お久しぶりです... ずいぶんとサボってしまいました。
いよいよ小説、再開します。
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各地から勝ち上がった凄腕のバンドが集まるグランプリ大会の会場は、各バンドが地元の応援団やファンを連れて東京に出てくるから、一次・二次予選とは比べ物にならないくらい広い。
照明や音響もプロのミュージシャンがライブを打つときとほとんど変わらない。観客も二千人は入る。こうなるともう、立派なライブコンサートだ。
リハーサルでだだっ広いステージに立ったムスメは「ここでやるんだ・・・すごい」とさすがにちょっと緊張していた様子だったが、いざ音出しをはじめると、いつもの超高速フレーズを続けざまに繰り出し、PA担当を絶句させていた。
控室ではムスメは人気者だった。なにしろ、『おやじロックフェスティバル』というくらいで、みんなおじさん・おばさんばかりだから、セーラー服の十四歳はイヤでも目立つ。
「お嬢ちゃん、かわいいね。いくつ?」
「あんたら、知っとるよ。『美少女と野獣』やろ?」
いろんな地方からやってきたバンドメンバーたちが、オレたちに声をかけてきた。
「その娘がいるかぎり、オレらは絶対に勝てん。ガンバってや」という声に、ムスメがガッツポーズを返す。
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オレたちの演奏は、チーのシンセではじまった。観客が聞き覚えのあるイントロに歓声を上げる。
オレは会場を見渡した。この中で、あの頃アン・ルイスが歌っていた『六本木心中』をリアルで聴いていた人は、いったい何人くらいいるんだろう?
観客席の最前列、審査員席に見覚えのある女性が座っていた。松濤さんがオレたちのことに気づいているかどうかはわからない。気づいていたとしても、もう二十年以上も前の話だし、住む世界が違うから、向こうは何とも思っていないに違いない。
ムスメのギターが演奏に加わった。セーラー服でレスポールを抱える若いムスメに、オーディエンスがさらに湧く。が、ムスメはまだおとなしめに、ゆっくりとしたフレーズをチョーキングビブラートをかけて、どこまでも音を伸ばしながら弾いているだけだ。
(好評でしたので、以下の写真を再掲します)
ははは、コイツ、ネコをかぶってるな。みなさん、ホントのコイツを知って驚くなよ。コイツが本気になったら誰にも止められないよ。
「ワン、ツー、ワン、ツー、さん、しィ」とオレは、二十年前のアン・ルイスみたいなカウントを入れながら、被っていた百円のカツラをつかみ、床に投げつけた。
バーコードヘアーのおっさんが、この曲のボーカルを執ると知って、観衆はちょっと驚いているみたいだったが、でもすでにドライブしはじめてしまった彼らの高揚は止められない。オレも覚悟を決め、少し高めの唄い出しに備えて、喉を開く。
「だけどォ、ココロなんてェ」
楽屋で少し発声練習しておいたせいか、唄い出しはスムーズで悪くない。まあ、アン・ルイスは元々、女性にしては声がそれほど高い方ではない。
脂肪が載って腹が出たスダレ頭のオレが、予想外に通る声を出したので、聴衆はウケて、さらにノりはじめた。腕をふり上げている人も何人か、いる。
でも、まだまだ、だよ。本番はこれから、これから。
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というわけで、おっさんになった「私」が歌う六本木心中は、果たして聴衆の胸に届くのか。
乞うご期待。


