廊下に貼ってある成績表が目に入った。この前の期末テストの結果らしい。
アタシの名前は当然載っていないだろう。だけど、1番に輝くレムレス先輩の名前が見たくて、成績表の前に躍り出る。
他の生徒を圧倒した成績で、レムレスは君臨していた。どの教科も、先輩の右に出る者はいない。アタシは、まるで先輩を見つめるかのように「Lemres」と書かれた文字を見つめた。
「やあ、フェーリ。きみの名前は載っていたかい?」
アタシの横に甘い香りが流れる。足音も無く、レムレス先輩が立っていた。珍しい。先輩は、いつも魔導使として活躍していて、学校に来るのは行事かテストの時ぐらいだ。
「レムレスせんぱい!そんな、アタシの名前なんて載っていませんよ」
だけど先輩がいるから、成績表を見ているんです、と言う前に「ふーん」とレムレスが、口角を上げたまま、成績表を見渡した。
「・・・きみはこの学校に入ってきたぐらいだから、その気になればこれに載るぐらいの力は持っているよ」先輩はそう言って、ぼそっと何かつぶやく。自分の名前の隣に・・・何て言ったの?
「でも、アタシ、勉強に集中できなくて・・・」
そう、四六時中、黒魔術とまじないとレムレス先輩について考えてるからだ。この学校に入ったのも、先輩の近くにいるためにがんばって勉強して入ったからであって、正直、学校のお堅い勉強なんて必要無いと思っている。自分の好きなことを、極めればいい。
「へえ そうなんだ」先輩はいつもの細い、優しい目で私を見つめる。
「じゃあ、僕がきみに勉強を教えるのはどう?」かがんだ先輩の髪が、顔に当たる。
「そんな、それじゃ、先輩のお時間が勿体無いです」私は1歩下がる。どんなに先輩が大好きでも、アタシは大体影にいた。あんまり先輩の時間を邪魔したくない。勿論、他の人にも邪魔させるわけにはいかない。だから、いつもアタシの先輩を守っている。
「そうだね、だけど最近は時間が空いてるから大丈夫だよ」時計なんか無いのに、腕を見る仕草をする。「きみの成績が上がったら、ごほうびを用意するっていうのはどう?僕はいつも、1番になったら自分に甘い飴をあげるよ」
先輩は懐に手を入れると、2本の棒付きキャンディーをとりだした。1本の緑と白のぐるぐるキャンディーを手渡される。とっても甘くて、優しい味。
「・・・ごほうび、ですか?」アタシはちょっと悩んだ。せんぱいに何をしてもらえるんだろう。言いたいことはいっぱいあったけど、結局いつもどおりの言葉を紡ぐ「せんぱいお手製のキャンディーを、いっぱいください」
「あれ、それだけでいいの?」レムレスは拍子抜けしたようだった。そして、自分で提案する「じゃあ、飴玉を・・・口うつしであげるとかは?」悪戯っぽく笑う。
私は顔から火が噴きでる。「せ、せ、せんぱいっ!それは、本当に、いいんですかっ!?」
「もちろん。ただのキャンディーじゃいつもどおりだからね。それとも、僕との口うつしは嫌だったかい?口うつしで、僕の魔法のパフォーマンスを見せてあげようと思って」
「いえいえ、全然!アタシ・・・その、さっそく勉強してきます!」
そう言って、アタシは逃げるように走り出した。
どういうことなの?こんな良い結果、まじないにも出なかった。アタシは予想が外れた驚きと、先ほどの先輩の発言を思い出して、気分が高揚していた。
少し、勉強がんばってみようかな。わからないとこがあったら、そこは先輩に甘えよう。
黒魔術の本を見つめて、フェーリはそのまま家に帰った。
レムレスはまだ、学校にいた。分厚い参考書に、羽ペンでさらさらと「Feli」と書く。その文字は、煙のように浮かびあがり、フェーリの顔を作って、消えた。
さっき僕はつぶやいた。「自分の名前の隣に、フェーリがいればいいのにな」、と。
聞こえてしまっただろうか?いや、それはどうでもいい。僕は本当はフェーリに聞いて欲しかったんだろうけど。
「明日から、フェーリの勉強をつきっきりで見てあげよう」
ごほうび、喜んでくれたみたいだからね。だけど、困った。
あのごほうびは、この僕にとっての最大のごほうびだからだ。まあ、いいか。今回も、僕は頑張って、1番だ。1人の女の子に魔法をかける、というようなことがあっても悪いことは無いだろう。
「そして明日から、いっぱい飴玉作っておかないと」
紫と緑のぐるぐるキャンディー。それに甘い魔法をかける。
もっと自分を好きになるように。自分から離れないように。
魔法の調合をしていて、思った。自分は、狡いな。こんなことで、相手を縛りつける。
あの子はそのままの魅力で、僕を縛りつけたのに。
苦笑いをして作業を続ける。僕はつまらないプライドを持っているんだ。いつか、もっと後になったら、そのときは、二人は運命で結ばれるような関係になるといいな。
レムレスは、お菓子作りに集中して、その日が終わった。
(その恋は運命なの?それとも、魔法?)
ぷよぷよ
レムレス→→→←フェーリ
この小説は、或森愛子ちゃんに捧げました!!
そしたら、素敵な挿絵がかえってきました。仕事早い、GJ!!!でも、何故紙の切れ端に描いたし(笑)でも、それがいいんですよね、わかります。
色をつけさせていただいた物が完成したので、のせます!許可ありがとうv
一応宣伝。
或森ちゃんはデュラララ!アンソロジー静雄×茜・臨也×茜アンソロジー「KEEP OUT,BABY!!」に参加しています。
お見かけの方は是非よろしくお願いします!