もう一人の自分蜂はだらしなく頭を垂れて死んでいた。死骸は三日ほどそのままになっていた。雨が降り、朝になると、屋根の上にあった蜂の死骸はもうそこになかった。直哉は、そこにもう一人の自分を見出だすのである。『城の崎にて』には、人閲のはかない生涯を予感させる孤独がある。直哉が泊まった三木屋旅館に着くと、二階に上って、蜂が死んでいたはずの瓦を見た。この建物は、昭和四年に建て直したもので、直哉が泊まったときの建物は大正十四年の大地震で壊れている。