【シングルよもやま話 30】 今も思い出すと切なくなるあのバンドのこの上なく優しいデビュー作! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

歌謡曲(J-POP)のススメ

音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 ‘70~’80年代の歌謡曲を中心にお送りしている本ブログですが、今回は、久しぶりに’90年代の作品を取り上げてみたいと思います

 今回ご紹介するシングルは、ある男性5人組バンドのデビュー曲です。リリース当時はまったく無名だった彼らも、7枚目のシングルがオリコン10位にランクインしたので、バンド名くらいはご存知の方がきっといると期待してるんですが、どうかなぁ・・・。これなんですけど()。


「Private Eyes」(RAZZ MA TAZZ)
作詞:阿久延博、作曲:三木拓次、編曲:佐久間正英&RAZZ MA TAZZ

[1994.4.21発売; オリコン最高位100位; 売り上げ枚数0.3万枚]
[歌手メジャー度★★★; 作品メジャー度★★; オススメ度★★★]



 バンド名はアルファベットを素直に読めば良くって“ラズマタズ”、大阪出身のバンドです。大阪のバンドといえば、最近こそflumpoolのように大阪色を感じさせないタイプが出てきましたが、古くは桑名正博ファニー・カンパニー、’90年代のウルフルズ、そしてシャ乱Q・・・というように、独特のノリと音楽性を誇る個性的なグループが多い
という印象が強かった。ところが、このRAZZ MA TAZZの音楽は、詞の世界、サウンド面のいずれにおいても非常にソフトで、ほとんど“大阪っぽさ”が感じられないんですよね・・・(「“大阪っぽさ”の定義とはなんぞや」という鋭いツッコミはなしでお願いしますよ)。ロックと呼ぶにはあまりにも甘いテイストのサウンド(これを世間では“軟弱”という・・・のため、アイドル系と認識されて軽んじられる傾向のある”因果なバンド”だったように思います

 そうそう、冒頭ではちょっと勿体ぶった書き方になってしまってすいません。オリコン第10位に入った7作目シングルというのは、「MERRY-GO-ROUND」(1996.4.15発売、オリコン最高位10位、売り上げ枚数11.7万枚)で、TBSの「COUNT DOWN TV」のオープニングテーマにもなった曲です。はてさて、一体どれほどの方がご存知なのか・・・


 RAZZ MA TAZZは、デビュー曲から6作目シングル「Season Train」まで、ずっと一貫してメジャーコード/ミディアムテンポのソフト路線を歩んでいました
彼らのそうした優しい作風が、私は非常に好きだったんですねぇ。ところが、(それが世間から“軟弱”と揶揄されたためか、はたまたいまいちヒットに恵まれなかったためか分からないのですが、)「MERRY-GO-ROUND」では、突如としてマイナーコード/アップテンポの曲へと”宗旨替え”して、これがスマッシュヒット  ところが私は、彼らがようやく世間に認知されることになったことを喜びつつも、戸惑いを隠せませんでした。今にして思えば、このヒットこそバンドの寿命を縮めてしまった元凶だったような気がしてならないのです・・・

 「MERRY-・・・」ヒット後の彼らは、進むべき方向性に大いに“迷い”の感じられるシングルリリースを続けた結果、セールスは再び低迷することに
。そして遂に1999年、一時は“ポストミスチル”、“ポストスピッツ”と期待されていた彼らは、シングル15枚とアルバム9枚を置き土産に、解散に追い込まれてしまいます。2002年にはさらに追い打ちをかけるように、RAZZ MA TAZZのほとんど全ての曲を作曲していたギタリストの三木拓次が、ガンのため33歳の若さで逝去・・・彼らの再結成は永遠に叶わぬ夢となってしまいました

 ・・・さて、気を取り直して、「Private Eyes」をご紹介しておきましょうね。魅力的なメロディは実際にYouTubeを聴いて戴くとして、この上なく優しさあふれる歌詞をどうぞ


   ♪ 偶然を笑った 約束を誓った 二人じゃないね
     ときめきのロケット 優しさのポケット なくしてる
     初めて逢った日の 見上げた空の青さは
     ほら果てしなく深かった
     口づけはなくって ロードショーのチケット 答えじゃないね
     積み上げたカセット お揃いのラケット 眠ってる
     このままお互いに何も言えずに
     せつなく三年目の夏を迎えるの?
   ♪ Private Eyes いつも見ているから
     ときどきは迷惑かけすぎてもいいよ
     だから Private Eyes ずっとそらさないで
     ときどきはぐれそうになるね 僕たちの Private Eyes

 「笑った」「誓った」、「ロケット」「ポケット」、「なくって」「チケット」、「カセット」「ラケット」と、律儀に韻を踏んでいるのにお気づきでしょうか。こんな話、’70年代の歌謡曲の職業作詞家に言わせれば“基本中の基本”なのかも知れないですケドね・・・。いわゆる“シンガーソングライター”もどきが大量に発生して作詞の基本ルールをなおざりにするようになった’90年代においては、(“流行”とは無縁だったかも知れませんがこの様式美を追究する姿勢はむしろ奇特だったと言っていいのではないでしょうか「傾奇者(かぶきもの)」を気取る「イカ天」出身バンドにすっかり辟易していた私が、RAZZ MA TAZZに惹かれたのは決して偶然ではなく、それなりに必然性があったということです



 さて、最後に若干補足をしておきましょう。私は決して、「MERRY-GO-ROUND」というヒット曲を否定しているわけではありません彼らの持ち味である“せつないメロディ”は相変わらず健在
ですし、作品としても非常にカッコ良く仕上がっていて、私の中での評価はむしろ高いくらい。だけど、彼らが本当にやりたかった音楽とはどこか違っていたのではないかなぁとついつい勝手な忖度をしてしまうんだな、これが。そんなこんなで、今も思い出すたびに切ない気持ちがこみ上げてくる・・・私にとっては特別な意味を持つバンドだったりするのです



 それでは、今回はこの辺でおしまいとします
。またお逢いしましょう~