夏になると思い出すのが高野文子の「玄関」(『絶対安全剃刀』所収)です。

主人公のえみこは暑いので畳の上にぐにゃっと寝ています。近所の同い年の子、しょうこが遊びにきて、水で薄めるパチパチはねるジュースを飲み、


柿ピーを2人でたべながら、しょうこに「柿の種とピーナツの割合」について厳しく追及され、悲しいことを思い出して涙を出せる特技について披露し、しょうこは帰り、えみこはこの夏にあった海で溺れたこと、プールが怖くなってしまったことを思い出し、病院からの帰り道、お母さんのパラソルの影を見ながら、地面を茶色ではなくふじ色とだいだい色で塗ってみようと思ったことを回想する。

たったそれだけの物語なんだけど、
そのたったそれだけが生き生きとして胸が苦しくなるような懐かしさで描かれています。



何度目からか、座敷の向こうの部屋で縫い物をしているお母さんの周りの描写に気がつき、

アサガオのツルは、開けた窓の向こうと、重なった窓ガラスの向こうでは当然描きわけられ、扇風機は影になっており、箪笥の上のガラス箱に入った人形や招き猫といったディティールにも目を奪われます。


しょうことえみこが台所でコップにジュースの粉を入れる時に、うちにないメロンの方がいいとか、濃いのが好き、このくらい?といったやり取りをするところもいいです。

夏になってアサガオが毎朝咲くようになると必ずこのマンガのことを思い出し、読み返したいな〜と思うのですが、この夏は望みが叶って無事読めました(息子が段ボールを崩すので次々発掘されるわけ。誰が片付けると思ってるのさ)。


単行本のタイトルは『絶対安全剃刀』ですが、カバーは「玄関」のしょうことえみこがバラ園にいるところで、ヴァロットンの絵みたいだな〜と根拠のないことを考えていたのですが、

この装画は高野文子さんによるもにではなく、南伸坊さんによるものみたいです。


すごいな。

私は全然考えもしなかった。この記事に行き着いたのは、カバーの下の方に書かれている




「松◯亭バラ園にて
えみ子章子 11才」

が気になって検索したからです。

松のとなりの漢字が読めない。

高野文子さんの出身地が新潟なので(はっ!だから柿ピーがこともなげに出てくるのか? 岩手の私からしたら当時柿ピーは大人が食べるもののイメージだ)、新潟のバラ園でも検索しました…なんかストーカーみたいで嫌になる。

南伸坊さんが架空のバラ園を描いたのかなあ。

火ヘンに蛍に見えるんだけどそんな漢字あるかなあ(なかった)。

誰かこのカバーのバラ園についてご存知の方、教えてください。

それにしても小学校の頃のいっしょに遊ぶけどそんなに仲良しじゃない女の子の友達、についてもまた思い出されてなかなか味わい深いです。

ではでは♪