ああ…ぼくはばかものだ。
あのときなんで伝えなかったんだろう。
後悔はいつも夜にやってくる。
もういちどやり直したい。そうすれば…。
もう無理だとわかっている。
だけど、彼女がときおり見せる小悪魔のような、
悪戯っぽいしぐさが、ほのかな期待を抱かせる。
ふとした一言が縛り続ける。
彼女以外を好きになってはならないと。
恋は魔法だ。
合理的判断をすべからく拒否させる。
いま、それを疑う余地はまったくない。
彼女を愛するのをいますぐやめる。
それがぼくがとるべき最善の道であろう。
しかし、ぼくの首には、足下には、
心の自由をうばう魔法の枷がある。
いままで、何人の男がぼくと同じ感情を抱き、
そして、捨てられてきたんだろう。
わからない。けれども…!
それは、幸福な痛みだったのではないか。
彼女は人の境界をうまく乗り越える。
ゆらゆらと、ふわふわと、するりと。
あたかも境界など存在しなかったかのように。
他人に踏み込まれるというのは、思いのほか、
心地よいものだ。美しい女性ならなおさらである。
わずかな肌の触れあい。
なにげなく絡めた細くてきれいな腕の
わずかな体温がぼくの鼓動を早める。
とくんとくん。ねぇ、どうして。
こんなにもどきどきするなんて。
この幸福な痛みは、
はじめて女性に恋したときの
胸がきゅっとしめつけられる、
あの不思議な感触に似ている。
こうかんがえればいいのかな。
ぼくは彼女と向き合うことを通して、
若いときの自分にかえっている。
若いときの、うまくやれない自分を
肯定しているんだ。
いまだってほとんど変わらないぞと。
ああ…こんなことを書いているうちに
また会いたくなってしまったよ。
