かったから」

『やったー! じゃあ、10分延長許可します!』


 タク : それでお願いって何?
 チルル : あの … えーと、大事な話なので …
 タク : うんうん
 チルル : 実はゲーム内の話ではなく、リアルの話なんですけど …
 タク : リアルの話?
 チルル : はい
 チルル : タクさん、あの … リアルで僕と会ってくれませんか?
 タク : えっ!? リアルで会う!?


 チルルの思いがけないお願いに、拓真はパソコンの前で絶句してしまった。


 タク : それって、つまりオフ会をやりたいってこと?
 チルル : 本当はオフ会もやりたいと思っているのですが、違います! 
 チルル : 僕は、タクさんに面と向かって伝えたいことがあるんです!
 タク : 伝えたい事って?
 チルル : すごく大事な話なので、チャットでは言えません。すみません
 タク : だから俺と会って話したいと?
 チルル : そうです
 タク : チャットで言えないんなら、スカイプンで話せばいいんじゃ…
 チルル : 僕、スカイプンやってないです
 チルル : だからお願いします! 僕と会って話を聞いてくれませんか?
 チルル : それとも…やっぱり顔も知らない人と会うのは嫌ですか?
 タク : あっ、いや、会うのは別に構わないんだけどさ
 チルル : じゃあ!!
 タク : というかチルルって15歳だったよね?
 チルル : 今年で16になりました


 この1年間、拓真はゲーム上でチルルと親しく接してはいたが、ネトゲでリアルな情報を詳しく尋ねるわけには行かなかったので、チルルがどういう人物なのか正直分かっていない。
 分かっているのは、歳は16歳の未成年、同じ白川県内に在住、事情があって学校には行っていない、という情報だけだった。


 タク : つまりチルルは未成年じゃん? 親は許してくれるの?
 チルル : その…親同伴なら会ってもいいって言ってます
 チルル : だから問題ないです
 タク : そっか…ならいいんだけど
 チルル : 会ってくれるんですね!
 タク : ああ
 チルル : ありがとうございます^^
 チルル : じゃあ、今週の土曜はあいてますか?
 タク : うーん、たぶん大丈夫だと思う
 チルル : 土曜の午前10時00分、JR柿ノ木駅西口前に待ち合わせってことで大丈夫ですか?
 タク : 大丈夫
 チルル : 本当にありがとうございます^^ 待ってます^^
 チルル : じゃあ、タクさんもお忙しいと思いますので、そろそろ落ちますね
 タク : うん
 チルル : レポート頑張ってください!
 タク : ありがとう
 チルル : おやすみです!
 タク : おやすみ

 >>チルルさんが退室しました
 >>タクさんが退室しました


 ゲームからログアウトした拓真は、「ふぅ」と突かれたように息を吐きながらに背伸びした。


『拓真さん、リアルで会うって … 本当にいいんですか?』

「チルルとはこのゲームを始めてプレイしたときからの付き合いだからな。別に会うくらいいいだろ」

『ふーん … それにしても、大事な話って何でしょうね』

「直接俺と会って話すくらいだから、それほど重要な話なんだろう。おっと … そろそろレポート仕上げないとな」


 パソコン内のソフト「Word」を立ち上げて、いざレポートの続きに取り掛かろうとする拓真であったが、後ろから聞こえてきたミーサの鼻歌が気になったので、キーボードを叩く手が止まってしまった。


「ミーサ、やけに嬉しそうだな」

『うふふ♪ だって今夜は拓真さんと一緒の布団で寝ることができますから!』


 ここで数十分前にミーサと交わした取引条件を思い出し、拓真は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
 あの時、パソコンを強制終了させられるのを回避するべく、ミーサの願いを何でも聞いてあげるという約束をしてしまったことを物凄く後悔するが、今更遅い。


『今夜は遂に拓真さんと … えへへっ♪ 何か照れちゃいますね♪ ちなみにヤるときは激しめではなく、優しめでお願いします!』

「おい、何いやらしいこと考えてんだよ!! 誰がお前なんかとヤるか!! そもそも人間と霊体との..................なんて聞いたことねぇよ!!」

『ええっー!! ガガントス!!』

「確かに約束したことだから一緒の布団で寝てやるよ。でも変なことをしでかしたら、一生お前に構ってやらないからな」

『そんな、ひどいです!! こんなに可愛い女の子と布団で一緒に寝れるんですよ? むしろ拓真さんが我慢できずにあたしを … 』

「ああ、それは100%ないから安心したまえ」

『ガガントス!!』

「……・分かったのなら、レポートの邪魔しないでくれよ」


 がっくりと床の上でうな垂れているミーサをよそに、拓真はレポートに取り組むのであった。