久しぶりの「魔女の映画館」の更新です。
この映画の前に「ブラックスワン
」を観ているのですが、それはまた別の機会に。
さて、「Shall we ダンス?」の周防正行監督の最新作「ダンシング・チャップリン
」です。
妻である草刈民代さんは、2009年にバレエダンサーを引退し、女優に転身されました。
つまり、バレエダンサーとしての草刈民代さんは、すでにいないわけで、私たちが目にできる彼女のラストダンスが、この映画というわけです。
周防監督は、バレエダンサーの夫としての15年を作品として残したいという強い思いがあったといいます。
監督が選んだのは、先日亡くなったフランスの巨匠振付家ローラン・プティ氏のチャップリンを題材とした「ダンシング・チャップリン(原題:「Charlot Danse avec Nous(チャップリンと踊ろう)」)」。
チャップリンの数々の名作がバレエとして表現された作品です。
「ダンシング・チャップリン」は 1991年の初演からチャップリンを踊り続けるダンサー、ルイジ・ボニーノのために振り付けられた作品であり、 彼は世界で唯一この作品のチャップリンを踊ることができるバレエダンサーです。しかしルイジも還暦を迎え、肉体的に限界を迎えつつあるわけです。 このままでは幻の作品になってしまう! と危機感を感じた監督の強い思いからこの企画がスタートしたといいます。
周防監督は、イタリア、スイス、日本を巡り、草刈民代さんをはじめとする世界中から集まったダンサーたちの舞台裏60日間の記録である「アプローチ」を第一幕に、ローラン・プティの「ダンシング・チャップリン」全20演目を13演目に絞り、映画のために再構成・演出・撮影された「バレエ」を第二幕とし、ただのバレエの映像とは一線を画した素晴らしいエンターテイメントに仕上げました。
面白いのは、第一幕「アプローチ」の中で監督が、ローラン・プティ氏に、チャップリンの映画にかかせない警官たちのシーンを本物の公園で撮りたいと打診したところ、彼は「外で撮るならこの映画の話は無しだ!」と言われてしまうくだり。
単なる劇場中継にしてしまわないために、監督は是非外での撮影をと食い下がるのですが…
第二幕の「バレエ」では果たして…
警官たちは緑鮮やかな公園でのびのびと踊っているのです。
「ほぼ日
」のインタビューによると、監督は実は黙って公園で撮影したものを編集して、ローラン・プティ氏に見せたのだそうです。
するとローラン・プティ氏は何も言わなかったと。
たぶん、外では撮るなといったことを彼自身忘れていたのではないか…ということらしいのです。
監督の狙いどおり警官たちのダンスはさらにスケールを増していたような気がします。
ルイジ・ボニーノの哀愁ただようチャップリン、草刈民代さんの多彩で美しい踊り…
バレエ作品としてもバレエを作り上げるたくさんのプロフェッショナルのドキュメンタリーとしても、これまでに類を見ない素晴らしい作品だと思います。
【ダンシング・チャップリン】
2010年/日本/136分
監督:周防正行
キャスト:ルイジ・ボニーノ、草刈民代、ジャン=シャルル・ヴェルシェール、リエンツ・チャン、ナタナエル・マリー、マルタン・アリアーグ、グレゴワール・ランシエ、ユージーン・チャップリン、ローラン・プティ