灰色オオカミのブログ

灰色オオカミのブログ

ブログの説明を入力します。

Amebaでブログを始めよう!

「なんだと・・・」 


「今、なんつった?」


俺は青年後輩の発した不用意な言葉に笑顔を消し、真顔に戻って低い声を発した。


まだ店にいる頃、開店前の売り場の中を青年後輩と並んで談笑しながら歩いていた時のことだ。


突然歩調をゆるめた俺に「なんでこの人は急に遅くなったんだろう?」という顔で振り向きながら


「いや、ですから本社にいた頃の後輩がゆきりんにそっくりなんですよ」


彼は笑顔のまま答えた。


「マジか・・・?!」


俺はウォーズマンばりに細長い四角っぽい目を珍しく大きく広げた。


「ええ、実際上司とかから『ゆきりん』ってあだ名で呼ばれてましたよ」


うーん・・・おじさん達はAKBのメンバーどころかほかのアイドルグループを入れても誰が誰


だか区別つかないだろうからあてにならないけど…


「あれ?っていうかオオカミさん会った事ありますよ。ほら、覚えてないかな・・・」


俺は思い出そうと宙を睨んだ。


そういえば青年後輩が異動してきてまもなくの事だった。


俺が店員休憩室のパソコンで事務仕事をしていた時、入口付近から男女の話声が聞こえてきた。


どうやら後輩の女の子が会社帰りに青年を訪ねてきたようだった。


「久しぶりだな、元気にしてる?」


そんな月並みな会話をしながら入ってきた。


青年後輩は俺の事をみつけると


「オオカミさん、後輩の○○です。本社の頃一緒にやってたんですよ。」


そして女の子には


「こちらオオカミさん。今、店でスゲーお世話になってんだ」


俺は席を立って彼らに向くと


「どうも・・・オオカミです。」と挨拶をしてすぐ席についた。


(あ・・・笑顔忘れたな、もっと声を張れば良かった。「よろしく」も言えば良かったな・・・32点だな)


俺は女子と会話した後、ほぼ毎回反省をする。



「ちょっと着替えて来るから、ここで待ってて。オオカミさんと話でもしてて」


笑いながら青年が出て行く気配がした。


酷な事を言いやがる。ただでさえ夜道で振り返った女子が逃げ出すようなオーラを持つ俺だ。


しかもさっきの32点の挨拶じゃ怖がられただろう。


俺は自虐的な苦笑いを浮かべながらパソコンを打ち続けた。


ガガ・・・


何の音だ?と思って振り返ると女の子は座っていた椅子をちょっと持ち上げながら中腰でトトト・・・


と近寄ってきて座りなおすと


「さて、何の話をしましょうか?」と笑顔で聞いてきた。


俺はあっけにとられた。意表を突かれ、目をパチクリした。


「ああ・・・そうだね・・・んー・・・と」


ぼやぼやしていたら青年が「お!何の話してんの?」


と戻ってきてしまった。



はっきりと顔は思い出せないけど人懐っこい笑顔と色白でぽっちゃりとした印象のあのコか・・・


俺は回想シーンから戻りながら最後の方の言葉が引っかかって眉間にしわを寄せた。


ぽっちゃり・・・?


「あのコは・・・あの言いにくいが・・・ぽっちゃりタイプじゃなかったか?」


「ぽっちゃりですね。」


即答ではっきりとした声で返ってきた。


「・・・・」 


「お前、ゆきりんって知ってるか?」


「かしわぎ・・ゆき。でしたよね?」


いや、名前を知ってるかって意味じゃない・・・


「ゆきりんスレンダーだよな?」


「そうなんですか?」


似てるかどうか果てしなく怪しくなった・・・。



今、俺は異動して本社にいる。一つ上の階にはぽっちゃりゆきりんがいるはずだ。


が、忙しすぎて未だ会いにいけるチャンスがない。


あと偉い人がいっぱいいる階で行きにくい。