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水平線の歩き方 劇団SummerSummer第3回公演

盛岡劇場タウンホール (10/31、11/1)

 

タイトルとこの透明感のあるチラシから、軽やかで涼しい、汗や血や涙から遠い物語を想像していました。私は映画も演劇も予習しないで見ることにしているというか、予習しないまま当日に慌てて出かけるパターンなので…

 

BGMからの暗転、激しい衝撃音。

 

白い椅子が3脚ずつ、両サイドにならべられている。中央にはしっかり作られたワンルームマンションの部屋。ソファーがあり、テーブル、棚にはラグビーボールが置かれてある。

 

部屋に帰ってきた主人公(幸一)がソファにかけようとしたら、絶叫!(ここで突然の大きな音に弱い私は飛び上がりました)

そこには青いゆったりした服を着た女性がいたのです。他人の家に勝手に上がりこんでいたくせに、この女性は図々しく明るく、主人公に自分を思い出させようとするのですが…

 

やがて幸一が小学生の自分に急死した母だということがわかります。ってことは幽霊? 幽霊ものなのか、幸一の妄想なのか、母・アサミが亡くなってからきょうまでのことを幸一は母に問われるままに語りはじめます…

 

離婚して看護師の仕事をしながら幸一を育ててくれた母が自慢だった幸一。母はいつも忙しそうだったけれど、きれいで若くて、授業参観では誇らしかった。そんな母がある日洗濯機の前で倒れそのまま帰らぬ人になってしまう。

 

離婚して再婚した父は幸一を引き取ることを拒み、幸一を引き取ってくれたのは子どものいない、若い叔父夫婦だった。その1年後に叔父夫婦に赤ん坊が誕生。

それじゃあお前は邪魔者扱いされたんじゃない?と心配するアサミに、ふたりからの愛情は変わらなかった、と愛情に包まれて育ったことを伝える幸一。やがて高校でラグビーに出会い、幸一はみるみるうちに実力のある選手に育って、大学でもラグビーを続け、ついに社会人ラグビーでも一流の会社に就職、ラグビー選手として誰もが知る存在に昇りつめる。

 

母を亡くして孤独だった少年がラグビー選手として活躍し、順風満帆な人生を歩んでいた。アサミは幸一の買い置きのつまみを次から次へとたべつつ、話を聞いている。アサミはカラッと明るく、ふたりのやり取りは親子というより友達同士のようだ。

 

転調。膝の怪我。同期入社の豊川は幸一とは逆にパッとしない成績だったが、幸一にいいドクターを紹介してくれる。だが、診察室で待っていたのはまだ若い女性のドクターだった。やがてドクターを信頼し手術を受け、体質改善のために肉とアルコールをやめて、すっかり復調し戦線復帰を果たす幸一。育ててくれた叔父夫婦と弟のような従弟も幸一の活躍を誇らしく思ってくれている。

幸一は主治医であった阿部からアタックされ、付き合いはじめる。

 

 

…しかし母・アサミはついに幸一の痛いところを突いてくる。

 

あんた、お酒をやめたって、じゃあこれは?

 

コンロの下のキャビネットから空の酒瓶がゴロゴロ出てくる…。

一度目の手術からしばらく好調だった幸一にまた同じところの不調が出てくる。にもかかわらず、このまま選手を引退したくないという焦りから幸一は大学生との練習試合に阿部の説得を無視して出てしまい、重篤な怪我を負ってしまう。

 

杖なしでは歩けなくなった幸一は荒れ、自分をラグビー専門のイベント会社の顔にしたいと張り切っていた豊川の夢を潰したことにも自責の念を抱き、酒に逃げるようになってしまう。ある日幸一は酒が入ったまま車を運転し、取り返しのつかない事故を起こす。

 

アサミが幽霊だったのではなく、幸一があの世とこの世のはざまにいて、自分の過去を途切れた意識の中で見ていたのだった。

アサミとの対話、自分を呼ぶ声、幸一の知らないところで叔父も叔母も、従弟も、阿部医師も、豊川も豊川の恋人であり、幸一の同僚である一宮も、

 

みんなが幸一を思い、生還を祈って駆け付けていた。

 

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幼い頃に母を失ってから、

幸一はずっと誰にも理解してもらえない、孤独を抱えて走っていたのかもしれない。阿部医師が幸一の印象を、ひとりでラグビーボールを抱えて走っている人、と感じたように、孤独が怖くて後ろにいるチームメイトにパスを渡すこともできず、ひたすら走り続けていたのだろう。

 

ラグビーの試合を見たことがあってルールがわかる人だったら、この舞台がもっと深く味わえたのかも。

 

 

叔父と叔母は幸一を愛情をもって育んでくれたのだが、幸一はそれを信じ切ることができなかったのだろうか。

大好きだったお母さんがある日突然倒れ帰らぬ人となり、父からも手を差し伸べてもらえなかったというが出来事が大きな傷になってしまった。

ラグビー選手として充実した明るい華やかな日々。その成功は自分が努力して築いたものなのに、幸一は自分のことも信じていなかったのではないか。

 

 

引き取られた叔父の家は茅ケ崎にあり、海をひとりで見ている幸一に、水平線までの距離の出し方をピタゴラスの定理をつかって説明しようとし、幸一がまだ中一だと気づき、自分で計算結果を教えてくれる。叔父は理科の教師だった。遠そうに見える水平線だけれど、実はそんなに遠くないということに幸一は驚く。もちろん観客の私も、へーっ!と驚く。

 

水平線はなんの喩だったのだろうか。

 

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リーフレットは黄色い厚手の二つ折りの用紙だった。

キャスト、スタッフ、スペシャルサンクスに並んだ、他劇団の多さも目を引いた。

 

劇団SummerSummerの第3回公演は発足から6年5か月の最終公演でもあった。劇団の公演自体は3回目だったけれど、客演は非常に多く、幸一のもとに彼を心配して集まった人々と、この舞台のために集まった役者やスタッフの方々が重なり、涙がとまらなくなった。

 

最前列の観客に配られたフェイスシールドが邪魔で涙を拭けなくて困ったのもいまとなっては忘れがたい思い出…いい舞台を見ることができてよかった。

 

高3の息子が終わった後しゃべってもしゃべっても終わらないように感想を話してくれたのもよかった。

 

物語のほんとうの終わりは幸一がドアから出ていくところ。ここから幸一の、また劇団SummerSummerの第2章がはじまるんだなあと爽やかな気持ちになりました。

 

思いつくままに書き出してみました。

劇評というほどではなくても、見てきた舞台や映画の記事を書くときに「ネタバレ」ということは悪なのか、と悩むようになり、迷っているうちにタイミングを逃してしまうということが最近多いのですが、

 

できるだけブログに残しておこうと思います(TwitterやInstagramだと分類ができないから)