戦争のない世界とは具体的にどのようなものなのか、その実施可能なビジョンがなければ、反戦運動だけでは何にもならない。

 

今回のHumanity For Peace運動では、共産主義者から自由主義者まで全く異なった政治理念を持つ団体や個人が参加しただけでなく、参加者の国籍もアメリカ、ベルリン、パリ、メキシコ、チリ、スペイン、ローマニア、ケニアなど非常に多様なものとなった。しかし、最も重要な点は、デモ当日までの一か月間、参加者たちの間で「全ての国の安全が保障される仕組みとはどのようなものか」というビジョンについての熱い議論が交わされたことだ。ロシアや中国の安全も保障されるべきであり、「発展なくして平和はない」というシラー学会の理念に対し、当初は反対の意見もあった。一つの団体の中でそれに反対する派閥と賛成する派閥による論争が起きたりもした。しかし、最終的には今回のデモの要求の一つとして「全ての国の安全が保障される新たな枠組みの形成」という項目が取り入れられたのは、数々の議論を通し、イデオロギーや意見の違い以上に大事な、未来に対する共通のビジョンを参加者たちが見いだせたからではないかと思う。近年の行き過ぎたアイデンティティ政治やキャンセルカルチャーとは相反する、すばらしい政治活動に参加できたことをとても誇りに思う。

  

 

BRICSの間でも、ラルーシュ氏のビジョンは注目されている。

プーチン大統領は、サンクトペテルブルクで行われたロシア・アフリカサミットにおいて、さらなる経済協力体制を築くためにユーラシア経済委員会(EAEU)とアフリカ諸国との連帯を強めてゆくことを示唆した。同サミットにおいて、ロシアとアフリカとの協力の展望についてのパネルディスカッションに参加した、EAEUのマクロ経済担当大臣セルゲイ・グラジエフは、フランス・シラー研究所のセバスチャン・ペリモニーのインタビューに答えている。あまり知られてはいないが、グラジエフはリンドン・ラルーシュとシラー研究所の友人である。インタビューの中で彼は、アフリカ・ロシア間の経済協力体制の欠点は、「ビジネス・コミュニケーションや技術的な連鎖は非常に弱く、相互貿易の成長を支える金融機関もない。決済システムも未発達である。」と述べている。さらに、今後の課題として「制裁下においても保障される新たな決済手段、新たな金融情報インフラ、新たな金融システムを構築する必要がある。」と述べた。

 

アフリカ諸国では、戦後の経済的植民地化により、国立銀行や独自の決済システムなどの構築が行われてこなかった。しかし、新たな国際金融システムを構築するという点では、この状況はある意味チャンスでもある。世界銀行やIMFからの離脱と同時に新たな国際金融システムを構築する事は、ラルーシュ運動が長年提唱してきた政策だ。実際にアフリカとロシアの間で新たな金融システムを構築するという仕事を任されているグラジエフがラルーシュの政策に着目するのも納得である。

 

8月7日付けのテレグラムの投稿でグラジエブは、シラー研究所の記事を紹介し、こう述べている。

"Some LaRouche Essentials for Transition to a New International Financial System"

「ドルのない世界通貨・金融システムの構築という話題のテーマについて、シラー国際研究所からの覚書を紹介する。この覚書を送ったヘルガ・ラルーシュは、四半世紀以上前にドル通貨制度の必然的崩壊を予言した偉大な思想家・経済学者である夫の仕事を引き継いでいる。ラルーシュの有名なワニ-世界のGDP成長率と米国金融システムの資本増加率の曲線は、以来、その顎を大きく開き、無担保ドルの発行と引き換えに実質的価値をむさぼり食っている。」

t.me/glazieview/3768

 

ちなみにこのワニというのは、1991年、ラルーシュがアメリカ経済崩壊の予測をした時に用いられた以下の図の事を指す。


インフラなどの実体経済への投資が減少していく一方、デリバティブなどの金融供給量(バブル傾向)が増加。その金融業界のギャンブルを持続させるために政府が通貨供給量を増加させてゆき、最終的にばら撒かれた通貨供給量が金融供給量を上回ってしまうことでハイパーインフレーションが起きると彼は予測した。