『嘘つきインド人と親切インディアン・後編』 | 新・旅亀の世界一周冒険活劇

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旅亀の冒険・最終章。流れる雲のようにフワフワと。明日の行き先は明日決める。そんな旅をしよう。

もし、もしもだよ。

そう、これはもしもの話。










例えば道端で、知らないおじちゃんに声をかけられて、
いきなり『ガムを一枚あげるよ』なんて言われたら――。













あなたはどうする?















それを受け取る?

それともすぐにでも食べる?

勿論―――。









お断りする筈だよね。









でもそれは日本での話。






海外にいると、
何故かどう間違ってか、
ついついガムを受け取ってしまい、
それを口に運んでしまう・・・なんて事が、よくあるんだ。

そしてそれは今皆が思っているように、
やはり睡眠薬入りのガムで、
それを食べたが最後、
金品全て奪われて、路上に置き去りにされるってわけ。

実際、それで被害にあった人達は計り知れない。












甘い、甘すぎるぞ日本人。
ガムの甘さよりお前の甘さの方が余程甘いわ!

@旅の女神、心の叫び。







どうしてかなぁ・・・。

日本にいると絶対にしない事なのに、
外国だと、やってしまう。

日本だと考えられない行動を、起こしてしまう。










まさしく魔力だ、これは。











だが。

今の僕はその魔力には屈しない。

そう、前回の件 でもう、インド人にはせいせいしたのだ。

今インド人が僕に話しかけてこようものなら、
すかさず一本背負いで世界を一周させてやろうかと思っているぐらいだ。

そのぐらい、僕は今、インド人の嘘に対して腹が立っていた。







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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇









目の前を、何台もの車が通り過ぎてゆく。

タクシーやリクシャーは無駄に多いのに、
バスはさっきから一台も、通っちゃいない。

ここはリヴォリ・シネマ前。

インド人の嘘を信じ、スーパーバザールへ行き、
その場所からエアポート行きのバスが出ない事を告げられて20分。

ようやくこの場所に辿りついた。

インド人に付き合うと、まさかこんなにも時間がかかるとは・・・。

















暫くして僕は、近くにいた警官に尋ねた。

『すみません。エアポートバスはどこですか?』

すると男は言った。

『空港行きのバスはなかなか来ないよ。
タクシーで行く事をオススメするよ』

タクシーか。

まいったな、今手持ち金は100ルピーくらいしかない。

どうせ空港に行けばATMがあるんだろうから、
そこで引き出せば良いと考えていたのだ。

僕はその事を彼に告げた。

『今タクシー代を持ち合わせていないんだ。
時間はまだあるから、バスを待つよ。』

そして続けざまに、質問した。

『一体何時間ごとにバスは来るんだい?』

すると、
嘘か真かわからないが、
その髭の生えた少し色黒の警官は、
感情的とはいえない表情でこう返した。

『2時間。』






















2時間!?

いや、落ち着け。

いくらなんでもエアポートバスが2時間に1本しか運行していないわけがない。

嘘だ。絶対嘘だ。またインド人お決まりの、ホラ吹きだ。

いや、冷静になって考えてみろ。

ここはインドだぞ。

そういう事もありえるんじゃないか・・・?

頭の中でどうどう巡りを繰り広げる俺。









と、その時。

一台のバスがようやく姿を現した。

勿論僕の目はそのバスに釘付けとなった。

『やった・・・。2時間、待たなくていい・・・』

その瞬間はさすがにそのバスが、天使に見えた。

おい!俺。

頭でインドについてどうこう考えている場合じゃないぞ!

今しなければいけない事は、このバスが空港へ行くかどうか、確認することだ。

このバスを、止めることだ!!

僕は両手を挙げて乗車意思を示した。

バスはこちらに向かってくる。

ようし、停車次第、運転席に飛び込んで問い詰めてやる。

僕の方は、まさに準備万端だった。










しかし。

そのバスは一向に停まる気配を見せなかった。










スピードを緩めず、僕のすぐ横を通過するバス。







んな馬鹿な。


いやいやいや、ちょっと待てお前。

普通、手を挙げたら停まるだろうが。

ちっ。

くそう。

完全に東洋人をなめてやがるな。









僕は後ろを振り返り、そのバスを見送った。

追いかけようとしなかったのは、
そのバスが何度も市内で見かけた路線バスだったからだ。

エアポートシティコーチというバス名がついてるぐらいだから、
空港行きのバスは特別仕様だろう。

まさかこんなバスじゃないだろう。

そう思っていたのだ。












だが次の瞬間、目に飛び込んできたそれを見て、
僕の白目と黒目は飛び出しそうになった。





例えるなら亀仙人のじっちゃんがブルマの乳をみた瞬間の、あの目。




((( ロ)~゚ ゚

そう、その路線バスの、電光掲示板(表現間違ってマス)には、確かにこう書いてあったのだ。
















“AIR PORT”











僕は走った。

夜の車道を。

まるで自分の足がオートバイの車輪になったように。

天空を駆け抜けるペガサスのように。

自分の足は必ず、
あのバスに追いつくだろうという根拠のない自信を抱きながら、
夜のデリーの町を駆け抜けた。

まさに無我夢中とはこの事である。







走る。






走る。






走る。






走る。






だがその努力も空しく、バスは彼方へと去っていく。

やはり人の力では、機械には勝てぬのだ。

ちくしょう。

せめて、せめて信号があれば・・・!!





パパァーン!!


突然後方からクラクションが鳴り響いた。

そりゃそうだ。

道の端とはいえ、自動車の通り道を人間が突っ走っているのだ。

邪魔以外の何者でもない。









パアーン!!

再びクラクションが鳴る。

ええい、こんな時にうるせえな。

そう思いながら、僕は少し後ろを向いた。

『HEY!!ジャパニーズ!!』

そこにはバイクにまたがった若いインド人2人がいた。

そしてその内の一人が親指で後部座席を指しながら、こう言った。

『乗れよ。行きたい所があるんだろ』











思い掛けない提案に、
走る事を止め、
僕は立ち尽くしていた。








『早くしろよ。急いでるんだろ?』

もう一人のその言葉で僕は我に返った。

『助かる。』

そう言いながら、素早くバイクの後ろに跨った。

そして刑事ドラマさながらに、
僕は右手の人差し指をまっすぐバスの方へ向けこう言った。

『あのバスを、
追ってくれ!!』


バイクは一度ウィリーをして、出発した。

そして――。













バスに追いついた。











『ありがとう!!』

僕は名も知らないインド人に感謝の気持ちを伝えた。

その2人は『いいって事よ』と言いながら、バスの出発を待たずに発進した。

今度は2人の背中が遠くなってゆく。











不思議だ。

ついさっきまで、インド人に腹を立てていた自分がいたのに、
今ではこんなにもインド人に感謝している。

こんなにも、あったけえ気持ちになっている。

やっぱり、インド人にも良い人はいるんだ。

よし、リサ。

今から迎えに行くけど、早速この話をしてやろう。

こんなにも、おもしれえ事があったんだって、
インド人ってすっげえ濃い人種だって。

うん。土産話にはぴったりだ。

僕はそんな事を思いながら、空港行きのバスの車窓を眺めていた。