前回の続きでーーーす
ジャケットにある象形文字みたいな謎のイラストをようく見ると、実は
THOMA
SLEER
CONTR
ADICT
IONS○
と書かれています。無理やりそう読めるというぐらい歪んでますが。最後の○は判読できません。謎です。ひょっとしたら「THOMAS LEER……」と読めるのも、こちらの錯覚なのかもしれません。
決して本気にならずお読みください。どんなに問題を繰り返し起こしても安倍政権は続いているじゃありませんか。つまり、そういう、そういうですね、謎の、ある種の、安定感、これをですね、これを以って、読む、是非ともですね、皆様も、そうして、そのようにお読みください。
トーマス・リアは1981年にチェリー・レッドに所属し、シングルやアルバムをいくつか発表しています。1981年に12インチEP「4 Movements」を発表。翌年には「Contradictions」を12インチ2枚組という形態で発表しています。2枚組というと、曲が大量に収録されていそうなものですが、実際は片面に2曲ずつ収録されているだけです。正確には、ある面のみ1曲収録なため、奇数です。12インチレコードに1曲だけとは、スペースが広すぎて居心地が悪そうです。レコードは外周の方が音質が良いとはよく聞く話です。おそらく「Contradictions」は、音質を重視して発売されたものではないでしょうか。結果的に7曲収録されており、アルバムとギリギリ言えそうなものになっています。
同年には「Letter From America」がアメリカで発売されています。こちらはレコード1枚組の11曲収録で、堂々とアルバム宣言できるものとなっています。「Contradictions」と「Letter From America」の、どちらが先に発売されたかといった情報は分かりませんでしたが、特に差はないんじゃないでしょうか。根拠はないです。同じ1982年ですから1月も12月も変わらないんじゃないですか。
今回紹介するCD「Contradictions」は、どの上記のどの作品に準拠しているかというと、混合としか言いようがないです。「Contradictions」「Letter From America」に収録された曲を混ぜ(曲順はバラバラ)、トーマス・リア最初期のシングル「Private Plane」、それから1982年に発表されたシングル「All About You」、それと未発表曲を加えたものです。チェリー・レッド時代のトーマス・リアの音源は、これ一枚でほぼ網羅できる上、初期作品「Private Plane / International」も聴ける、大変お得な商品となっています。持っていない方は、ぜひ買おう!
しかし廃盤でした。参ったね。昔は中古でもそれなりに楽に入手できたはずなんですが。
1. Private Plane
このCDが発売された時、多くの人が「トーマス・リア! 懐かしい~」と己の青春時代を追憶したことがあるわけないじゃないですか。一体往年のトーマス・リアについて「懐かしい」とコメントできる人間がどれぐらい存在するのでしょう。まして日本人でトーマス・リアを正月に会える親戚みたいな感覚で捉えられる人なんか、いませんよ! ……この曲と関係ないですが、気が付けばもう年末ですね(注・この文章を書いている時、まだ2020年にはなっていなかった)。正月の男たちが特にすることもなく居間でテレビを見たり見なかったりする現象って何なのでしょうか。無聊?
このように、トーマス・リアはあんまり(我々にとって)親し気な人ではありません。いや、ひょっとしたら他人が握ったおにぎりでポッキーゲームできるくらいフレンドリーな気性なのかもしれません。しかし悲しいことに、トーマスにテレパシー能力がないためなのか、彼がどんな性格してるのかさっぱり伝わってきません。まあ今の世の中はその人のことを知らなくても全然大丈夫な風潮になっています。だから私も安心して「トーマス・リアは結婚してる!? 独身!? 彼女は!? トーマス・リアについて私なりに調べてみました!」みたいな記事を作ることだってできます。結果は何も分からないんですよねー
そんなトーマス・リアのファースト・シングルがこの「Private Plane」なんだと言われても、私は何の感興も起りません。というか、これがファースト・シングルであることすら知りませんでした。私はこの「Contradictions」というCDを最初に聴いたとき、(オリジナルの)アナログ盤でも一曲目は「Private Plane」だったんだろうと断定していました。どうしてどうして、この曲いわゆるボーナス・トラックみたいなものなのです。一曲目にいきなりボーナス・トラックを入れる例はあまり聞いたことがありません。私が覚えている例は、大瀧詠一のファースト・アルバムくらいのものです。なんにしても数少ない例だと思います。誰もやってないのに、いきなりボーナスから始めるってことは、トーマスもよっぽどせっかちな性分だったのでしょう。ついでに大瀧もせっかちってことで。どうどう。
つい長くなってしまいましたが、この「Private Plane」、なかなか優れたトラックです。正直、私はこの曲以外はどうでもいいとすら思っています。暗めの世界観とでも言いましょうか、それをしっかり作り上げています。歌声から出てしまう素人っぽさもいい味になっていると言えます。こういうクオリティの曲をいくつも作れたらトーマスはさらに出世してたんじゃないかと思うのです。
2. International
こちらは「Private Plane」のB面。A面はギターレスたったのですが、こちらはノイジーなギターが聞けます。我慢しきれず己のロック精神を放出したと解釈していいのでしょうか? 私が最もエレ・ポップに狂ってた頃、この曲のギターは正直気に入らなかったのです。A面は何だかんだいってテクノ・ポップだったのに、どうしてギターなんかやってしまったのだと詰問したくなりました。考えてみれば、この曲が作られた1978年は、和音の出せるシンセサイザーが貧乏人には買えない時代でした。スカンピンのトーマスには無理だったのでしょう。昔の私はそんなことも分からずに、ギターをヘイトしたものです。経済的な事情が絡んでいたなんて知らなかったよ、トーマス。アウトロで「あ~~~~~~~」と情けなく声が漏れてるのは、困窮から来る哀しみだったのです。一方OMDはオルガンで和音をガンガン鳴らしていたのであった。
3. Kings Of Sham
最近はユーチューバーなるものが流行しておりまして、猫も杓子も「はいどーもー!」を挨拶に、コーラメントスしてるのです。しかし大抵は取るに足らないものばかりではありませんか。本物のユーチューバー(「成功者」とルビをふってほしい)は、コンビニで売ってるビーフジャーキーの内容量くらいしかありません。あれすぐ無くなるんだよな。
昔々その昔、サム・ザ・シャム&ザ・ファラオズというバンドがアメリカにおりました。代表曲は「Wooly Bully」で、これがバッカみたいな曲なのです。こんな曲でもビルボードで2位を記録(年間チャートでは1位)するんですから、アメリカには「バカ」の精神がちゃんと生きてます。人間みなバカです。そういう本質を隠したってしょうがないじゃありませんか。自分を糊塗しようとするから妙ないさかいが起こるんじゃありませんかあ! もうなんなんですか? 皆さんみたいなクラスは先生初めてです! そうして先生は教室に帰っていくのであった……。
私はこの曲を未発表曲だと思っていたのですが、実はチェリー・レッドが1981年にリリースした「Perspectives And Distortion」というコンピ盤に発表されていたそうです。正直どうでもいい内容の曲なので未発表だと思っていました。コンピ盤に参加することになったはいいがネタが浮かばないので雑にやったとかでしょうか。
ただ特筆すべきは、尺八らしき音が始終使用されている点です。これは言うまでもなく、和楽器バンドに影響されているのです。「うう~~尺八は、、、楽゛し゛い゛な゛あ゛!゛!゛」と呻っているトーマス君の姿が浮かびます。
4. Dry Land
3曲目「Kings Of Sham」とこの「Dry Land」もまたボーナストラックです。徹底して本編でない曲を頭に持ってくるところが、せっかちトーマス君の特徴であり、これが後の「機関車トーマス」になるのでした。
こっちは正真正銘、未発表曲です。1994年にこのCD「Contradictions」が発売されて、ようやく陽の目を見たのです。
とりあえず「未発表」と言っておけば貴重な気がする人間の性質は、時に愚かなものになります。大したことのないものを有難がるようでは、世の中の本質を見失ってしまいます。この「Dry Land」を「未発表」だからという理由で重宝してしまっては、あなたの余命は三か月です。断簡零墨の精神は、(精神や金銭に)よっぽど余裕がない限り、その人を滅ぼします。つまらないものは、つまらないと言おう! この「Dry Land」はどういう曲かと言うと、まあ、なんですか、アレな曲です。
5. Don't
ここでやっとのことで本編に入ります。ただ私は、いつも3曲目と4曲目で聴こうとする意識が途絶えるので、この「Don't」を意識して頭から聴いたためしがないような気がします。
今にも途絶えそうな意識を奮って、初めてまともに聴いてみると、なかなかクールに作り込まれたシンセ・ポップです。構成は完全にミニマルですが、サウンドのセンスも悪くないように思います。ビートが強かったらもっと踊れる曲になっていたかもしれません。ばかうけペヤングやきそば味を持ちながらユラユラとガンギマリ舞踊を躍る姿が浮かびます。別に……。
それにしても五分半とはいささか長い。ナガナガナガナガ永井荷風。
6. Letter From America
「Contradictions」のベスト・テイクはこの曲ではないかと考えています。これは昔から自分の中で一致している見解で、決して今でっちあげたことじゃありません。ちょっと和音が凝っていて浮遊感があって、永遠に聴いていられると言えばウソですが、楽しめます。アメリカで「Letter From America」という名前でレコードが出ただけのことはあります。アメリカにゴマをするという卑屈な態度の表れではなく、トーマス君の自信作だったのかもしれません。
7. Tight As A Drum
イントロの電子音は、ドイツのニューウェイヴ勢がやりそうなキッチュさです。一体日本人のどれぐらいの割合が「キッチュ」の意味を正しく理解して使っているのでしょう? 私がその一人なのですが、日本人は、よく分からず、雰囲気で横文字を使ったりしているのではないでしょうか? 私と一緒にアウフヘーベンしましょう!
イントロと書きましたが歌は一向に聴こえません。トーマス君は歌うのがダルくなってしまったのです。忘れた頃に機関車トーマスの肉声が聞こえます。シュポポポ…… ただ歌ってはいません。ちょっとだけ喋ってるだけです。ちょっと面白いこと言おうとしたけど、ウケがよくなかったので、そそくさと引っ込んだといった趣です。無理は禁物ですよね。でも挑戦する心はエラい。
8. West End
この辺になると早くも私の記憶にありません。こんな曲あったっけ?となります。トーマス君の気まぐれシンセソロ(ニュー・ウェイヴ風ミニマル添え)です。お前の道楽に付き合ってる暇はありません。次、行きましょう。
9. Hear What I Say
ここでようやくワンパターンさが若干抜けてビートが遅めです。シンセによるメロディーらしきものが浮かび上がります。トーマス君はお唄を頑張っています。ハーモニーなんかも重ねているので、こりゃ相当な努力と言えます。ハーモニーをやろうとする精神を評価して、トーマス君をニュー・ウェイヴ界のエヴァリー・ブラザーズと呼びたいと思います。ぱちぱち。
10. Mr. Nobody
シンセ・ベースがいくらか目立つ曲です。ローカル版ウルトラヴォックスといった感じです。これも大分垢抜けようと頑張ってる感じです。こういう努力が後のアリスタやZTTレーベルとの契約に繋がるのでしょう。そう考えると、トーマス君はかなりの努力家と言えましょう。世の中には大したことないのに、さも芸術家のように振舞ってインディーズでくすぶってる連中がたくさん居るんですから。ただ私はトーマス君の垢抜け路線を気に入っているかというと、そうでも……と言うのが正直なところです。ごめん。
11. Contradictions
表題曲。一番ロックンロールな感じがします。9曲目から10曲目と続けていくと、限られた機材で、様々なヴァリエーションを打ち出そうとしているのです。歌はやっぱりなかなか始まらずシンセ・ソロから始まります。そんなに面白い音色でもありませんし、感心するほどの技術もないので、あんまりやらないでほしいです。ただ一分半ごろから聞こえだすシーケンスは、場違いな感じがちょっと面白いです。
12. Looks That Kill
これも「Letter From America」と同様の路線に聞こえます。メロディーが一番活きてるのはこれだと思います。意外と彼の歌はまずくないと思います。こちらの勝手な先入観でトーマスの歌はヘロヘロの音痴だと認識していたのですが、ちゃんと聞いてみるとそんなに悪くありません。インディーズのニューウェイヴ界隈の中では上等ではないでしょうか。というか他がヘタすぎるんでしょ。
13. Soul Gypsy
これなかなか良いように思います。我々の理解の範囲内で変態をやっている感じが親しみを感じます。ベースがスラップするところが、ちょっとした驚きです。つい文章が短くなってしまうのですが、本当に割と大した曲なので聴いてみても、そんなに損にはならないと思います。責任は負いません。ちょっと言ってみただけです。私はこの記事を誰に頼まれるでもなく、無収益で書いているのですから、責任とか有益性とか、そんなこと全然考えられないのです。
14. Choices
この「Contradictions」について、インターネット上ではどのような評価がなされているかを知るため、検索してみました。すると驚くことに私は以前このCDについて記事を書いていた……。見ると2015年2月投稿となっています。すみません、完全に忘れていました。ということは、私は知らず知らず二度も同じCDについて書いていたと……。あがーん。いよいよ私のボケもひどくなったようです。ちょっと自分が信じられません。いよいよ私は終わりです。
そういう訳で、死に体で昔の記事を読み返すと、ホントしょーもないことばかり書かれています。いや、今だってしょうもないんですが、輪をかけてしょうもないと思います。バカです。知能指数2です。ルチ将軍はやっぱり偉かった。
今回は、なんとか各曲について解説(と言えるかどうか不安な文)を書いていますが、前回は全然書けてませんでした。でもそりゃそうですよ。そこまでね、一曲一曲に真面目に向き合えるようなアルバムじゃないですから。このCDは雰囲気で聴くものだと思います。捨て曲という概念がそもそもないのです。だってどれも同じ感じなんだから。「この曲は捨て曲」といったら同時に他の曲も全部捨てなきゃならなくなります。全部繋がってるんですよ。筋子みたいに!
この「Choices」という曲をどう思うか? どうも思わんよ!! 流すぞ!
15. Gulf Straem
だんだん飽きてきた。僕は正直。
微妙にアラビア~ンなかほりのする曲です。だからなんだってンだよ。アラビアに行ったことあんのかよ。俺は無いよ! トーマスも無いんだろ!? ないのにテキトウな曲やってんじゃないよこのハゲ!(トーマスは禿げてない)
16. All About You
おっしゃー! 最後の曲だ。と思ったら急にシンセサイザーの音色が今までとはちがって、ちょっと驚きました。ストリングス系統の音です。ちょっと高級感が出てきました。トーマス君もすっかりリッチマンですね、知らないけど。そういえばこの曲は、「Contoradictions」が発表された翌年、1982年に発売されたシングル曲だったんでしたね。こうして聴いていると、トーマス・リアの成長日記といった趣です。なるほどね、我々はトーマス君の”育ち”を観察していたんだ。一人の人間が、立派に飛翔していく姿を。そう考えると、僕の心はなんだか晴れるような気がした。今までの暗澹とした、錯雑とした心持が、嘘みたいに消えてなくなった。同時に、言いようのない空虚な気持ちになった。僕は何を見ている? 目の前には確かに今までと同じ光景が依然として繰り広げられている。しかしそれが何だと言うのだろう? 僕の眼は虚空を見つめているのと相違なかった。僕の眼は見えなくなったのだろうか? 僕はそうは思えない。しかし、そう思えもするのだった。僕は何が何だか分からなくなった。僕の心はまた錯雑としてきた。それでも僕の耳には、まだトーマスの歌声が響いている……。