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それは生まれた地方に伝わる、「かもん長者」。

有名な昔話がパッチワークされている感じもあるのですが、

「桃太郎」や「かちかち山」「猿蟹合戦」などのポピュラーな昔話ではないだけに、
洗練されていない形なのが、悪くない感じで。


むかしむかし今の羽田(地名、いまもある)に「かもん長者」という長者がいた。
掃部と書くんだろうと思うけど、子どものころは掃部なんて書けないし、耳から聴いた昔話なので、ずっと「かもん長者」と思っていたよ。

掃部長者はいい人だったが、奥方はとてもケチなひとだった。

下男たちは一本の太い柱を枕に寝せて、朝はその柱を蹴とばして起こすのだった(ひどい)。
ごはんのおかずなども、おいしいものを出すとごはんが減るからといって、沢庵1切れしか出さない。

ある日奥方が厨にいくと、焼いたイワナが山のように積んであった。たまらず1匹たべると、これがおいしくてたまらない。これだけあるんだもの、3匹までは大丈夫だろう、と、思った奥方だったが、3匹ではとまらず、ついに大皿に積んであったイワナをすべてたべてしまった。

奥方は喉が渇いて渇いてたまらず、甕に汲んであった水を飲みほし、つづいて井戸に降りて井戸の水をがぶがぶ飲みに飲んだ。
ようやく人心地ついたところで、井戸に角のようなものが映っていた。それは醜い竜だった。
竜は天に翔けあがり、雨雲を呼び村に激しい雨を降らせつづけた。
その年から、竜に娘の人身御供を立てるようになった。

ある年、九州のさよ姫がこの村を訪れた。
一晩の宿を求めて村の中でも立派な家の戸を叩くと、泣き声が聞こえた。

私は旅のものです。今晩泊めてほしいのです。
ところでなぜ泣いているのですか。
と尋ねると、私はこの村の長だが、今年はうちの娘に白羽の矢が立ち、娘を竜の人身御供に出さなければならない。それが悲しくて泣いていたのです。
とその家の主は泣きながら答えた。


私が身代わりに立ちましょう。

さよ姫は翌朝、高い丘にたち、竜がやってくるのを待った。

これで竜がくるのを見分けたので見分森と名がついた。

さよ姫は竜を怖れずひたすら手をあわせて観音様を拝んだ。
竜の角が折れて、ずうんと音がして竜が倒れた。

村には再び平和が訪れた。


ざっとこんな昔話なんですけどね。

岩手県の胆沢郡あたりに伝わる昔話かと思っていたら、けっこうこのヴァリエーションがあちこちにあり、九州の佐用姫がほかの地方からやってきたり、郡山に立ち寄ったり、
村長が矢立をたてて、身代わりを探す話もあったりで、けっこ昔は広く語られていたんじゃないかなあと思う。



私はなかなか眠れない子どもで、息子がADHDでずっと睡眠障害だったことを考えると、私も睡眠障害だったんだろうかと思う。
まあその話は長くなるのでおいておいて、
夜眠れない子どもだったし、昔なので8時になったら電気を消されるわけで、そうなったら、暗闇の中で聴くお話しか救いはないわけだ。

繰り返し聴く「掃部長者」は、ひとりで寝るようになってからは聞かなくなった。中学生になったので、勉強を言い訳に夜おきっぱなしでも文句は言われなくなったし(たまに怒られるが)。

司書のコースのある短大に入り、図書館研究会で絵本をつくったことがあった。私は「掃部長者」を絵本にしてみようと思い立ち、これが文章にしてみるとあやふやなところが出てくるので、意外に大変だった。絵はもっと大変だった。

松浦の佐用姫、はいまみたらWikipediaにも載っている。そんな有名人だったのか。
昔はWikipediaもなかったし、調べると言ったら、本や雑誌などにあたることだったのだが、
自分が住んでいる狭い地方だけの昔話だと思っていたのに、

その後いろいろ調べていくうちに、佐用姫の原型が万葉集にあったりして、時空間を越えて佐用姫が漂っていることに驚く。

調査というか、興味は「松浦の佐用姫」がどうして岩手にやってきたのか、ということですが、
その辺は、しっかりした理由のある昔話では、かえってつまらない気がする。

佐用姫はふらっと九州からやってきて竜を退治して、それだけである。
その意味のなさが私のすきな「掃部長者」である。

前半の欲張ってイワナをたべすぎて竜になったおばあさん、のバリエーションは全国にあるので、この昔話は「よくばりバアサン竜になる」と「佐用姫の竜退治」のふたつの物語をジョイントしたような感じだ。だが、竜になったおばあさんの話は回収されず、どうやら竜の姿のまま、退治されてしまった、だけである。その回収されない感じも、いかにも昔話という感じでいい。

以上私がすきな昔話、「掃部長者」であります。