今回は一ヶ月ぶりに「独偏ベストテン」のコーナーでいってみたいと思います。取り上げるアーティストは、村下孝蔵さん・・・1999年に惜しくも46歳の若さで亡くなったシンガーソングライターです。お好きな方が一人でも多くいらっしゃると嬉しいのですが
村下孝蔵の紡ぎ出す世界は、ひとことで言ってしまえば、“昭和の良き時代を思わせるノスタルジックな作風が得意な抒情派”ということになるでしょう。マンガで言えば、ちょうど西岸良平の「三丁目の夕日」を髣髴させるイメージですね。どうやらこうした作風は、彼の実家が映画館をやっていたことと無縁ではないような気がします。
‘80年代初頭に高校生だった私は、日本全体が“軽チャー路線”に突き進むのを、かなり苦々しく感じて反発していたフシがあります。・・・いや、正確に言えば、「軽チャー路線」そのものがイヤだったのではなく、「物事をマジメに考えたり、(例えば)村下孝蔵の音楽に共感したりするのは“ネクラ”でかっこ悪い」と、半ば決めつけるような風潮に我慢ならなかったんですね・・・。だから、「初恋」が大ヒットを記録した時には、一人で密かに快哉を叫んだものです(←やっぱ暗いですかねぇ)
・・・さて、村下孝蔵さんが1980年にデビューして、亡くなる前年(1998年)までに遺したシングルは、全部で21作品になります(デュエット曲を含むと22作品)。例によって、その中から私の独断と偏見に基づいて10作品(+次点)をセレクトしてみました。オリコン10位以内に入ったのが1作、同100位以内が8作・・・と、メジャー度がこのくらいのアーティストだと、いつもなら2回分の記事でまとめるところなんですが、今回はやや思うところあって記事を3回(6~10位、1~5位、資料編)に分けてお送りしたいと思います。これは、先に触れたように、村下さんは私にとって個人的に思い入れの強い歌手だということともう一つ、私の中で、“村下さんの素晴らしさがどうもまだ世間に十分知られていないようだぞ”という思いが非常に強いためです。この辺、どうかご理解のほどをm(_ _ )m。
今回は、読者の多くの方々にとっては初めて耳にする作品が総じて多いのではないかと思います。そこで、私のレビューは若干控え目にして、皆様にはぜひ村下孝蔵の世界をYouTubeでじっくりと味わって戴ければなぁ・・・と考える次第です。それでは、第10位から第6位までの発表をどうぞ~。
第10位 ソネット 【オススメ度★★】
作詞:村下孝蔵、作曲:村下孝蔵、編曲:水谷公生
[1990.6.21発売; オリコン最高位-位; 売り上げ枚数-万枚]
独偏ベストテンの末席に名を連ねたのは、ソロとしては13作目のシングル「ソネット」でした う~む確かに、“ソネット”(=十四行詩)のタイトル通り、ラストのサビの繰り返しを除くとちゃんと14行の詩になっています(さすがに韻までは踏んでないですが)。この曲は、彼の地味なシングル群の中でもひときわ”地味指数”の高い作品ですが、「恋愛」に哲学的なテーマがからんで重~い印象が・・・言葉が少ない分、聴く側もついあれこれと思いを巡らせてしまいます。ヨーロピアン・テイストのメロディに載ったサビ()が流れてくると、私は思わず目頭が熱くなってきちゃうんですよね・・・。
♪ いちばん好きな人 あなたのために
生まれて死ねるなら 何もいらない
♪ いちばん好きな人 あなたのために
生まれて死ねるなら それだけでいい
第9位 ねがい 【オススメ度★★】
作詞:村下孝蔵、作曲:村下孝蔵、編曲:水谷公生、町支寛二
[1986.11.21発売; オリコン最高位-位; 売り上げ枚数-万枚]
屋台を引くオジサンキャラで有名な明星チャルメラのコマーシャルソングにもなった10作目のシングル「ねがい」が第9位でした~ この作品も優しい歌詞が心に沁みてきますね。何だか遠い昔に置き忘れてきた大切なものに、ふと気づかせてくれるような・・・そんな感じ。だけど、私のようなオヤジがノスタルジックな気分に浸るだけじゃ勿体ないので、ぜひぜひ若い世代の方たちにも聴いて戴きたいなぁと。こういう“必要最小限の横文字しか入っていない歌詞”というのは“古さ”を超越して、かえって新鮮に感じられるんじゃないかと思うんですが。
♪ まるで雫が葉をすべり 虹がきらめく雨上がり
君を見つめているだけで 心が洗われる
レモンをかじって 眉しかめ
くすくす笑った 天使のような声
こわれやすい素直な気持ち なくさないで
第8位 帰郷 【オススメ度★★★】
作詞:村下孝蔵、作曲:村下孝蔵、編曲:水谷公生、町支寛二
[1981.6.21発売; オリコン最高位-位; 売り上げ枚数-万枚]
第8位に入ったのは、3作目のシングル「帰郷」でした。3作目という、そろそろアーティストとしての方向性を明確に打ち出すべき難しい局面で、アレンジャーの水谷公生センセの出したアイデアが「ラジオや有線放送を通して人々に耳を傾けてもらうには、やはりテンポのいい音楽でなければ・・・」というもの。村下さんはこのアドバイスを真摯に受けとめ、この「帰郷」も手直しして仕上げたそうです。そのアイデアが「帰郷」で直ちに実を結ぶことはありませんでしたが、後の「初恋」の大ヒットに繋がっているのは間違いないところでしょう。プロとしての水谷センセの直感の鋭さと、村下さんの実直な人柄が伝わってくるエピソードだと思います。民族音楽仕立てにしたことで、ノスタルジックな雰囲気がいっそう高まっているのもvery goodなのです
第7位 月あかり 【オススメ度★★★】
作詞:村下孝蔵、作曲:村下孝蔵、編曲:水谷公生、町支寛二
[1980.5.21発売; オリコン最高位-位; 売り上げ枚数-万枚]
記念すべきデビュー・シングル「月あかり」が第7位でした~ これは”かぐや姫”あたりを想起させるコテコテのフォーク・ソングで、個人的には結構好きなんですが、リリースされた時代を考えるとさすがに“時代遅れ”と言われても仕方ないかも。“一般ウケ”を狙うのであれば、B面「松山行きフェリー」をA面にした方が良かったという判断もアリでしょうが、この「月あかり」は典型的な“スルメソング”で、聴けば聴くほどじわじわと余韻と味わいが出てくるんですよね
特筆すべきは、やっぱり詩でしょう。作品の中でキーの役割を果たす「もうこれ以上飲んだらだめよ」、「もうこれ以上飲んだらだめ」というセリフの選び方が何とも絶妙だと思います。「おぼろ月夜」「夜のしじま」・・・いまやほとんど聞かれることのなくなった美しい日本語が散りばめられているのも嬉しいですねぇ。
第6位 踊り子 【オススメ度★★★】
作詞:村下孝蔵、作曲:村下孝蔵、編曲:水谷竜緒、町支寛二
[1983.8.25発売; オリコン最高位24位; 売り上げ枚数8.6万枚]
第6位にランクインしたのは、大ヒット曲「初恋」の直後にリリースされた6作目のシングル「踊り子」でした。これは結構ヒットしたので、ご存知の方も多いかも知れません。村上保氏による素朴で優しい切り絵のシングルジャケットもいい味出してましたね~。ちなみに編曲クレジットに水谷竜緒とありますが、要は水谷公生センセのことです。
やや抽象的な歌詞から想像するに、この作品の登場人物(男女2人)は、周囲の反対を押し切って“駆け落ち”したのでしょうね。そして“若さ”ゆえか、お互いに相手への愛情が不安定なまま、結論(=結婚するのかしないのか)を出せずに月日だけが過ぎてゆく・・・そんな状況を、回転するのをやめると倒れてしまう“踊り子”に喩えています。うーむ、これはまるで良質の詩を読んでいるような気分に浸れること請け合いですね
・・・さて、今回のところはこの辺でおしまいとします。いかがでしたか 次回は、「独偏ベストテン 37-2 村下孝蔵のシングル作品 (1~5位)」と銘打って、いよいよ上位5曲を発表したいと思いますのでどうぞお楽しみに~。それでは、また