夕べのこと。何処からか
女の叫ぶ声がした。
まただ…。
この間と同じ女の声。
相手の声はしない。
泥棒!かえせ!かえせ!かえせ!
この間も夜だった。雨の降る夜に
殺される!殺される!殺される!
やめてくれ。
馬鹿なやつらが
また火をつけるかもしれない。
些細な夫婦の言い争いで
父親が火を放ち
我が子を焼き殺したように。
家族だってそうなんだから
他人ならなおさらわからない。
新幹線で焼身自殺したジイサンだって
死にたきゃ、独りで
燃えたらよかったんだ。
自分がいくら気を付けたって
隣から火を出されたんぢゃあ
どうにもならないんだ。
三回目の火事に
ずっと怯えて
生きていかなきゃならないんだ。
泣き叫ぶ女の声が聞こえる今日も雨。
今日はたなばた。
催涙雨。
あえない涙の雨…というのも
私らしい。