ジブリ美術館のミニシアター木星座でのみ上映される短編アニメーション。

「パン種とタマゴ姫」は流れるような動きとモネの絵の中に入ったような麦の積み稾のつづく田園風景がうつくしく、


久石譲さんの音楽と画面が渾然一体となって、非常にいい気持ちになれる映画でした。



映画ではとにかく説明は一切なく、絵だけでタマゴ姫が魔女(千と千尋を思い出させます)につかまってしまい、パン生地をこねたりローラーをひいたり、一日こき使われているんだな、とわかります。

セリフはなかったはずなのに、思い出すとタマゴ姫の小さな可憐な声も、魔女の高笑いも聞こえてくる気がします。




そこに現れたのはパン種にめりこんだ林檎の鼻をもつ、パン種。

パン種の赤い鼻からはケムンパスみたいな虫が時々顔を覗かせます。

パン種に手を引かれてタマゴ姫と魔女の追走劇がはじまりました。





広い麦畑の間をかけて逃げるふたりと、

収穫や製粉、そして製パンにと忙しく働く村人たち。

音楽アニメーションだけでこんなに多くの揺さぶるものを感じられるとは…。



最後は無事、王と王妃の元に帰ることができたタマゴ姫。

村人たちも大喜び…ってなぜウサギ。イースターラビットってことでしょうか。

この木星座で上演しているアニメーションのパンフレットというより福音館書店の「こどものとも」のようなペーパーブック絵本には、麦についての解説があったりします。


そして宮崎駿監督による、「麦からパンへ」。





「麦の粒は粉にひかれていちど死にます
粉はこねられてパン種に生まれかわります

パン種はかまどに入れられて

また死んでパンに生まれかわります

こうして麦はいのちのみなもとに
なっていくにです。」

この文章を読んで宮崎駿アニメのファンはきっといろんな名場面を重ね合わせるのでしょうが、

私が思ったことは。


宮崎駿監督ってパンがほんとうにすきなんだなあ!


そこ?と言われそうですが、

私には自信があります!

アニメーションについては全然だが、児童文学とパンについては宮崎監督とすごく気が合いそうだという自信が!

ジブリ美術館の中の図書室にて映画のパンフレットやジブリ美術館の図録も販売しているのですが、

宮崎駿監督が読んできた児童文学の名作も置かれています。こういう世界を善しとする監督なんだなという見方もできるし、

自分も昔読んだ物語を手にとってみたり、時間がゆるすならこの図書室にずっとはまっていたいくらいだった。

監督はもう引退したわけだけど、宮崎駿のトトロや魔女のキキは全国の児童室や学校図書館をあかるく楽しく飾っていると思う。その功績がすばらしい。


ってアニメの巨匠を捕まえて何を言っているのか私は。木星座でしか上演しないのはもったいないとは全然思わない、だいじにだいじに、

掌中のタマゴ姫としてこのままひっそり愛されてもらいたいです。

(でもタマゴ姫とパン種のストラップとかグッズを集めて愛おしむのはべつだ)。