先日、実家に帰省した。

最近は少々億劫になってきた。

母がいる頃は帰省するのが本当に楽しみだったのだが、今は施設に入り、

普段は空き家になっている誰もいない家に入るのは寂しく、あまりうれしい

感情が湧いてこない。

ほとんど、使命感で帰るのだが、ただ、兄が毎日のように訪ねてきてくれる

のはありがたい。まぁ、そんな気持ちでいるから、帰りの景色も不思議と懐かしさも

郷愁も昔のようには感じない。

夜、田舎の広い家で一人眠るのは、本当に怖い。古くなった本棚から数冊を選んで、

枕元に置き、睡眠薬代わりに読むのだが、その日、たまたま選んだ郷土史の本の

表紙になっている写真に目が釘付けになった。昔の故郷の風景。

本当に何の変哲もない風景なのだが、そこに写った一つ一つを眺めると、今はない

旧式のバスや、古い橋、バスの行先、建物の立っていない田んぼ、全てがその景色の

時代に生きていた私に戻って、胸がキュンとなった。

今の現実の風景には感動しない自分が古い写真を見て、こんなにも感動するとは！

きっと古い風景の写真が脳にしまっていた幼い頃の自分が見た風景を思い出させ、

その時に生きていた自分の気持ちまで引き出したのかもしれない。そう感じた夜。　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　M.S.