浮気相手からの電話
大人の電話の内容に、聞き耳をたてるのが好きだった。
スマホとは違い、固定電話時代なので、狭い家で近くにいれば、嫌でも耳に入ってくる。
大人だけの中で育ち、低学年が全盛期の私からすれば、話の内容を察するのは容易だった。
ある時、電話が鳴った。
7人兄弟の母である。
ベルを鳴らすのは、そのほとんどが親戚だ。
私は電話に出るのが好きだった。
叔母や祖母からかもしれないからだ。
ワンコールで受話器に飛びついた。
「もしもし、〇〇さんのお宅でしょうか?」
知らない若い感じの女の人の声だった。
セールスならば、「お父さんもお母さんもいません。」これは私の担当だった。
「お母さんいますか?」と若い女は言った。
私は心得たとばかりに、「どちら様でしょうか?」と尋ねた。
「〇〇です。」と苗字を名乗った。
私にはそれがセールスかどうか判断がつかず、受話器の話口を手で塞ぎ、母に判断を仰いだ。
母はその名前を聞くと、子供の私でもわかるくらい、顔色が一変した。
私から受話器を奪い取ると、とても硬い口調で「はい」と、いつもより低い声で出た。
長い間と間のあいだに、強張った声で「はい」「はい」と、返答するばかりである。
(このパウダーでお母さんの顔色をよくしてあげたかった)