こういった話を聞いた今の職場の所長や、義弘、医者は凍りついた。

「これは酷いな。はらわたが煮えくりかえる話だよ。吉良はおよそ二十数年そういった理不尽などに耐えてきていたということか」

「でもこれは、まだ吉良さんが受けたもののほんの一部にすぎないのでしょうけどね」

「僕、吉良さんの話聞いて、マジで吉良さんの家族や加害者たちを殴りたくなったわ。こういうことが平気で行われていたというのが、本気であり得ない。むごすぎる。というより、今ニュースでもいじめを苦にした自殺が頻繁に取り上げられているのに、そんな彼らよりも酷い事件がまさかずいぶん前にあっていたとは。しかもその事実をもみ消すとか、被害妄想で片付けるとかありえない。人間の屑同然だよ」

「そもそも、親も親で異常過ぎる。そこまで数字にこだわらなくてもええのに。幼少時から何でそんな子供に高い数字を求めるのか。理解に苦しむな。親の品格も問われる内容や」

明人の話はまだ続いた。そのアスペルガー症候群の特性は、社会人になってからも、明人が苦労した要因だった。周囲の理解がなかったが故に。

ようやく入った小売業を営む会社でも、明人の独特な考えや、こだわり、やり方が理解されないどころか、コミュニケーションが苦手なこともあって、トラブルや「話が通じない、続かない」等の誤解が生じることのほうが多く、同僚たちは基本明人を避けた。そのため、明人はさらに生きることが息苦しく感じた。家族も給与を三割ほど渡すように強要していた。普通は自発的に家族にお金を入れるのに、それを強要するのはおかしな話。普通だと称して無理強いをさせていたのだ。明人は家族からも恐喝を受けていると思ってしまっていたが、そう思っても当然の結果だ。

職場の事務所の最高の上司は、明人の恋愛や人間関係など、口を挟んだり、意見をしたりすることもあった。それでも一度は明人の頑張りを認めた上で、多少責任のある仕事を任されるが、後任の新人が入ってきてからは、そっちのほうに教育をたっぷり仕込んだことにより、明人はいらない存在になったのだ。そのため、理不尽に左遷をされかけ、上司ともバトルに。当然アスペルガー症候群の特性もあって、明人の強いこだわりや権利を主張するも頭ごなしにすべてを否定され、会社の方針を強要しようとした。それが原因で、発狂を起こし、職場で倒れ、およそ一週間入院した。と同時に前の職場を離れたのだ。それも、明人が明人のことを理解されなかった結果のことだったが、それを上司や同僚、明人の家族は、ただの体調不良で片付けただけでなく、明人のことを勝手な妄想で盛り上がるバカな同僚もいたくらいだ。

しかもたまたま帰りに天神で出会った上司は明人に酷い暴言や罵声を浴びせてさらに精神的ダメージを負わせていたこともあった。

その後、明人は福岡市内の就職支援センターのお世話になり、サポートを受けるも、いい支援よりも、明人にとっては苦痛の支援ばかり。そして毎回の如く職員に近況を話すのも苦痛になるくらいに。