【シングルよもやま話 52】 リリース後に水を差されてファンにも忘れ去られた可哀想なカバー曲…。 | 歌謡曲(J-POP)のススメ

歌謡曲(J-POP)のススメ

音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 唐突ですが、今回取り上げるのはこの曲()であります。タイトルとレコードジャケットを見て、どんな風に思いましたか (←って言われても、さっぱりピンと来ない方はどうもスイマセン


「めざせモスクワ」(ダーク・ダックス)
作詞:藤公之介(日本語詞)/川崎保(ロシア語詞)/Bernd Meinunger、作曲:Ralph Siegel、編曲:白石哲也

[1979.12.? 発売; オリコン最高位-位; 売り上げ枚数-万枚]
[歌手メジャー度★★★★; 作品メジャー度★; オススメ度★★]


 『ダーク・ダックスが歌ってて、タイトルが「めざせモスクワ」ってことは…ロシア民謡かな』と思った貴方は、もしかするとこのブログのコアな読者でしょうか。いい線いってますが、残念ながらブーです。『誰かのカバーだったような…』というあなたは鋭い。大正解です

 オリジナルは、ドイツのDschinghis Khan(ジンギスカン)というグループがリリースした2作目シングル「Moskau」です。日本人にとっては幻に終わったモスクワオリンピックに先駆けてリリースされた作品で、こちらは世界的にヒット
しました…そう、ジンギスカンというのは、一度聴いたらなかなか耳から離れないあの「ジンギスカン」(1979.6.1発売、オリコン最高位12位、オリコン売り上げ16.4万枚)をヒットさせたグループですねオリジナルの「Moskau」は、日本でも「めざせモスクワ」というタイトルでリリースされ、五輪ボイコットにも関わらずそれなりのセールスを記録しました(1979.9.25発売、35位、13.0万枚)。それから四半世紀が過ぎた2005年になって、突如として空耳ソング「もすかう」として話題となり、その後サッカーや野球の応援歌にも流用されたりしたので、意外と若い世代の方々のほうがなじみ深い曲かも知れません。どんな作品か、まずはオリジナルの方をYouTubeを視聴して戴きましょう



 曲の構成は、書いていてちょっと笑ってしまう A-A-B-B’-A’(サビ)-A’-A’-A’-A-A-B-B’-A’(サビ)-A’-A’-A’-A’-A’-B-B’-A’-A’-A’-A’曲の半分以上はサビメロ(A’)の繰り返しで、しかもそのサビは冒頭Aメロと限りなく兄弟みたいな関係になっています
。で、この“これでもか”のリフレイン部分が、非常にロシア民謡的な旋律(=「マイナーコードとメジャーコードを絶妙に織り込んで“哀愁と美”を表現した」…とでも言えばいいのかなぁ)なんですよね

 デビュー曲「ジンギスカン」ほどの強烈なインパクトはありませんが、ノリが良くって情感に訴えるサビも上々の出来で、音楽的な骨組みのしっかりした佳曲
ではないかと思います(まぁ、サビの部分の振り付けは、「コサックダンス踊らしときゃロシアっぽいだろという浅い企画意図が透けて見えて“思わずニヤリ”なのですが…)。ちなみに大学時代に”ロシア民謡研究会(←いかにもあやしい)”にも所属していた私の知る限り、この曲に該当するロシア民謡はありません作曲者である西ドイツの音楽プロデューサー(Ralph Siegel)が、ロシア民謡をモチーフをにして、ジンギスカンの売り出しイメージに合ったダンス・ミュージックを捻り出した…というのが実態だろうと思います。

 おっと、ダーク・ダックスの話でしたっけ。ダーク・ダックスがこの曲をカバーすることになった経緯は容易に想像できます
。以前にもブログ記事で触れたように、彼らは’50~’60年代にかけて多くのロシア民謡を取り上げて歌声喫茶ブームを牽引した存在です。そんな彼らがブームから20年を経て久々に「Moskau」の世界的ヒットを目の当たりにして、“ロシア民謡の第一人者”としての血がうずいたことは間違いないでしょう(なかば使命感みたいなものか。そして、五輪がらみの歌であれば、「花のメルヘン」(1970.11.10発売、14位、16.8万枚)以来、久々にヒットを狙えるかも…という思惑だって当然あったはずです。ところが曲のリリース後に、日本がモスクワ五輪をボイコットするという最悪のケースに…五輪ムードにすっかり水を差された日本でこんな曲がヒットするはずもなく、ダーク・ダックスのファンの間ですら、その存在がほとんど知られていないシングルになってしまいました



 それじゃあ、「あの時もし日本がモスクワ五輪に参加していたらこの曲はヒットしていたか…
と問われたらどうか。残念ながら、ダーク・ダックスファンの私ですら「多分ダメだったと思う」と答えます。…やはりねぇ、ダーク・ダックスってのは、“いつも生真面目で丁寧な作品作り”が信条なワケですよ。♪ Ahahahaha~ あたりの“はじけ具合”が魅力の「Moskau」は、ジンギスカンにはピッタリでも、ダーク・ダックスの守備範囲とはちょっと違うのではないかと。両作品を何度聞き比べても、オリジナルの方が作品の出来はかなり上、としか思えないんですよね…

 もっとも、ロシア民謡っぽく聴かせようというサウンド面での工夫が凝らされている点はね、必ずしも悪くないと思うんですよ。例えば間奏のところに、オリジナルにはないロシア民謡の「ポーリュシカ・ポーレ」のメロディを挿入してみたり、終盤のサビのリフレインでは徐々にテンポアップして ♪ ヘイ! で締めてみたり…。後者の処理は、「カチューシャ」や「カリンカ」でも披露しているダーク・ダックスお得意の“聴かせ方”なので、彼らのファンであれば間違いなく喜ぶでしょうし(私もその一人です
)。

 歌詞の方は、日本語に加えてわざわざロシア語詞まで付けて歌うという気合いの入り方です。原曲の詞にはない ♪ リラの花咲き スズラン香る~ という歌詞は、ロシア民謡に登場する象徴的な2種類の花を織り込んだもので、これも「ロシア民謡っぽく聴かせよう」という趣旨の一環なのでしょう
。でも、いくらロシア民謡っぽく聴かせたいからって、♪ 僕のカチューシャ 君のナターシャ という意味不明な押韻はないのでは… 確かに、オリジナルの歌詞にも“ナターシャ”という女性名が登場しますが、“カチューシャ”の方は影も形もナシ。くれぐれもやり過ぎはいけません

 最後に、“まったく役に立たない豆知識”をひとつ
。この「Moskau」は、ダーク・ダックスの他にも、人気声優16名によって結成されたバオバブ・シンガーズという即席グループがカバーしています(1979.11.21発売、80位、1.9万枚)。名前を連ねたメンバーは、水島裕三ツ矢雄二富田耕生神谷明富山敬井上和彦肝付兼太野沢雅子小原乃梨子千々松幸子…などなど、私からあえて説明不要な超豪華メンバー ダーク・ダックス盤と違ってこちらは最初から完全にウケ狙いの歌詞になっていて、中でも後半のサビ部分はまさに脱力モノ。なんたって、♪ 息子 息子 大きくなあれ Hohohohoho 息子 息子 大きくなって オリンピック目指せ Ahahahaha ですから。「Moskau」→「ムスコ」のダジャレには目をつぶるとしても、大きくなったムスコでミョーな考え起こさなきゃいいのですが(←お前こそ考えすぎ)。



 …久しぶりに”シモ”な締め方でナンですが
m(_ _ )m、今回はこんなところで。またお逢いしましょう~